幕間:7 勇者アイク
「英雄剣・カリバーン――ですか?」
ロメウ公王の言葉を、俺は驚きと共に反芻した。
七聖剣。
それは世界に七本だけ存在する伝説の剣だ。
「アイク殿にわざわざこの国までお越し頂いたのは、そのカリバーンが宮殿の地下から動かせないからなのです」
ロメウはそう言った。
そして、とある歴史を口にした。
「百五十年程前に、魔女との戦いを終えた勇者の一人が英雄剣・カリバーンをこの宮殿の地下に置いていったのです。『次の担い手が現れるまで、この剣をここで眠らせておけ』と、そう言い残して」
「つまりアイクがその次の担い手ということですか?」
そう尋ねたティアナの言葉に、ロメウ公王は首を横に振った。
「それはまだわかりませぬ。所有者を選ぶのは、あくまで聖剣ですので」
聞いたことがあるが、聖剣は自分に相応しい所有者を選ぶらしい。
「ですがカリバーンは他の聖剣と違い、簡単には所有者を選びませぬ。多くの人間がこれまで選ばれようと試みたものの、未だ誰一人として聖剣に認められた者はいないのです」
ロメウ公王がそう言うと、ラッシュが続けて口にした。
「簡単に言うとだな、カリバーンって聖剣はこれまで勇者以外の人間を誰一人として認めていない、とんだ堅物の性格ってことだ」
勇者以外には所有出来ない聖剣。
それがこの宮殿の地下に眠るという、英雄剣・カリバーンらしい。
「聖剣は剣に選ばれた者しか使えないというのは知っていますが、剣そのものに性格なんてあるんですか?」
俺がそう尋ねると、ラッシュは答えた。
「あるぜ。しかも、七本ともそれぞれ違う性格をしているらしい」
「随分と詳しいですね、ラッシュさん」
俺がそう言うと、彼は当たり前だという顔をした。
「詳しいに決まってんだろ。何せ俺はその聖剣の一本を所持してんだからな」
「えっ!?」
「だからわざわざ俺がここに呼ばれてんだぜ? 数少ない聖剣の担い手として、お前が無事聖剣に選ばれるのかを見届ける為にな」
「ラッシュさんが、聖剣の担い手……?」
「ああ。七聖剣が一つ、雷光剣・ティルファング。それが俺の相棒の名前だ」
そう言って、ラッシュは腰に下げた剣を抜いた。
雷光剣・ティルファング。
それは崇高な輝きを剣身に宿す、素晴らしい剣だった。
「一度だけ見たことがありますが、やはり聖剣というだけあって凄い存在感ですね」
俺がそう言うと、ラッシュが意外そうに口にした。
「へぇ? このティルファング以外の聖剣を見たことがあるのか?」
「はい。俺の師匠が一振りだけ所持していました」
「どんな名の聖剣だ?」
「たしか月照剣・デュランダルだった気がします」
「デュランダルを持っているってことは、お前の師匠はあの『剣聖』か!」
驚いた顔をしたラッシュに、俺は頷いた。
「はい。『剣聖』・エルザールが俺に剣を教えてくれた師匠です」
「マジか。あの『剣聖』が『紅剣』以外に弟子を取るとはな……」
『紅剣』?
どこか聞き覚えはあるものの、それが誰なのか俺は知らない。
俺が首を捻っていると、ロメウ公王が言った。
「それではアイク殿、これから英雄剣・カリバーンの元に案内させて頂きますぞ」
◆
ロメウ公王に案内され、俺達が訪れたのは宮殿の地下だった。
その地下には古い扉があり、それは先の見えぬ暗い洞窟への入り口だった。
「足元にお気を付け下され」
ロメウ公王がそう言うように、宮殿の地下は真っ暗で明かりがなければ何も見えない。
ティアナが魔術で明かりを作ってくれている為、前に進むのには困らないが。
俺達はロメウ公王に先導されて、一本道を真っ直ぐ進んだ。
そして、目的地に辿り着いた。
洞窟の奥にあったのは、綺麗な水の溜まった地底湖だった。
その湖は底が見えるくらいには浅い。
「不思議な場所ですね……」
そう呟いたのはアミィだった。
あまり積極的に言葉を発しない彼女が思わず口にしてしまう程、俺達の目の前に広がる光景は幻想的だった。
「ここは特殊な霊地となっているのです。魔力を帯びた鉱物が、こうして青い光を放っているのですよ」
ロメウ公王の言うとおり、この場所だけは周囲の壁や天井などが蒼白く発光している。
それが湖の水面に反射して、壮麗で神秘的な光景を作り出しているのだろう。
だがそんな空間の中で一番俺の目を引いたのは、湖の中央に突き立つ一振りの剣だった。
「あれがカリバーン――」
これが英雄剣・カリバーン。
湖面に突き刺さったその剣は、この空間を支配するような存在感を持っていた。
「アイク殿、それでは早速選定の儀を始めましょう」
「わ、分かりました」
ロメウ公王の言葉に、俺は反射的に頷いた。
儀式の予行練習とかは何もない。
どうやら一発勝負のようだ。
「アイク、頑張って下さい!」
「アイク様、ファイトです」
ティアナとアミィの声援を受け、俺はロメウ公王の言葉に耳を傾ける。
「さあアイク殿、聖剣の前まで進んでくだされ」
「分かりました」
緊張しながらも、俺は一人足を進めていった。
底の浅い湖とは言え、膝くらいまでは水に浸かってしまう。
水のひんやりとした冷たさが、俺の緊張感をより強めていく。
そして、俺は聖剣の前まで辿り着いた。
間近で見ると、カリバーンの持つ存在感はより格別だ。
ラッシュや師匠の持っていた聖剣とは、また違った雰囲気を持つ剣に見える。
「ここから俺はどうすればいいんですか?」
振り返ってそう言うと、ラッシュが答えた。
「ただ剣を握ればいい。そんで聖剣を抜けたのなら、お前が認められたって証拠だ」
剣を振る。
それだけで全てが決まる。
手汗が滲むのを感じながら、俺は大きく息を吸い込んだ。
「――」
そして気合いを入れて、カリバーンの柄を強く握った。




