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天才魔術師の私が、異世界から勇者様を召喚するまで  作者: 楚々園 ゆるぎ
三章 部屋を掃除しよう!

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Retrace:25 スライム進化論

「ねえセレン! セレンってば!」


「おはようございます、姫様。今日は朝から気持ち悪いくらいにハイテンションですね。何か変なモノでも食べました?」


「食べてないわよ! もし食べてたとしてもそれはセレンの作った物よ!」


 私の口にする料理やお菓子は、基本的には全てセレンが作っている。

 だから私が変なものを食べた時は、全面的にセレンが悪い。


「それで何か私に用ですか?」


「ええ。これを見て頂戴」


 私はそう言って、一冊の本を掲げてみせた。


「これは……掃除の際に出てきた『スライム進化論』ですね」


 セレンの言葉に、私は頷いた。


「そうよ。早速読んでみたんだけど、この本にはとても興味深いことが書かれていたの」


「そうですか。良かったですね」


「適当な受け答えね……。まあいいわ。まずはこのページを見て」


 私は本を開き、セレンにそのページを見せ付ける。

 そのページには複雑な表が描かれていた。


「……姫様、これは何の表ですか?」


「これはね、スライムの進化表なの」


「進化表ですか……?」


「ええ、そうよ。この本の作者曰く、スライムは様々な環境に適応する為に、その環境に合った進化をするそうなの」


 この本はスライムの進化を研究したものである。

 その中でも興味深かったのは、スライムはかなり環境適応が高いということだった。

 そしてどんな劣悪な環境だろうと、彼らは自らの身体を進化させることで生存してきたのである。


「もしや姫様……」


 察した様子のセレンに、私は答える。


「ええ、貴方の想像通りよ」


「そうですか。やはり姫様は、ラムを進化させるつもりなのですね」


 セレンの言葉に、私は首肯した。


 ラムを進化させる。

 それは文字通りの意味である。


「ラムは少し特殊な能力を持っているけれど、種類としては一番スタンダードなスライムよ。折角この私の従魔なんだから、もっと格好いい姿にしてあげるべきだと思うのよ」


 ラムの主人として、私には責任がある。

 それはこの子をより立派にしてあげたいという親心のようなものかもしれない。


「ラム、貴方ももっと立派な姿になりたいわよね?」


 クッション代わりにしていたラムを撫で、私はそう尋ねてみた。

 すると、ラムは身体を左右に揺すってみせた。


 多分だけど、彼は「よく分からない」みたいな事を言いたいのだろう。

 ラム自身には、進化のことがいまいち理解できないようだ。


「しかしスライムに進化を促すには、この本に書かれていることを実践しないといけないんですよね?」


「そうね」


 セレンの言葉に、私は頷く。


「ならまず前提として、姫様はラムをどのようなスライムに進化させるつもりですか?」


「ふっ、愚問ね! 勿論、私が目指すのは最強のスライムよ!」


 胸を張って、私は答えた。

 しかし、セレンは怪訝な表情で口にする。


「最強のスライム……ですか? それは一体どんなスライムなんですか?」


「それについてなんだけどね、最強のスライムが一体どんな存在で、どんな力を持っているのかは不明よ」


「分からないんですか……?」


「ええ、だって誰もその存在を見たことが無いんだもの。分からないのは当然でしょ?」


 正体不明のスライム。

 それが私の目指す最強の存在だ。


「誰も見たことが無いのなら、姫様の言う最強のスライムはそもそも存在しないのではないですか?」


 何故最強のスライムが存在していると分かるのか。

 セレンの質問はもっともだ。


「確かにね、存在しない可能性は無いとは言い切れないわ。でもね、理論上は必ず存在する筈よ」


 私がそう言い切れるのには理由があった。

 私は再びセレンの前に、『スライム進化論』を突き出した。


「この本の著者はね、スライムの進化についての研究をしていたわ。そして、その進化のメカニズムを見事に解明したみたいなの」


 進化表まで作れる程だ。

 この本の著者は、スライムが進化する法則性を完全に解明したと言っていいだろう。


「それでね、著者はこのページでこんなことを言っているわ。『スライムの進化には誰も見たことのない到達点が存在する』――ってね」


 到達点。

 それはスライムの進化における限界だ。

 つまり、


「誰も見たことのない到達点。それが最強のスライムというわけですね」


 セレンの言葉に、私は強く頷いた。


「この『スライム進化論』に書かれていることが本当なら、最強のスライムは間違いなく存在することになるわ」


 最強のスライム。

 それはスライムの最終進化形。

 歴史上誰もその存在を目撃したことが無いが、理論上では必ず存在する筈なのだ。


「私はね、ラムをこの本で示唆されている最強のスライムに進化させてあげたいの! そして、私は世界最高のスライムマスターになってみせるわ!」


 私は拳を天井に突き上げ、そう宣言した。

 それを冷静な瞳で見つめ、セレンがボソッと言った。


「……空間魔術の研究はどうするんですか?」


「け、研究はちゃんと続けるわよ! 当たり前でしょ!」


 あまりに研究が進まないからって、現実逃避しているわけじゃないんだから!


「そうですか。なら構いませんが」


 そう言ったセレンだが、あれは絶対に私を疑っている目だ。


「とにかく! 私はラムを進化させるって決めたんだから! セレン、貴方も協力しなさいよねっ!」


 こうして私達による、ラムを最強のスライムに進化させる試みがスタートしたのだった。

 待ってなさい、ラム!

 必ず貴方を立派にしてみせるわ!

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