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天才魔術師の私が、異世界から勇者様を召喚するまで  作者: 楚々園 ゆるぎ
三章 部屋を掃除しよう!

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Retrace:29 ネルファの能力

「――『聖剣化(ソード・リメイク)』」


 ネルファはそう呟いた。

 そんな彼女の手に握られている剣は、紛れもない聖剣と呼ばれるものである。


 磨き上げられた白銀の剣身に、眩い黄金の光が迸る。

 その輝きを前にして、アダマントガーゴイルは戦慄した。


『聖剣だと!? まさか貴様、勇者だとでも言うのか!?』


 世界に七本だけあると言われる聖剣。

 その全てはかつての勇者達が所持していたらしい。

 しかし、ネルファは毅然とした態度で言った。


「私が勇者? そんなわけがないだろう。私は一介の騎士に過ぎん。ただし、ノルン様の騎士だがなっ!」


 ネルファかっけー!

 凛々しい表情がとても絵になる。

 普段もずっとこんな感じでいてほしい。


 アダマントガーゴイルは錯乱したように叫んだ。


『う、嘘をつくな! ただの騎士ごときが聖剣など持てる筈もない! あれは選ばれし者にしか使えぬ伝説の武具であるぞ!』


「え? そうなの?」


 ガーゴイルの言葉に私は驚いた。

 聖剣って選ばれた者にしか使えないなんて、初耳なんですけど……。

 というかずっと前に太陽剣・ガラティーンを振ってみたら、普通に刃先からビームとか出ちゃったんだけど、あれは一体何だったの?


「ガーゴイル、お前の話はよく分からん」


 ネルファはそう告げて、聖剣を肩に担いだ。

 そんな彼女を強敵だと感じたのか、ガーゴイルは己を鼓舞する。


『ええい! たとえ聖剣使いだろうと、我を打倒することは不可能だと知れぇ!!』


「来い、ガーゴイル。力の差を教えてやる」


 ガーゴイルとネルファ。

 二人の戦いが始まる。


 私とセレンは結界の外から、その戦いを見守ることにした。

 頑張れ、ネルファ!


『ゴァァァァァ――!!』


 咆哮を上げ、先に動いたのはガーゴイルの方だった。

 その巨体に備わった凶悪な鉤爪が、ネルファに向かって振り下ろされる。

 しかし、彼女はその攻撃を回避することなく、手にした剣の腹で受け止めた。


「この程度か?」


 ネルファの瞳が鋭い光を帯びる。

 自分の何倍も大きなガーゴイルの攻撃を受けても、彼女はその場から一歩も動いていない。

 それがネルファの実力を物語っていた。


『舐めるな、人間風情がァァ!!』


 余裕な態度を崩さぬネルファに、ガーゴイルが恐怖を覚えたかのように叫ぶ。

 そして、鞭のように悪魔のような双腕を振るった。


 その巨体に似合わぬ速度で、次々と繰り出される連撃の嵐。

 アダマントで出来た鉤爪は、容易く人体を切り裂くだろう。

 ただし、それは彼女に当たればの話である。


 ネルファはそれらをひらりとかわし、時には剣を盾にして対処した。

 あまりに冷静で無駄のない立ち回りは、彼女の経験の高さを窺わせる。


 私の隣でセレンが言った。


「流石に余裕ですね。自分から仕掛けないのは、ガーゴイルの動きを観察しているからでしょうか?」


「そうね。アダマントガーゴイルも確かに強い筈なんだけど、ネルファの方が何枚も上手だわ」


 私は彼女の言葉に頷き、そう口にした。

 そして、再び視線をネルファとガーゴイルの戦闘へと向ける。


『クソが! 貴様、我を愚弄しおってぇ!!』


 あえて防御に徹するネルファに、ガーゴイルは痺れを切らした。

 鉤爪での攻撃を諦め、石像の魔物は大きく後ろに後退する。

 そして、大きく息を吸い込んだ。


 あれは!

 私は図鑑を開き、そこに記された文字に目をやる。


「ネルファ、あれは石化のブレスよ!」


 私の警告と同時に、ガーゴイルは大口を開けた。

 鋭い牙が並んだその口腔から吐き出されたのは、致死の力を持った黒煙である。


 煙に巻かれ、庭の下生えが石化していく。

 そして、ネルファにもその悪魔の吐息が襲いかかった。


「フッ、下らぬな」


 石化のブレスを前にして、ネルファはそれを一笑に付す。

 そして、手にした聖剣を真っ直ぐ縦に振り下ろした。


 空気を押し退け、凄絶な斬撃が放たれる。

 まるで空間を切断するかのように、ネルファは迫る黒煙を断割してみせた。


 石化のブレスは一切彼女に当たることはない。

 ちなみに私とセレンも結界の外にいた為、全くの無傷である。


 ブレスをあっさりと対処したネルファだったが、彼女の手にした聖剣に異変が起こった。

 パキリと音を立て、その刀身に深い亀裂が入ったのだ。

 そして次の瞬間、彼女の聖剣は根本から粉々に砕け散ってしまった。


『ふははっ! 驚かせおって! どうやら我のブレスには、流石の聖剣も耐え切れなかったようだな!』


「……」


 その言葉に、ネルファは無反応だった。

 しかし、饒舌にガーゴイルは言葉を続ける。


『貴様の聖剣は呆気なく砕けたぞ! さあ、ここからどうするのだ?』


「どうするも何も、砕けたならもう一度作ればいい」


『へ?』


 頓狂な声を上げたガーゴイルを他所に、ネルファの手には再び剣が作り出される。

 錬成されたのは、無骨な鋼の剣だ。

 しかし、それは彼女の手元ですぐさま聖剣の姿に変わっていった。


『ふ、二振り目の聖剣だと!? 貴様、一体幾つ聖剣を持っている!?』


「幾つでも」


 焦るガーゴイルに対し、ネルファはそう答えた。

 その言葉に偽りは無い。

 彼女にとって聖剣とは、使い捨てられる程度の価値なのだ。


「触れた物全てを聖剣に変えることが出来る。それが私の『固有魔術』・『聖剣化(ソード・リメイク)』の能力だ」


 銅の剣だろうと。

 錆び付いた剣だろうと。

 地面に落ちている()()()だろうと――。


 触れた物全てを聖剣に変えられる。

 それがネルファの持つ『聖剣化(ソード・リメイク)』の力。

 破格とも言える『固有魔術』だった。


『ええい! どれだけ聖剣を作り出そうと無駄だ! 先程のように片っ端から全て砕いてやる!』


 ヤケクソに叫んだガーゴイル。

 そんな石像の悪魔に、ネルファは冷静に告げた。


「誤解しているようだが、聖剣が砕けたのは何もお前の攻撃のせいではないぞ?」


『ど、どういうことだ……!?』


 困惑した声を上げたガーゴイルに、ネルファは答えた。


「剣の道を極めた私の剣技にはな、どうしようもない欠点がある。それはどれだけ手加減していても、たった一振りで剣が耐えられず砕けてしまうというものだ」


 自分の手元に視線を落とし、彼女は言葉を紡いだ。

 その言葉は真実である。

 石化のブレスを斬り払ったあの一振りで、既に聖剣は砕ける運命にあったのだ。


 ネルファは圧倒的な実力差を示すように、ガーゴイルに向けて口にした。


「私の振るう剣筋に耐えられる剣は、この世に存在しないのだ。それは聖剣すらも例外では無い」

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