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天才魔術師の私が、異世界から勇者様を召喚するまで  作者: 楚々園 ゆるぎ
五章 地下迷宮を攻略しよう!

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Retrace:43 リッカの仕事

「まずリッカ、何故私にこの街に勇者が来ていることを告げなかったのですか?」


「……怒ってるんすか?」


「怒ってはいません。ただ、何故だと尋ねているのです」


 私の質問に、リッカは観念したように答えた。


「別に隠していたわけじゃないんすよ。この街にいれば、嫌でもあの勇者のことを噂で耳にしてたと思うっすから」


 勇者アイクの名は世界的に広まっているらしい。

 私がこの街にいれば、数日中には嫌でもその噂は耳にしていただろう。

 リッカは続けて言った。


「……まあ正直に言うと、私はこの件にセレン姉をあまり関与させたくなかったんすよ。あの帝国の勇者を、セレン姉は快く思ってないみたいっすから」


 勇者アイクを快く思っていない。

 そんな彼女の言葉に、私は目を細めた。


「……リッカ、貴方の考えは違うのですか?」


 私の問いに、彼女は首を横に振った。


「いや、私も同じ思いっす。だからこそ、セレン姉の気持ちも良く分かるんすよ」


「それなら……」


 私はそこで言葉を止めた。

 私は姫様に忠誠を捧げている。


 それはリッカも同じだ。

 だからこそ、彼女自身も私の考えていることが分かってしまうのだろう。


 リッカは少しだけトーンを落として、私に向かって口を開いた。


「帝国の勇者を不快に思うのは、姫さんに仕えている私達だけにしか分からない感情っす。姫さんの過去を知り、魔女の力を知る私達にとって、あの勇者のやってることが全部お遊びに見えるのはしょうがないことっすから」


 それはリッカの本音だった。

 帝国は魔女の力を甘く見ている。

 それは私達にとって侮辱と同じことだった。


「第一『【終わりの魔女】を殺す』なんて、軽々しく言える人の気が知れないっすよね……」


「そう、ですね……」


 少し言葉を詰まらせながらも、私はリッカの言葉に同意した。

 帝国の勇者は魔女について何も知らない。

 そんな彼らが好き放題に言っている状況に、私はただ不快感しか無かった。


「うちの姫さんの立ち位置を考えれば、私達にとって勇者アイクはただの邪魔者でしかない。というより、そもそもが相容れない関係っすね」


 勇者召喚を目指す姫様。

 帝国に選ばれた勇者。

 両者の関係は元より火と油である。


「でもセレン姉、帝国の勇者アイクには手出し無用っすよ」


 そう言ったリッカに対し、私は少しムキになって反論する。


「どうしてですか? 帝国の選定した勇者は、姫様の存在を否定しようとしているのですよ?」


 姫様の目的にとって、あの強引に選ばれた勇者はただの障害でしかない。


 姫様の敵。

 それは私達にとって敵である。

 だが、リッカは言った。


「障害と言っても、勇者アイクが姫さんに与える影響なんて正直微々たるものっす。だから、セレン姉は何も気にしなくていいんすよ」


「ですが……」


 今は何も問題ない障害でも、今後どうなるかは分からない。

 そんな私に対して、リッカは優しく笑みを浮かべた。


「大丈夫っすよ。帝国の勇者のことは、全て私に任せておいて下さいっす。あの勇者にはまだ利用価値があるっすから」


「利用価値……ですか?」


「そうっす。どう利用するのかは、まだ秘密っすけどね?」


 リッカは悪戯っ子ぽい笑みを浮かべた。

 秘密というのは少し気になるが、彼女のことは信頼している。

 けれども、これだけは聞いておかなければならない。


「利用と言いましたが、それに危険はないのですか?」


 帝国の勇者を利用する。

 それは彼女一人では荷が重すぎるのではないか?

 そんな質問に、リッカは飄々と答えた。


「全然余裕っすよ。まあ流石にヤバくなったら、セレン姉や姫さんに頼りますけど」


 どうやらリッカのその言葉に偽りは無さそうだ。

 勇者の監視は危険を孕んだ任務だが、彼女は優秀なので引き際は弁えているのだろう。


「リッカ、私は貴方を信頼しています。それは姫様も同じでしょう。ですから、決して無茶だけはしないように」


 私がそう告げると、リッカは素直に頷いた。


「了解っすよ、セレン姉。私があの時のような無茶をしたら、姫さんを悲しませることになるっすからね」


 少し遠い目をして、彼女はそう口にした。

 姫様にとって、リッカはかけがえのない友人だ。


 歳が近いこともあるのだろう。

 けれど、それ以上にリッカと姫様の繋がりは深い。


 実は姫様に仕えている部下の中で、一番古参なのは私でも、ネルファでもない。

 このリッカなのだ。


 そんな彼女に何かあれば、姫様はどう思うだろうか?

 きっと悲しむに違いない。


 それはリッカもしっかり理解しているようだった。

 なので、これ以上は私からは言うことは何もない。


 一通り話が終わったところで、リッカは改めて口を開いた。


「必要なことは大体話終えたんで、そろそろ私は出ていくっすよ」


 この部屋で彼女とはお別れだ。

 そう思うと、私の中に再び寂しさが浮かんでくる。


「ここからはセレン姉一人っすけど、地下迷宮への入り方や冒険者のルールなどは、道中に伝えた通りなんで頑張って下さいっす」


「分かりました」


 私が頷いたのを確認し、リッカは言った。


「それじゃあ、二週間後にまた顔を出すことにするっす。その時、セレン姉の魔法陣調査が終わっていれば、また一緒に姫さんの元に帰るっすよ」


「はい。それではまた二週間後に」


 リッカと次に会えるのは二週間後。

 彼女のサポートが無くなるのは厳しいが、これも姫様の為。

 とにかく頑張るしかない。


「あっ! 言い忘れてたことがまだあったっす!」


「何ですか?」


 部屋を後にしようとしたリッカは、何かを思い出したように振り返った。


「セレン姉、もし街中で私を見掛けた時は、絶対に無視して下さいっす。もし話し掛けたりしてきても、私は聞こえない振りをするんで」


 リッカは勇者を監視するために、この都市に来ている。

 その仕事の邪魔をするつもりはない。


「分かりました。貴方を街で見掛けても、絶対に話し掛けないと約束します」


「助かるっす。それじゃあ改めて、魔法陣の調査頑張って下さいっす」


「はい。お互いに頑張りましょう」


 私とリッカは互いにそう言葉を交わし、この部屋で別れることになった。

 これから私達はそれぞれの仕事に集中しなければならない。

 全ては姫様の幸せの為に――。

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