幕間:9 勇者アイク
※アイク視点
トキリス公国の端にある都市・フラミア。
そこにはトワリアル地下迷宮という有名な場所が存在する。
俺――アイクは仲間達と共にその地下迷宮を探索し始め、それなりに日にちが経っていた。
「勇者パーティーの皆様、この度は本当にお手柄でした!」
そう口を開いたのは、おかっぱ頭に丸顔が特徴的な中年の男性だった。
彼の名はホルトビー。
フラミアという街の冒険者ギルドを預かる、ギルドマスターの立場にある男だ。
そんなホルトビーに案内され、今の俺達は冒険者ギルドの二階にある応接室にいた。
高級なソファーに、ティアナ、俺、ラッシュの並びで腰を掛ける。
そして俺達に対面するように、ホルトビーが座った。
「素晴らしい成果です、勇者様! 流石と言うべきでしょうか!」
目を輝かせ、饒舌に語り始めたホルトビー。
彼の大袈裟で芝居がかった語り口に、俺達はただ生返事を返していた。
話の大筋までが長い。
それがこのギルドマスターの男に対する皆の共通理解だった。
ところで、この場に呼ばれた俺達のパーティーの中にはアミィだけがいない。
あの小柄な軍服少女がここに呼ばれていないのには、ちょっとした理由がある。
彼女は俺と帝国とを繋ぐ連絡役を担っているので、今は国に報告をしに行って貰っているのだ。
その報告の内容は、勿論俺が英雄剣・カリバーンの担い手になったことだ。
国への連絡だけなら、何もわざわざアミィ自身が直接出向く必要は無いと思う。
トキリス公国と帝国との距離を考えれば、他の人に任せる方が効率的だ。
しかしそんな俺やティアナの考えに対し、アミィは首を横に振った。
『英雄剣の担い手になったということは、アイク様が魔女を倒す資格を得たも同然です。この情報を漏洩することなく、帝国の上層部に持ち帰るのは私しか出来ません』
そんなことを強く言われては、俺は大人しく引き下がるしか無かった。
彼女が言うには、情報は黄金よりも価値があるそうだ。
俺がカリバーンを手に入れた情報も、ひとまず帝国の上層部に持ち帰り、そこからどのように扱うのかを検討するらしい。
かなり厳重な情報管理の体制が敷かれている。
そこまでやるか? という俺の認識は、どうやら間違っているようだ。
そもそも田舎者の俺には、情報の価値に関する認識が甘かった。
そんなアミィももうすぐ帰ってくる筈だが、情報部は本当に大変な仕事を任せるものだ。
帰ってきたら彼女を十分に労ってやろう。
ぼんやりとそんな事を考えている間に、ホルトビーのウンザリするような称賛が終わったようだ。
「勇者様、私は本当に驚きました。まさかこの短期間で地下迷宮を七層まで攻略し、あの伝説の鉱石・ヒヒイロカネの原石までも持ち帰るとは!」
「運が良かったな。少量だろうとヒヒイロカネなんて滅多に見つかるもんじゃねえ」
興奮するホルトビーを横目に、ラッシュはそう口にした。
地下迷宮の奥で、偶然発見した小石。
俺はただの石ころだと思ったのだが、博識なティアナがこれはヒヒイロカネの原石ではないかと言い始めたのだ。
そして彼女の言う通り、俺達はその石ころをギルドに持ち込んでみた。
すると、それは本当にヒヒイロカネだったのだ。
「それでは勇者様、ヒヒイロカネはこちらで買い取らせて頂いてよろしいですか?」
「はい。お願いします」
ホルトビーの言葉に、俺はパーティーを代表して頷く。
「かしこまりました。値段の査定を行いますので、三日後にまたお立ち寄り下さい」
「分かりました」
このやり取りを終え、
ホルトビーは再び称賛を口にする。
「しかし、流石勇者様です。このトワリアル地下迷宮は腕に覚えのある冒険者でもいけるのは五層までがやっと。しかし、この短期間で勇者様方は七層まで攻略なされた。これなら最下層である十層まで容易に辿り着いてしまうかもしれませんな!」
「十層が最下層何ですか?」
ホルトビーの言葉に、俺はそう尋ねた。
すると、彼は答える。
「はい。記録上では、トワリアル地下迷宮は十層までしかありません。十層よりも更に下層があるという噂もありますが、根も葉もない噂でしょう」
地下迷宮は十層までしかない。
この短期間で俺達は七層目を攻略したので、時間さえあれば十層まではいけなくもないだろう。
そんなことを考えていた俺の隣で、ティアナが口を開いた。
「十層と言えば、その層の最奥には転移魔法陣なる特殊な魔法陣があると聞きます。魔術の研究者として、一度でもいいからお目にかからねば」
ティアナは相変わらず魔術のことに関しては熱心だ。
そんな気合いを籠った彼女の様子に苦笑しつつ、俺はギルド長にとある質問をした。
「けど、本当に良かったんですか? 冒険者登録したばかりの俺が、いきなりSランク冒険だなんて」
「何を言いますか! 世界を救いになられる勇者様の実力は、既にこれまでのSランク冒険者をも凌ぐ程です。そんな御方にランク上げなどという行為は不要でしょうからな」
そう言って、ホルトビーは笑った。
勇者に認定された者には、特例でSランク冒険者の称号を与える。
冒険者ギルドではそういう決まりになっているらしい。
これも『勇者特権』ということなのだろう。
俺とホルトビーがそんな会話を交わしていると、部屋のドアがノックされた。
「……失礼します」
そして部屋の中に入ってきたのは、俺達のよく知る人物――アミィだった。




