Retrace:17 裸エプロン
「セ、セレンその格好って……」
声が震える。
動揺が隠せない。
だってだって! 私の前に現れたセレンの格好は、まさかの裸エプロンだったのだ!
ど、どーゆうことなのぉ!?
普段ガードの固いセレンがこんな格好をするなんて、まさか夢でも見てるのだろうか?
混乱する私を他所に、セレンは口を開く。
「ネルファ、いい加減姫様から離れなさい。これ以上は姫様から嫌われますよ?」
セレンがそう口にすると、ネルファは悔しそうに私から離れた。
「くっ……! 一時間は目を覚まさぬと思っていたがな」
「先程は不覚を取りましたが、相変わらず最後の詰めが甘いですね、ネルファ」
セレンとネルファはそう言葉を交わし、互いに睨み合った。
どうも彼女らはこの浴場に来る前に戦い合ったらしい。
結果はネルファが勝ち、セレンは負けてしまったようだが。
「ねえセレン、貴方も私達と一緒に入浴しにきたんじゃないの? なんでエプロンなんか着けてるの?」
そう尋ねた私に、セレンは答えた。
「いえ、私は入浴しに来たわけではありません。姫様の入浴を手伝いに来たのです」
「手伝い?」
「はい。私は姫様のお背中を流す為にここに来ました」
セレンもかよ!
私の部下は皆考えることが同じなのかな?
「それに姫様と一緒に入浴するなど、メイドとしてあるまじき行為ですので」
そこはそんなに固く考えなくてもいい気もするが、セレンにはメイドとして譲れぬものがあるようだ。
「じゃあ、なんでエプロンを付けてるの? 入浴しないとしても、別にその格好である必要はないでしょう?」
正直、目のやり場に困る。
ネルファやリッカのように全裸なら何も思わないんだけど、裸エプロンって局部が際どく隠れてるじゃない?
それが特に、エロいのよね……。
思春期の私にはあまりに刺激が強すぎる。
それに裸エプロンのメイドって、なんだか主人である私がいかがわしい命令をしてるみたいじゃない……。
そんな私の葛藤を知らずか、セレンは普段通りの様子で口にする。
「このエプロンについてですか? 普段のメイド服のままでは濡れてしまいますので、浴場でも最低限メイドらしくしようと思いまして」
確かにセレンのエプロンは、普段彼女がメイド服の上から着ている物である。
けど、エプロンを着けてるとメイドらしいのかは疑問だ。
まあ、彼女の頭には普段通りヘッドドレスがあるし、それなりにメイドっぽくは見えるけど。
「話は大体分かったわ。それでこれからどうするの?」
私はリッカやネルファの方へ視線を向けた。
すると、ネルファが言った。
「セレン、メイドだからと言って、ノルン様の背中を流せると思ったのなら考え直すべきだ」
「どういう意味ですか?」
「お前には、まだその権利が無いと言っているのだ」
眉根を寄せたセレンに、ネルファは腕を組ながらそう言った。
そして、彼女は言葉を続けた。
「セレンよ。お前もノルン様の背中を流したいと思うのなら、我々とここで勝負をしろ! 私やリッカとその権利を賭けてな!」
滅茶苦茶真剣な顔で告げたネルファ。
そんな彼女を見て、セレンが私に聞いてきた。
「どういうことですか、姫様?」
その質問に私は肩を竦めた。
「そのままの意味よ。貴方が来る前から私の背中を流す権利を巡って、リッカとネルファが争っていたの」
そうセレンに説明すると、どうやら彼女は状況を理解してくれたようだった。
「成る程。話は分かりました。ようはリッカやネルファを倒し、私が勝者になればいいということですね?」
泰然と答えたセレン。
そんな彼女の様子に、ネルファが鼻を鳴らす。
「ほう、大した自信だな。しかし、自信だけでは私には勝てぬぞ?」
前にも似たような台詞を聞いた気がする。
ネルファって会話のバリエーションが少ないのね。
私がそう思っていると、横からリッカが控えめに言った。
「姫さん、セレン姉が勝負するなら、別に私がネルファ姉と戦わなくてもいいんじゃないっすか?」
確かにセレンは勝負に乗り気のようだし、リッカを無理に参加させる必要はないかもだけど……。
「リッカ、貴方も参加しなさい。セレンと貴方の二人体制なら、ネルファが勝つ確率はその分減るわ」
「それはそうっすね。分かりました。私も頑張るっす」
「ええ、頑張りなさい」
セレンやネルファの二人と違って、彼等より年下のリッカは自己主張が少ない。
少々遠慮しがちなのである。
それは普段、任務で私の傍にいられていないこともあるのだろう。
だけど、私は彼ら全員を自分の家族のようなものだと思っている。
だからこそ、リッカにはもっと自分らしくいられるようになって欲しいのだ。
そんな意図もあって、ちょっとだけ控えめなリッカには、こう言ってでもこの勝負に参加させたかった。
「それで勝負をすると言いましたが、一体何をするのですか?」
「それが、まだ何も決まってないんすよ……」
セレンの問いに、リッカが答えた。
だがそんな二人の会話に、私は言葉を挟んだ。
「心配しなくていいわ。貴方達が話してる間に、何で勝負して貰うのかはもう考えてあるから」
「本当ですか、ノルン様?」
ネルファの言葉に、私は得意気な顔で答える。
「ええ、我ながらいい案だと思っているわ」
肉体的な能力では、ネルファが有利。
だが頭脳的な能力では、セレンやリッカが有利になってしまう。
あまりに不平等な勝負では、私としても面白くない。
だからこそ、私は考えた。
一番平等で、一番公平な勝負内容を!
満を持して、私は彼らの前で口を開いた。
「貴方達にこれからやってもらうのは、ズバリ! “タオルクラゲ”よ!」




