Retrace:35 晩餐
私の部屋に長テーブルを置き、皆で食卓を囲んでいた。
並べられた豪華な料理の数々。
それらは全てセレンが一人で作ったものである。
どれも美味しそうな料理ばかりで、何から手をつけようか迷っちゃう。
まあどの料理でも美味しいのは間違いないんだけど。
そんな事を思いながらも、なんだかんだで私は食事を開始した。
リッカもネルファも各々食べ始めている。
まず私は手近な位置にあったチキングリルに手を伸ばす。
うん、美味しい!
「私、肉の中では鶏肉が一番好きだわ。豚も牛もいいけれど、やっぱり鶏肉の美味しさには敵わないわね」
私がそう言うと、リッカも同意してくれた。
「分かるっす。このくどくないのがいいっすよね」
彼女の言う通り、鶏肉はあっさりしていて脂身が少ない気がする。
だから私は鶏肉派だ。
パリッと香ばしく焼かれた鶏のモモ肉。
それを口一杯に頬張り、私はそう確信していた。
皮と肉を一緒に食べれば更に美味しい。
塩加減も絶妙で、スパイスが良いアクセントを効かせている。
鶏肉美味い!
安定して美味い!
すると、隣に座るネルファが言った。
「私は断然牛肉派ですね。やはりステーキの食べごたえはこちらが上でしょう!」
「へぇ~ネルファは牛肉派なのね」
彼女がそんな感想を述べているので、私も試しに牛肉を食べてみよう。
食べやすく一口サイズにカットされたサーロインステーキ。
焼き加減はミディアム!
私はそれをひょいっと口に入れ、味わうように咀嚼した。
うまっ!
なにこれ! なにこれ! なにこれ!
「――思い出した。やっぱり私、牛肉派だったわ」
「寝返るの早くないっすか!?」
「だって! だって! これ滅茶苦茶美味しいんだもん!」
私がそう声を上げると、後ろで給仕に専念しているセレンが言った。
「今日は特別に、普段の牛肉より上のランクを使用しています」
「なるほど。だから美味しいのね。納得だわ」
本当に美味しい牛肉には、ぶっちゃけ勝てない。
だって食べた瞬間に舌の上から消えるのよ!?
意味わからないわよね!?
飲み込むまでもなく、口の中から風味と甘美な味わいだけを残して消えていく。
どこか寂しさがあるけど、これがサーロインの美味しさなのよね。
ちなみにネルファがガツガツ食べていたのは、赤身のステーキの方だった。
確かに赤身なら食べごたえがあるわね。
「このステーキ、本当に美味しいわ。貴方も食べたらどう?」
「いえ、私は結構です。姫様方で美味しく頂いて貰えれば……」
私の後ろに控えるセレンは、つれないことを言う。
確かにメイドがご飯を一緒に食べるのは変な気もするけど、彼女だけ仲間外れな感じがするのはもっと嫌だ。
「セレン、これは貴方の為のパーティーでもあるのよ? そんな寂しいこと言ってないで、セレンも食べなさい」
私は手近にある一口サイズのステーキをフォークで刺す。
落とさぬように片手に受け皿を持ち、肉を丁寧にセレンの口まで運ぶ。
「はい、セレン。あーんして?」
「……失礼します」
少し迷ったようだが、セレンは大人しく食べてくれた。
「どう? 美味しい?」
「美味しいです。とても」
「良かったわ! 作らせた甲斐があったわね!」
私が笑顔でそう言うと、ネルファが必死になってしまった。
「ノルン様、私も! 私のお肉も食べて下さい!」
「はいはい。分かったわよ」
必死なネルファをあしらいながらも、食事は続いた。
やっぱり皆でご飯を食べるのは良いわね。
昔の私のままであったのなら、これは絶対に味わえなかった幸せだ。
私が幸福感を噛み締めていると、セレンがデザートを持ってきた。
「イチゴタルトね! 美味しそうだわ!」
デザートは真っ赤なイチゴをふんだんに使ったタルトだった。
「これはリッカがお土産に持ち帰ってきたイチゴを使っています」
「そうなの?」
「流石に手ぶらで帰るのはどうかと思ったので、道中に寄った街で特産物だったイチゴを買ってきたんすよ」
どうやらリッカは私と会う前に、セレンにそれを渡しておいたようだ。
「とりわけ高級なイチゴを買ってきてくれたようなので、いつも以上に腕によりをかけて作らせて頂きました」
セレンの言葉に、私は思わず喉を鳴らす。
「ゴクリ……」
セレンの手によって人数分に切り分けられ、私の前にタルトが運ばれてくる。
配慮なのか、皆よりも多くイチゴが乗っていた。
シロップによって甘くコーティングされ、ぎっしりとタルト生地に敷き詰められたイチゴは、まるで磨かれたルビーのような輝きを放っている。
こんなの絶対美味しいに決まってるじゃない。
「……」
私は恐る恐る手を伸ばした。
そして、一口だけ食べる。
サクリと優しい音がして、続けてイチゴの味が全身を突き抜けた。
イチゴの持つ甘酸っぱさと、シロップの絶妙なハーモニー。
くどくない。
寧ろ、爽やかさだけがそこにはあった。
こ、こんなの……耐えられないっ!
私の着衣が弾け飛び、一糸纏わぬ姿で私は空を駆け巡る。
そんな幻を見た気がした。
「滅茶苦茶美味しいわ。やっぱりセレンは料理が上手ね……」
「ありがとうございます」
私の言葉に、セレンは満足そうに礼を言った。




