Retrace:41 都市・フラミア
「ここがトワリアル地下迷宮のある都市・フラミアですか?」
「そうっす。通称・迷宮都市フラミア。なんと世界一冒険者が集まる都市らしいっすよ」
私――セレンは今、リッカと共に都市の入り口に立っていた。
迷宮都市・フラミア。
迷宮の上に築かれたこの都市は、まさに冒険者の街と言ってもいい。
軽く見た限りでも、往来を行き来する多くの人は、大抵武装している冒険者なのだ。
基本的に彼らは魔物を倒し、その素材を売って生計を立てている。
トワリアル地下迷宮の内部には、珍しい魔物が生息することから、それを素材を目当てとした冒険者が多く集まるのだろう。
「かなり活気のある都市みたいですね。少し驚きました」
通りをゆっくりと歩き、私はそう口にした。
すると、横からリッカが言った。
「まあ冒険者以外にも、色んな人がやって来るみたいっすから。やっぱり人の集まるところに、お金が集まるってことなんすかね」
冒険者の姿を一番多く目にするのは間違いないが、リッカの言う通りでそれ以外の人の姿も多く見られた。
冒険者の次に多く見かけたのは商人の姿だ。
彼らは魔物の素材を取引したりするのだろうか?
そんなことを考えていると、リッカが口を開いた。
「パッと見た限りでも、迷宮の生み出す利益がこの都市の中心ってことっすよね。迷宮の魔物目当てで冒険者が来て、その冒険者目当てで宿屋や武器屋が繁盛する。それでいつしかこんなに立派な都市になったなんて、色々凄いっすよね」
「確かに凄いですね」
私は素直に驚いていた。
ここまでの道中に立ち寄った地方の都市や街とは、人の活力が全然違うように感じられる。
それから、しばらく私とリッカは通りを歩いた。
ただ歩いているだけなのに何故だろうか、すれ違う人達が私の方をチラチラと見ている気がする。
「……何でしょう? 度々視線を感じますが?」
私が首を傾げると、リッカがその答えをくれた。
「セレン姉が美人ってこともあるっすけど、一番はその服装なんじゃないっすか?」
「服装ですか? 私の服装の何がおかしいのでしょうか?」
怪訝に質問した私に、リッカは言った。
「ほらセレン姉、メイド服のままじゃないっすか? だからかなり目立ってるんすよ。何せここは冒険者の街っすから」
「ああ、なるほど」
道行く人は大抵が冒険者。
武装している人が多く、その中でメイド姿はとても奇異に映るのだろう。
「それにしてもリッカ、貴方の服装はとてもこの街に馴染んでますね」
「まあ職業柄、馴染まないとやってけないっすから」
そう言ったリッカの出で立ちは、シーフのような身軽な格好だ。
冒険者だらけのこの街に、彼女はとっくに溶け込んでいた。
「ところで、セレン姉はずっとそのメイド服だけで過ごすつもりっすか?」
「はい。着替えのメイド服も持ってきていますし、抜かりはありませんよ」
私は手に持つトランクを軽く叩いてみせた。
すると、リッカは言った。
「けどやっぱりメイド姿だと、目立ち過ぎじゃないっすか? 道中が街でもかなり目立ってましたし」
「メイドがメイド服を着て、何がおかしいことがあるのですか?」
「いや、別に無いっすけど……。本当にメイド服のまま過ごすつもりなのか聞いただけっす。一応服屋を見掛けたんで……」
リッカの指差した先には、確かに服が売っている店があった。
しかし、私にはメイド服がある。
「他の服は不要です。私はいかなる時でも、姫様のメイドなのですから」
「そうっすか。なら良いんすけど……」
何故だかリッカは諦めたような顔をしていた。
どうしてそんな顔をするのか理解出来ない。
私は姫様のメイド。
それに誇りを持っている。
例え姫様の傍を離れても、この服装こそが私の正装なのだ。
「あっ! セレン姉、ようやく宿屋についたっすよ」
「これが貴方のオススメする宿ですか……?」
話をしている間に、最初の目的地であった宿屋についたようだ。
しかし、これがリッカのオススメする宿なのか。
一見すると普通の宿に見える。
どうやら宿泊費も高くはないが、安くもない丁度中間くらいの値段のようだ。
「本当にここで合っているんですか?」
「はいっす。さあ、中に入って早く部屋をとっちゃいましょう!」
「分かりました」
リッカに促されるまま、私は宿の受付に向かう。
対応してくれたのは、身なりの整った女性従業員だった。
彼女に向かって、リッカは手慣れたように手続きをする。
「二週間、女性一人でお願いするっす。空きがあれば部屋は浴室とトイレ付きを希望したいんすけど?」
「少々お待ち下さい。……現在、御希望のお部屋に空きが御座いますので、問題なくご用意出来ます。失礼ですが、ご利用のお客様は一名でよろしかったですか?」
従業員の質問に、私は思わずリッカに視線を向けた。
すると、彼女は言った。
「ここにはセレン姉だけっす。私は用事があって、一緒に泊まれないっすから」
てっきりリッカも一緒の宿に泊まると思っていた私は、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
用事があるとは聞いていたが、まさか一緒に泊まれないとは思わなかった。
ここまでリッカの旅知識に頼っていた分、私は少し不安になったのだった。




