ウォークマンと小旅行
中学二年
受験の事をそろそろ考えなくては
いけない時
中学生活にも慣れまだまだ
やりたい事を探して居る時
部活の後輩も出来て
下っ端での扱いから解放される時
修学旅行や他のイベントも
楽しんでる時
それまで聴いていた音楽にも
変化が出て来て
洋楽なるものも開拓し出してる時
英語はわからない
片言も単語止まり
洋楽なら音やリズムにのって
スラスラと出てくる
一番の無くてはならない
趣味の一つになっていく時
中二にも成れば
読書は必須課題となるが
じっとしていられない性格で
黙って図書館で読む事はまず無い
勉強なんて以ての外
ちょうど小学校二校が
合併したような中学校の
集まりだったので
他の学校の生徒とも仲良くなる
その生徒が
今で言う分校みたいな山奥から
通学して居た
学校の許可で
自転車通学出来る範囲の地域と
バス通学出来る範囲の地域に
別れていた
その後者の友達の家まで
毎週日曜日に通う事になる
と言うか勝手に通って居た
こちらは訳あって
学区外からバス通学して居た
勿論実費がかかったが
学区内はちと評判が悪かったので
学校へ申請し許可を得て通った
こちらは隣町の町中
駅まで自転車で10分かかる
初めのうちはバスで
その山奥の友達の家まで通ったが
時間帯によっては二時間に一本の
バス運行しかない
それを逃したら帰れないと言う
最悪な状況になる事を考え
時間はかかるが自転車で通う事にした
軽く15キロ程度
所要時間2時間
しかも自転車は
通称ママチャリ
ハンドルはチョッパーに
カスタムして居たもの
乗り心地は悪く無いが
ギア無し
脚力がものを言う
坂道があるから途中は楽だし
1時間ちょっとで行けるかな?
考えが甘かった
家を出てからは平坦な道のり
10分ほどで河川を渡る橋
橋を越え川沿いの遊歩道を
ひたすら北へ
所在地を通る国道へ出る
まだバイパスも繋がって居ない時代
下道も頻繁に車が行き交う
この町の役場前で一時休憩
母親の実家も近くにあるので
安心感もありのんびりする
ここまでで1/3は来ただろうか
少し疲れが出たので
ここで当時の音楽好きには
マストアイテムの
ウォークマンをセットする
カセットテープ時代の
携帯プレイヤーだ
聴くのは勿論洋楽
この時代80年代のポップスは
どれも軽快なものばかりだった
主にイギリスのバンドのものを
愛聴して居た
今回もそれにする
今でこそ
イヤホンで音楽を聴きながら
歩いたりの姿は見かけるが
当時は最先端だった気がする
外の音も聴こえるように
ボリュームを調整しながら
ペダルを踏む
いくつかの山のトンネルを抜け
空気も段々と澄んでくるのがわかる
たまに深呼吸する
田舎の醍醐味だ
やがてカーブが多い山道
田畑や果樹園を横切り
目的地の友達の家
その坂道の手前
この急な坂を上らないと
そこまで辿り着けない
思い切り助走をつけて
ペダルを踏み込む
数メートルで下りてしまう
無理だった
仕方がないので
自転車を下りて手で押しながら歩く
車一台通れるのがやっとの幅で
対向車とすれ違えるように
待避所が所々にある
一日を通しても陽陰で
陽の当たらない所の道には
苔が生えて居る
道沿いに川も流れて居て
空気がヒンヤリして居る
海抜も徐々に上がっている
耳に何か詰まったような感じを
覚えるもあくびやアゴを動かして
直す
目的地発見!
所要時間2時間強
これは初めて行った時の事
とても印象深く
忘れることのできない
体験だった
それから毎週日曜日になると
訪れて居た
次第に体もこの通いに慣れてきて
脚の腿も段々と筋肉がつき始める
坂道も初めの頃よりは疲れなくなった
目的地があるから
そこを目指して
ただ自転車のペダルを踏む
とても単純な行動の繰り返しだった
しかし健康な脚になり
肌で田舎の空気を
自力で感じる事を覚えた
思春期の小旅行だった