Retrace:26 進化素材
ラムを進化させる計画が始動した。
目指すのは、誰も見たことのない最強のスライムだ。
「ですが最強のスライムなんて、どうやって進化させるんですか? 実在するかも不明のスライムの進化方法なんて、流石にその本にも書いてありませんよね?」
セレンの質問に、私は答える。
「確かにこの『スライム進化論』にも、そこまでの情報は書いてなかったわ。でも、スライムの進化の法則性はしっかりと書かれていたの!」
この本の著者は内容からみても、人生をまるごとスライム研究に捧げたに違いない。
そんな研究者魂を認め、彼の研究は私が継いであげようと思う。
「この本に書かれている進化メカニズムを元に考えれば、理論上はラムを最強のスライムに進化させることが可能な筈よ」
「姫様がそこまで言うのなら、私としても信じるしかありませんが……。しかし、最強のスライムへの進化ですから、容易な方法ではありませんよね?」
「……ええ、簡単ではないわ。でも、挑戦してみる価値はある」
私は決めたのだ。
ラムを進化させて、今以上にスーパーなスライムに変えてあげるのだと。
「まずスライムの進化には、食べ物が重要な鍵になっているとこの本には書かれているわ。通常スライムは雑食で、自分の体の大きさに合う物ならどんな物でも食べるそうよ」
「確かに、スライムって何でも食べる印象はあります」
「でね、スライムは環境に適応する為に、食べた物に合わせた状態に自らの体を変えていくの。毒素の多い草木を食べれば、ポイズンスライムに。鉄などの金属を含んだ石を食べれば、メタリックスライムになったりするわ」
「なるほど」
「だから食べさせる物を限定し、一定量の食べさせることでスライムを進化させることが出来るのよ」
「なるほど」
「つまりね、何を食べさせるかってことが一番なのよ。そして私がこの本に載ってる理論を元に考えた結果、最強のスライムに至る為には五つの食べ物が必要だと導き出せたわ! 凄いでしょ!」
「なるほど」
セレン、さっきから「なるほど」しか言ってないわね……。
まあいいわ。話を戻しましょう。
私はスライムの進化理論から、まだ見ぬ最強のスライムへの進化素材を仮定した。
それは本の著者ですら到達出来なかった極地だ。
しかし、それはこのスライム研究という土台があってこそ導き出せたものである。
ありがとう、著者さん。
そして、そんな最強のスライムへ辿り着く為に必要な素材は五つ。
高純度の魔力。
ヒヒイロカネの原石。
アダマントガーゴイルの鉤爪。
ミスリルドラゴンの逆鱗。
オリハルコンコカトリスの羽毛。
以上である。
これらを揃えるのは、かなりの難易度と言える素材達だ。
何せ、それぞれの素材の元になる魔物達は、全て伝説的な怪物である。
「どれも稀少な素材ばかりですね。全部を合わせた価値なら、小国の国家予算にも匹敵しそうですし」
セレンの言葉に、私は答える。
「まあ高純度の魔力に関しては、私が普段あげてるから全く問題ないわ。それにヒヒイロカネなんて、錬金術で適当にやってれば作れちゃうし。そう言えば、この間掃除をしている時に見付けたわね。あれをあげることにしましょう」
「すると、残る素材は三つですね」
アダマントガーゴイルの鉤爪。
ミスリルドラゴンの逆鱗。
オリハルコンコカトリスの羽毛。
この三つの素材の問題点は、まずこれらの魔物を発見するのが難しいということだ。
「残りの三つの素材だけど、どうやって手に入れようかしら?」
「どの魔物も並みの冒険者では到底敵わない伝説の怪物ですからね。そもそも発見すること自体困難でしょうから、素材が市場に出回る可能性も殆どゼロでしょうし」
セレンの言葉に、私は頭を悩ませた。
「困ったわね……」
最強のスライムへの道のりは、やはり一筋縄ではいかないようだ。
素材となる魔物はどれもお伽噺や英雄譚で語られるような存在である。
探そうにも簡単に見付けられるものではないだろう。
「取り敢えず、この三匹の魔物について調べてみましょうか。ラム、あそこに積んである本の中から魔物の図鑑を持ってきて」
私の指示に、ラムは小さな触手を伸ばして○を作った。
可愛い。
「ありがと、ラム」
ラムはすぐに魔物の図鑑を持ってきてくれた。
私はそんな彼を褒めてあげる。
偉い、偉い。
「それで、アダマントガーゴイルってどんな魔物なのかしら?」
大きな図鑑をペラペラと捲っていき、私は目当ての魔物を探し出す。
見付けた!
「これがアダマントガーゴイルですか……。いかにも凶暴そうな魔物ですね」
私の隣で図鑑を覗いていたセレンは、そんなことを呟いた。
確かに図鑑に乗っていた絵を見る限りだと、滅茶苦茶ヤバい魔物に見える。
「でも、正直うちのネルファの方が強いでしょ」
思わず口から本音が漏れた。
伝説的な魔物と言っても、私のネルファの方が断然強いわ。
「……姫様、一つ思い付いたことがあるのですが」
「何を思い付いたのよ。早く教えなさい」
私の台詞に、セレンは「はい」と頷いた。
「この魔物なんですが、姫様の召喚魔術で呼び出せませんか?」
セレンの驚きの提案に、私は衝撃を受けて固まった。
……その発想は無かったわ。
思わず口角が上がる。
私はニヤリと笑って口を開いた。
「召喚魔術……名案ね!」




