Retrace:36 夕食後
夕食を終え、私は食後のティータイムを満喫していた。
セレンの作った料理が美味しくて、ついつい食べ過ぎちゃったわ。
お腹がパンパンだから、しばらくは椅子から動けそうにないかも。
そんな私の傍には、リッカとネルファが同じように膨れたお腹をさすっていた。
ちなみにセレンは料理に使った食器を片付けている為、既にこの場にはいない。
そんな中で、リッカが気軽に口を開いた。
「そう言えば、帝国の勇者アイクが一週間程前に、トキリス公国で聖剣を手に入れてたっすよ」
「勇者アイク? ああ、帝国が選んだっていう偽勇者ね」
忘れてた。
そう言えば、そんなのがいたわね。
私はリッカに尋ねた。
「それで、聖剣というのはあの七聖剣のことよね?」
「そうっす。ちなみに偽勇者アイクが手に入れた聖剣は、英雄剣・カリバーンって名前の剣っすよ」
リッカのその言葉に、ネルファが顎に手を当てて言った。
「ふむ、英雄剣か……。確かトキリス公国の地下に眠るとされる、伝説の勇者の剣だな?」
「その通りっす」
ネルファの言葉に、リッカは頷いた。
「へぇ~そんなのがあったんだ」
私は思わず感嘆した。
流石ネルファ、剣については詳しいわね。
「それで英雄剣ってどんな力を持ってるの? もしかして、刃先からビームとか出るタイプ?」
太陽剣・ガラティーンは刃先からビームが出るタイプだった。
私はそれ以外の七聖剣を見たことがない。
私の言葉に、リッカはその首を横に振った。
「残念ながらビームは出ないみたいっす。私も実際に使用したところを見たことはないんすけど、カリバーンの能力はおそらく魔術を破壊するもののようっすよ」
「魔術を破壊する……? 術式そのものを分解するのかしら? それとも魔力自体を拡散させるってこと?」
「その辺は私も確認不足なんで、よく分からないんすよね。何せ他の聖剣と違って、カリバーンは百五十年間担い手が現れなかったらしいんで、過去の資料を当たっても詳細な能力までは分からなかったんすよ」
リッカがそう言うと、ネルファもウンウンと頷いていた。
「でも、魔術を壊すかぁ……。まるで魔女を倒す為に存在するような聖剣ね」
「実際に英雄剣・カリバーンは、過去の魔女との戦いで勇者が手にしていた聖剣ですから」
ネルファがそう教えてくれた。
「そう言えば、リッカは知ってたの? 聖剣って剣自体に認められた人間にしか使えないんだって」
私がそう言うと、リッカは答えた。
「勿論知っていたっすよ。常識っすから」
常識らしい。
私、この前初めて聞いたんですけど!?
「ねえ、ネルファはこのことを知ってたの?」
「はい。常識ですから」
やっぱり常識らしい。
そもそも『聖剣化』の能力を持つネルファが知らないわけないか。
「じゃあ聖剣が認めた人間以外が剣を持つと、一体どうなるの?」
「その場合は腕が上げられない程、手にした聖剣が重くなるのですよ」
「お、重くなるんだ……」
やっぱり前に私が太陽剣・ガラティーンを普通に持てたってことは……。
あれ? ちょっと待って?
私のあの太陽剣ってセレンも普通に持ててたよね?
「ネルファ、七聖剣って一度に何人も認めるものなの?」
すると、彼女は答えた。
「はい。一本の聖剣が何人もの人間に使用を認めることはあります」
「じゃあ私やセレンはあの太陽剣に認められたってことなのね。でも、私なんかが聖剣なんて使えていいのかしら?」
「おそらくその聖剣も感じたのでしょう。ノルン様の放つ偉大なオーラを」
染々と呟くネルファ。
引きこもりの私に偉大さなんてあるのかしら?
「それにしてもリッカ、偽勇者が聖剣を手に入れたなんて情報をよく伝えてくれたわね。これってほんの一週間前の情報なんでしょ?」
トキリス公国からここまではかなりの距離がある。
それを踏まえると、リッカはこの情報を私達に最短で知らせてくれたのだ。
「一応その偽勇者が英雄剣・カリバーンに認められたってのは、まだ非公表の情報なんすけどね」
「そうなの?」
「はいっす。近日中には各国に通達されるとは思いますけど」
「そんな情報をすぐに手に入れてくるリッカは流石ね」
「ははっ、姫さんに褒められると照れるっすね」
リッカは頬を染めながら、照れ隠しに頭を掻いている。
「いつも疑問に思ってたけど、そんな情報をリッカはどうやって仕入れてくるの? 協力者がいるとか?」
諜報活動はリッカ一人に一任してるから、実際彼女がどうやって情報を手に入れてくるのかは何も知らない。
ただあまりにもリッカが優秀過ぎるので、ちょっと気になってしまった。
「協力者と言うよりは、こっちが一方的に利用してる関係って感じっすかね。まあコネクションは沢山持ってるんで、それを時と場合で使い分けてる感じっすか?」
「うーん、漠然としすぎてよく分からないわ」
リッカのボカした説明では、私はちょっと理解出来なかった。
「まあ話すと長くなるんで、今は企業秘密ってことにして下さいっす。でも、大体は変身しての潜入調査っすけどね」
そう言った彼女に、私は尋ねる。
「どんな動物に変身してるの?」
「勿論、一番潜入しやすい動物っすよ!」
リッカはそう口にして、その姿を『動物化』によって黒猫に変化させる。
そして、椅子に座る私の膝にピョンと飛び乗ってきた。
まったくリッカったら。
そんなに私に甘えたいのかしら?
よしよし。
猫になったリッカの首回りを、私は重点的に撫でてあげた。
毛並みがいいので、モフモフで気持ちいい。
私が黒猫姿のリッカを撫でていると、ネルファが口を開いた。
「潜入しやすい動物……もしや蚊か?」
まさかの昆虫って説はあるわね。
ハエとか蚊なら潜入も簡単そうだし。
そんなネルファの発言に、リッカは猫のまま言葉を返す。
「流石にそこまで小さい動物は無理っすよ。私が変身出来る限界は、精々ネズミくらいの大きさっすね」
瞬間、リッカの姿が青白い光に包まれた。
そして真っ白な子ネズミに変身したリッカは、可愛げのある動作で私の肩によじ登る。
そのネズミの大きさは、大体私の手のひらくらいだ。
これがリッカの変身出来る限界の小ささのようである。
「まあ、こんなもんすね」
そう口にして、リッカは私のもとから離れる。
そして、彼女は元の少女の姿に戻った。
リッカのワイバーンからネズミまで、大小様々な動物に変身出来る。
そんな万能な変身能力も、昆虫になることは無理らしいけど……。
それでリッカはどんな動物で潜入してるのか?
その質問の答えは、結局最後まで分からないままだった。




