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天才魔術師の私が、異世界から勇者様を召喚するまで  作者: 楚々園 ゆるぎ
四章 地下迷宮を調査しよう!

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Retrace:33 リッカ帰還

 ある日、私が自室で研究資料を捲っていると、コンコンとドアをノックをする音がした。

 そして、外からネルファが告げた。


「ノルン様、たった今リッカが帰ってきました」


「えっ、リッカが!?」


 私は驚いて、思わず立ち上がってしまった。

 リッカが帰ってくるなんて、滅多にあることではない。


 それについこの間、報告の手紙を読んだばかりだ。

 どうしたのだろうか?


「ネルファ、リッカをこの部屋に通しなさい」


「はっ!」


 ネルファはそう答え、部屋のドアが開けられた。

 そして中に入ってきたのは、シーフ姿の金髪の少女・リッカだった。


「大体二ヶ月ぶりっすね、姫さん! 研究は進んでますか?」


「ええ、久しぶり。残念なことに、研究はあれから全く進んでないわ」


 私は溜息混じりにそう言った。


「そう言えば、庭にヘンテコな石像がありましたけど、あれは何なんすか?」


 ヘンテコな石像……?

 ああ、ゴーちゃんのことね。


「それについては後で話すわ。それでリッカ、今日はどうしたの? 貴方がこんな頻度で帰ってくることなんて、今まで一度も無かったでしょ?」


「実は少しだけ時間が取れたんで、姫さんに報告も兼ねて帰って来たってだけっすよ。でも、明後日にはまた任務に戻らないといけないんすけど……」


 リッカはそう言って、少し申し訳なさそうに頬を掻いた。

 そんな彼女の姿に、私はちょっとだけ安心した。

 リッカが情報収集の仕事を担っている関係上、何か切迫した事態が迫っているのではと邪推してしまった。


 そうよね。

 リッカの戻ってくるべき場所は、私のいるところなんだから。


「リッカ、仕事帰りで疲れたでしょ? とにかくそこの椅子に座って待ってなさい。セレンにお茶を用意させるわ」


「りょ、了解っす」


 少し恐縮した様子をみせながらも、リッカは指示通りに動く。


「さて、私も一旦休憩にするわ」


 さて、休憩。休憩。



 ◆



 この場には、リッカの他にセレンとネルファの姿もある。

 私達は皆でテーブルを囲み、ティータイムを楽しんでいた。


 セレンが用意してくれたクッキーを食べていると、リッカが私に向かって口を開いた。


「そう言えば姫さん、私の送った手紙は読んでくれましたか?」


「あの手紙ね。ちゃんと読んだわ」


 私のとこに届いたのはまだ最近だし、内容もちゃんと覚えている。

 私はリッカに言う。


「確かトワリアル地下迷宮ってとこに、転移させる魔法陣があるって話だったわよね?」


「そうっす。場所がトキリス公国なんで、ここからかなり遠いっすけど」


 そうなのよね。

 トキリス公国までは、行き帰りで大体三ヶ月もかかる。


「転移させる魔法陣って言うんだから、絶対空間魔術に関係してるんだろうし、研究サンプルとして見ておきたいのよね。でも流石に遠いからどうしようかと思って……」


 私が悩ましげにそう言うと、リッカが口を開いた。


「実は姫さんにお伝えしておきたいんすけど、明後日から私は別の用事でトワリアル地下迷宮まで向かうことになりまして……」


「え? そうなの?」


「えーと、つまり言い出した筈の私自身が、トワリアル地下迷宮に行くことになったんすよ。なんで、わざわざ姫さん達が調査に向かう必要は無くなったってことっすね」


 どうやらトワリアル地下迷宮の事を教えてきたリッカ自身が、数日以内にそこへ向かわなければいけない事情が出来たらしい。


「ふーん、なるほどねぇ……。ということは、リッカがその魔法陣の調査をしてくれるってことなの?」


「はいっす」


 リッカは頷く。

 すると、私の傍でセレンが言った。


「リッカ一人で本当に大丈夫なのですか? それに貴方は、別の用事で地下迷宮を訪れるのですよね?」


 セレンの言葉に、リッカは答えた。


「それはまあ……大変っすけど、姫さんの為に頑張るっす!」


 胸の前でギュッと両手を握るリッカ。

 私の為に頑張ってくれるのは嬉しいけど、ちょっと彼女には負担を掛けすぎている気がする。


 そもそも国外の情報収集を一人で任せているだけでも、かなりの仕事量の筈だ。

 私は少し考え、口にした。


「リッカの心意気は分かったけど、やっぱり一人にここまでの負担を掛けるのは良くないと思うの」


「姫さん、そんなことは……。私は全然大丈夫っす!」


 リッカは首を強く振るが、今回ばかりは譲れない。


「リッカ、私は別に貴方の能力を疑っているわけではないの。ただ貴方に、これ以上の無理はしないで欲しいのよ」


「姫さん……」


 リッカはそれ以上何も言わなかった。


「今回、リッカは魔法陣を調査する必要はないわ。別の用事って方を優先しなさい」


「姫さんがそう言うなら、大人しく従うっす……」


 肩を落としながらも、リッカはそう口にした。

 別の用事とやらが一体何なのかは知らないが、私は彼女にそれを尋ねるつもりはない。


 諜報の話は多分私が聞いても分からないだろうし。

 リッカの仕事に、私が細かく口を出すことはしないと決めている。


「しかしノルン様、結局魔法陣の調査はどうするのですか?」


「それなのよね、問題は……」


 ネルファの言葉に、私は息を吐く。

 魔法陣の調査をどうするのか?

 結局、これが一番頭の痛い問題だ。


 みすみす空間魔術の手掛かりを逃すのは、全くの論外である。

 つまり誰か一人は調査に向かわないといけない。


「まず前提として、私はこの部屋から動かない。ネルファはこの部屋の警備の(かなめ)だから、絶対に動かせない」


 私は整理するように口にしていく。

 当たり前だけど、私自身は部屋から出るつもりはない。

 ネルファは私の持つ最高戦力だから、この研究室を守って貰わないといけない。


「それにリッカには、これ以上の無理はさせられない。となると――」


 消去法でいけば、導かれるのはたった一人。


「つまり、私ですね」


「ええ、セレン。貴方しかいないわ。行けるかしら?」


「構いません。ですが前も話した通り、長い期間姫様の元を離れるのは不可能です」


「そうなのよね……。私もセレンが長い間いないのはキツいし……」


 私が研究に没頭出来ているのは、メイドのセレンがいるからだ。

 それに長い期間彼女が傍いないというのは、生活面から見ても中々厳しいものがある。


「確か馬車で向かうだけでも片道に一ヶ月半くらい掛かるんだっけ? どうにか他の移動手段はないのかしら?」


 私が悩んでいると、隣でリッカが手を上げた。


「それなんすけど、私がそのままセレン姉を地下迷宮まで送っていくってのはどうっすか?」


 彼女はそう提案し、続けて私達に説明した。


「私の『動物化(アニマルチェンジ)』があれば、トワリアル地下迷宮までは一週間っすよ。行き帰りで二週間。あっちで迷宮を調査することを考えると、大体一ヶ月で帰ってこれるっす」


 行き帰りで二週間!?

 普通に行ったら三ヶ月の道のりを、二ヶ月も短縮出来るじゃない!


「それ採用!」


 リッカのその提案に、私は一つの希望を見付けた気がした。

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