Retrace:21 お掃除
新章です。
※ノルン視点
いつも通り、雑多な部屋があった。
私室であり、勇者召喚を研究する魔術工房。
そんな部屋の中で、私はセレンに向かって口を開いた。
「ねえセレン、今からこの部屋を掃除しようと思うの」
「は? 姫様、今なんと?」
怪訝な表情で聞き返すセレン。
どうやら突発的難聴に掛かったらしい。
たまたま彼女は聞き逃してしまったようだから、もう一度言ってあげましょう。
「だから、この部屋の掃除をしようと思うの!」
「……」
無言だった。
「ちょっとセレン! なんでこの世の終わりみたいな顔で固まってるのよ!」
「いえ、姫様の脳内に掃除という単語が存在していたなんてと、素直に驚きまして……」
「それを素直に私に言わないでよ!」
セレンの物言いに、私は声を荒立てた。
彼女は私を苛めているのか、毒の含んだ言葉を簡単に口にする傾向がある。
まったく、私を何だと思ってるのかしら?
「コホン。話を戻しましょ? 私、この部屋の掃除をしたいんだけど、どうやってすればいいかしら?」
「……そもそも、掃除は姫様がするんですか?」
セレンの質問に、私は答えた。
「なんでよ? 一国の姫である私がそんな面倒なことをする筈ないでしょ?」
「はぁ?」
セレンが心底不満そうに、そう口にしたのを私は見逃さなかった。
「……ごめんなさい。私が掃除します。ですからセレンも手伝ってください」
「分かりました。素直な姫様は素敵ですね」
にこやかな口調のセレン。
素敵だってさ。聞いた?
「それで、姫様はどうして今更掃除をしようと思われたのですか?」
「そ、それはね……ほら、勇者召喚をする場所って基本的に私の部屋じゃない? それってもし勇者様が呼び出せちゃったら、この部屋を一番初めに目にするってことでしょう?」
私の言葉に、セレンは納得する。
「成る程。部屋が汚いことで、勇者様に『やれやれノルンはだらしない女だな』と言われたくないということですね」
「そうだけども! そうだけども、その勇者様の声真似は地味に腹立つ!」
てか、声真似全然似てないし……。
コホンと咳払いし、私はセレンに言う。
「まあ恥ずかしいってこと以外にも、ちゃんと理由はあるんだけどね」
「そうなんですか?」
首を傾げたセレンに、私は言った。
「私ね、気付いちゃったのよ。セレンっていつも私の部屋を掃除してくれてるけど、それって最低限のスペースだけじゃない?」
「そうですね。私もあまり掃除に時間は割けませんから」
そうだ。
セレンが掃除してくれる箇所には限界がある。
彼女が掃除してくれるのは、私の生活範囲である部屋のごく一部分だけだ。
「気付いたというのはね、この部屋の使い方が非効率だという点なの。ほら、私の部屋ってガラクタが山になってて、実質三分の一も使えてないじゃない?」
「確かにそうですね」
部屋に築かれたガラクタの山を睥睨し、セレンは深く頷いた。
「だからこの際、私は思い切って掃除をしようと思うわ! この部屋がスッキリすれば、研究ももっと捗るだろうし、勇者様が呼び出せた時も呆れられずに済むだろうし!」
今まで使えてない部屋のスペースを利用出来れば、もっと多くの研究が進められる筈だ。
床に書く魔法陣をもっと大きくしたり、その数を多くしたりすることも可能だろう。
「いわゆる断捨離ってやつですね」
セレンのその言葉に、私は頷きを返した。
断捨離――いい言葉ね。
「それじゃあ、早速掃除を初めましょう!」
私は張り切って、拳を天井に突き上げる。
レッツお掃除! 綺麗にするわよ!
「待って下さい、姫様。私と姫様では明らかに人手が足りません。今姫様がクッション代わりにしているラムにも手伝って貰いましょう」
確かにこのガラクタの山を二人だけで片付けるのは大変だ。
「そうね。ラム、貴方も手伝って」
私がそう言うと、スライムのラムは分かったと言わんばかりに体を震わせてみせた。
可愛い。
「それと、ネルファもここに呼びましょ。彼女にも手伝わせた方が効率がいいわ」
「そうですね」
そうと決まればさっさとネルファも呼んでしまおう。
そして、この部屋を早いところスッキリさせてしまうのだ!
こうして私の部屋の掃除が始まることになった。
しかし、この時の私はまだ知らない。
あのガラクタの山の中に、一体何が眠っているのかを――。




