Retrace:31 集まらない
三章の最後です。
アダマントガーゴイルをペットに加えることにした。
別に従魔の契約は何体でも出来るのだが、私としてはそれは遠慮したかった。
結果的にガーゴイル自身がペットという立場を受け入れてくれたので、その問題は解決したのだが……。
そもそも何故私が従魔の契約を渋るのかと言うと、その理由は単純に好みの話である。
ほら、ラムはスライムだし可愛いじゃない?
けど、ガーゴイルはデカイし、悪魔みたいだし……。
私好みのビジュアルとは、随分とかけ離れている。
そんなガーゴイルに、私は三つのルールを誓わせた。
一つ、私の命令には絶対服従。
二つ、この城の者に危害を加えないこと。
三つ、この庭から外に出ないこと。
以上の三つをアダマントガーゴイルには徹底して貰うことにする。
ちゃんと誓わせたので、この命令を破ることはしないだろう。
「そう言えば貴方、名前はあるの?」
私がそう尋ねると、ガーゴイルは首を横に振った。
『いえ、我に名前はありません』
「そうなの? じゃあ私が今付けてあげるわ」
いつまでもアダマントガーゴイルじゃ呼びにくいからね。
私は思い付いた名前を、そのまま口にした。
「決めたわ! 私はこれから貴方を“ゴーちゃん”と呼ぶことにするわ!」
ゴーちゃん。
どう? ガーゴイルぽいでしょ?
それに多少可愛く聞こえるわ。
『ゴーちゃん……ですか?』
何だろう?
ガーゴイルは少し不満そうだ。
「どうした? ノルン様が直々に名付けられたのだぞ? もっと嬉しがらぬか」
ネルファのドスの効いた声に、ガーゴイルは震え上がった。
『は、はい! 我は今から“ゴーちゃん”と名乗ります! 偉大なる御方に名前を貰い、我は大変嬉しく思います!』
大袈裟に感謝を示すガーゴイルの横で、セレンがボソッと呟いた。
「今回も安直ですね……」
コラ、セレン!
聞こえてるわよ!
「そうそう、ゴーちゃんに幾つか聞かなくちゃいけないことがあるんだけど」
『何でしょうか?』
「貴方の鉤爪って、いずれ治るの?」
『はい。数日で治ります』
あ、数日で治っちゃうんだ。
「わりと治るの早いわね」
意外だ。
けど、よく考えたら爪は伸びるの早そうね。
私は続けてゴーちゃんに質問する。
「ガーゴイルって何を食べるの?」
『鉱石なら何でも口に出来ますが、基本的に食事は不要です』
「何もいらないの?」
『はい。我はこう見えて石像ですので』
確かに石像に食べ物が必要という話は聞かない。
「ガーゴイルって普段暇な時間は何してるの?」
『我の場合は殆ど眠っています。石像ですので』
へぇ~眠ってるんだ。
そう言えば、私達がゴーちゃんを起こしちゃったから怒ってたんだよね。
「ガーゴイルって、基本的に動かないものなの?」
『はい。石像ですので、命の危険がない限りは動きません』
そう聞くと、ガーゴイルって意外と無害な魔物なのかも。
食べ物も不要。
暇な時間は全て睡眠。
基本的には動かない。
これってただの石像じゃん!
「そう言えば聞き忘れてたけど、ゴーちゃんの性別はどっちなの?」
『性別ですか? 石像ですので、オスやメスの区別はありません』
「だよね。石像に性別はないもんね」
うん。やっぱりただの石像だわ。
必要な確認を全て終え、私はゴーちゃんに言い渡した。
「私が貴方に与える仕事は、この庭でちゃんと石像をしていることよ。もし特別な用事があれば、そのつど私から言うわ」
『ははぁ! 慎んで石像を努めさせて頂きます!』
「期待しているわ」
そう言ったけど、別に石像に期待することなんて何も無い。
ゴーちゃんは、ただ庭の中心で眠っているだけでいいんだし。
「それじゃあセレン、ネルファ、さっさと残りの魔物を召喚するわよ」
最初で無駄に時間を取られたから、手早く残りの素材も集めなくちゃ。
後召喚しなければならないのは、ミスリルドラゴンとオリハルコンコカトリスだ。
「図鑑に載ってる方からいくわよ。次に召喚するのはオリハルコンコカトリスにするわ」
私は魔物図鑑のページを捲り、目的の魔物を見付け出す。
オリハルコンコカトリスもSランク指定の魔物。
アダマントガーゴイルと同格の存在である。
必要な部位はコカトリスの羽毛だ。
図鑑の説明を読む限り、その羽毛はオリハルコンと呼ばれる超希少な金属で出来ているらしい。
私はゴーちゃんの時と同じ手筈で、召喚魔術を起動させた。
図鑑に描かれた姿を元に検索魔術を使用し、見事オリハルコンコカトリスを召喚することに成功する。
コカトリスもとても大きかった。
見た目は殆ど鶏だ。
けれど、蛇のような尻尾を持っている。
私が必要なのは羽毛だけだ。
そうコカトリスに告げると、大人しく自ら毛を抜いて渡してくれた。
多分だけど、ゴーちゃんが傍にいたことが理由だと思う。
同格のSランク指定のアダマントガーゴイルを従えていることで、私に逆らっても無駄だと分かってくれたのだろう。
滅茶苦茶物分かりが良かったので、目当ての羽毛はあっさり手に入れることが出来た。
ちなみにコカトリスは従魔にしてくれとは言ってこなかった。
私達と関わり合うのを避けるように、彼は元いた場所に帰っていったからだ。
これで無事、二つ目の素材を手に入れることが出来た。
やったー!
さあ、次にいこう。
残る素材はミスリルドラゴンの逆鱗のみ。
そう意気込んだのは良かったが、ここで一つ困った問題が発生した。
それはミスリルドラゴンの姿を描いた絵が、魔物図鑑に記載されてなかったということだった。
駄目元で召喚しようと試みたけど、やっぱり無理だった。
「流石に無理ですか……」
「そうね。やっぱりイメージが正確じゃないと、伝説の魔物クラスは易々と召喚出来ないわ」
セレンの呟きに、私もそう口にした。
こればかりはどうしようもない。
ミスリルドラゴンの召喚は諦めるしかないだろう。
現状、三つ目の素材を手に入れる手段は無い。
ミスリルドラゴンという魔物は、図鑑によると洞窟の奥底をねぐらとする竜らしい。
強さはゴーちゃんと同じSランク。
けれども、肝心の姿を描いた絵が存在しないとはどういうことなのか。
流石に実在しないってことは無さそうだけど、それだけ珍しい魔物ということだろうか?
「仕方ないわね、ラムを進化させるのは次の機会に持ち越しよ」
最強のスライムまであと一歩。
けれど、その一歩が遠い。
今回は駄目でも、私はまだ諦めてはいない。
近いうちに必ずラムを進化させてみせる。
ねえミスリルドラゴン、一体何処にいるの?




