中世以前はパンが高級品であるという謎
時代を問わず下層階級ですら食べられ、作ろうと思えば作ることすらできて、それでいながら高級品でもあり御馳走。
また、上流階級であれば毎日のように食し、場合によっては人気取りのために配ることすら。
ピラミッド建築に携わった労働者は、毎日パンとエールにありつけたという文献も。
………………なんなんだ、パンって?
これが長らくの疑問で――
「江戸時代の町人が毎日のように白米を食べてたのに、農村では雑穀の雑炊だったようなものかなぁ?」
などと思ってましたが、どうやら少し違うようです。
多少は説得力のある所まで勉強できたので、そこまでを発表。それが今回の趣旨となります。
まず中世以前は、火力といったら薪なことが大きいと思われます。
『なろう』でも転生した内政系主人公が燃料改革に着手するのも、実は当然でしょう。
この燃料確保には時代や地域を問わず、なんと近世まで悩まされ続けていました。
少し話は横になりますが――
作者の親戚に北海道出身の方がいまして、その幼少時には薪ストーブの燃料、つまり薪を備蓄するのが仕事だった。なんて話も聞いたことがあります。
しかし、この薪の量、詳しく聞くと凄い量です!
壁一面に背丈より高く積み上げるとか!
でも、とんでもない量になるのは当たり前?
現代の薪ストーブを参考にすると、冬には一日で三束ほど消費するそうです。
となると一年の四分の一としても九十日分、つまり必要な備蓄量は二百七十束!
これが冬までに集まってないと死活問題です。
※ 日本における薪一束の規格
おおよそ三十五から四十センチほどの長さで、長さ七十センチほど(直径に直すと約二十二センチ)の針金で縛ったもの。
キャンプ場なんかで買うのと似たようなものに思われる。普通の太さだと、一束で十本ぐらい。
中世以前の住宅では、近代ほどの熱効率はないでしょうが……その分だけ我慢のコマンドも多用するでしょう。また、北海道ほどは寒くもないはずです。
なので備蓄に必要なのは、似たような量と仮定しておきます。
さらに冬の暖房以外で、朝晩の煮炊きにも必要です。
それを大雑把に一日一束として加算すると――
年間に必要なのは六百三十束!
もちろん下層階級は用意できてギリギリだったり、年によっては段取りできなくて寒い思いをしたり……場合によっては凍死も?
となると季節を問わず、燃料は大事に使われるでしょう。無駄にすれば寒い思いをするのは自分なんですから。
※ 石炭
石炭は紀元前に発見、利用も開始されています。
一説によると紀元前四千年、青銅器文明が開始する前から鍛冶に使っていたとも。
……なにを鍛冶していたんだろう? 銅器文明より早いから……金銀の冶金?
より確実性のある別の説でも紀元前二世紀。どのみち紀元前なようです。
ちなみに製鉄には向かないので、鋼を作るのならコークスにする必要があるはず。
というか、コークスこそ『なろう』の内政に適しているような? ようするに石炭を蒸すだけだし?
しかし、燃料として安価だったという話も聞かないので、薪より高いか大差なしと思われます。
この辺で――
「おい、今回のテーマはパンだろ、パンの話しろよ」
などとお叱りを受けそうですが、実はワンピース! 繋がっている話です。
まず――
「パンを焼くには専用のパン窯が必要!」
とまで言いませんが、それっぽい窯は必要でしょう。
しかし、この窯……異常なまでに燃料を食います!
窯全体を温める必要があるというか――
パンという食品は、高い温度にまで熱した窯の余熱で焼く
が正解なイメージだとか?(途中で火を落としたりはしないそうですが)
また、ピザ屋で使っているような小さな窯だと、焼ける前に窯が冷えてしまい上手くいかない。パンを焼くなら大きいものを!
……となるそうです。
そして窯という道具は、しばらく使っていないと水気を含むそうです。
水気を含んでしまうと予備加熱しようとしても、その水分が蒸発しきるまで熱が逃げてしまいます。
使わずに放置していると小さめのピザ窯ですら、水気を吹き飛ばすのに数時間かかることも!?
どうやら窯という調理器具は、稼働させるのに薪をバカ食いするようです。
少なくとも一日当たり薪一束、下手したらそれ以上は確定でしょう。毎日稼働させると最低でも年あたり三百六十束! 一冬越せる量より多い!
しかし、燃費が悪いからといって、使わなければ水気を含んでしまって効率は悪化します。
というか、これでは下層階級にとって――
パン窯を備えた家なんて無用の長物。猫に小判
としか言いようがありません。
おそらく中産階級より上でなければ、パン窯を持っていなかったと思われます。
また、窯があったとして、一度に食パン四斤分相当を焼き、燃料が薪二束だったしましょう。その場合――
食パン一斤分相当の値段に、薪0.5束分が上乗せ
されます。
調理の値段としてはずいぶんに高くなりますが、かといって大量に焼くわけにもいきません。一家族で消費するとしたら、食パン四斤分は腐らない限度一杯でしょうし。
やはり、この意味でも一般家庭にパン窯は似つかわしくないと思われます。
結論として、やはり『パンは高級品』で間違いない……かな?
で、ここまで調べてしまうと簡単な気がしてきました。
『パンは高級品だが、大量生産した場合に限り違う』
と言えそうだからです。
例えばちょっとした上流階級――主人とその家族、住み込みの兵士や召使およびその家族なんて想定だと、毎食で二十人分以上が必要なんて家はザラでしょう。
そして一日につき食パン二十斤分相当が必要で、パン窯の運用費は同じく薪二束とすると――
食パン一斤分相当の値段には、薪0.1束分しか上乗せされない
となります。
さらに限界はあれど、一度に焼けば焼くほど燃料効率は高く。
材料である小麦粉やら塩などは、他の方法で消費しても掛かるので、違いは薪の値段だけですし。
(パンに牛乳やバターなどを混ぜるのは、だいぶ時代が下ってから)
ここから――
『ローマで市民にパンを配るのは容易いことだったし、それでいて高級品だったので喜ばれもした』
であり、さらに――
『下層階級でもパンが食べられた』
ということにも繋がり、下々に施すのは上流階級にのみ可能だったからこそ――
『パンとサーカス』
という考えも生まれた。
……のかな?
また大分早い段階――なんと紀元前――で『パン屋』という商売が成立したのにも頷けます。
あり触れた小麦を材料に技術を売る商売でありつつ、素人には手を出せない専門道具が要るんだから当たり前?
一般市民側も値段や効率の点で、自分で焼くよりは遥かに安く入手できたでしょうし。
……となるとホームメイドのパンなんてのは、近世以降の風習?
これを裏付けるように中世では、公共の窯――それを使うのがパン焼き職人という話も――があったともいいます。なんでも生地だけ自作で、あとは焼いてもらったとか。
となると街以下の集落だと、村長クラスの家にだけパンも焼ける窯があり、それを村社会で上手いこと利用していた?
街なら毎日でも食べられるけど、村だとハレの日の料理。それがパン?
そして我々日本人には馴染みの薄い料理、パンケーキも認識が変わっていきます。
『小麦粉などを水などで溶いて、フライパンで焼いた』
が、広義の意味でパンケーキとなります。
発酵させることもあるし、色々と混ぜ物をすることもありますが、一番のポイントは――
『フライパンで焼ける』
ことにあると思います。
そりゃ発明される訳です! パン窯に比べれば、焚火程度の火力で良いんですから!
西洋の伝統的朝食にもなるでしょう! 文化や生活レベルによっては、二食が二食ともパンケーキな可能性だって十分にあり得ます!
でなけりゃ、日本みたいに雑穀の雑炊が主力となることも? 事実としてオートミールというのもありますし?
比較して考えると米食文化は有利なのが、よく判ります。パンほどには火力がいらないからです。
米料理の大半は、焚火程度の火力で全て調理できるのでは?
雑穀が混ざろうと、麦飯だろうと、飯盒あれば炊けますし。
まあ、狩猟民族な場合は頻繁に肉が食卓を飾るので、穀物なしの日があっても平気だったみたいですけど。
それでも人類は穀物で発展しましたしね。やはり基本だと思われます。
うん、まあまあの研究成果かな。
……そんなふうに考えていた時期が作者にもありました。
追記的に色々調べて……というか、ずばり『アウトドアでパンを焼く方法』を調べたところ、二通りの方法が引っ掛かったからです。
一つは串に巻き付けたパン生地を、なんと直火で調理!
もうひとつはダッチオーブンを使って、わりと普通に!
串焼きや他のは、ようするにパンケーキの親戚でしょうが……ダッチオーブンの方は、どうみてもパンの親戚です。
つまるところ、道具や生地を工夫すれば、パン窯なんて無くてもパンは焼ける?
ダッチオーブンの方も、分類的にはパンケーキなのでしょうか?
それに……なぜか近世までダッチオーブン的なものは発明されなかった?
おそらくパン窯がないと、フランスパンのような外側がパリッとした系統や、乾パンのような水分を飛ばしたものは作れないと思われます。そこまでは断言可能です。
しかし、逆にロールパンみたいなのならいける?
でも、そうすると、ちょっと気の利いた冒険者は――
毎食、パン食べてる
なんてことに!?
こりゃ登場人物に干し肉を齧らせパンケーキ焼かせてる場合じゃないよ! どうしよう!?
(ちなみに今回のスタート地点の一つは、冒険者たちの食事が謎だったからです)
……本場で柔らかいパンが評価されないのも、じつはこの辺りにある?
柔らかいパン → パン窯不要 → 田舎者の料理
みたいな思考の流れが根底にあったとか?
日本でも田舎料理を一段下に見る人多いですし、その辺は世界共通だろうし?
……少し妄想しすぎ?
でも、このままだと結論に達しないような?
………………いいアイデア、閃いた!
この件に関して詳しい方からの情報をお待ちしております! 今回はここまで!
・石炭
色々と種類はあるも、通常は石炭といったら「瀝青炭」のことを指す。
イメージ的に「泥炭」「亜炭」「褐炭」「亜瀝青炭」は水分を含み過ぎてる質の悪い石炭。
「無煙炭」は全世界的に埋蔵量が少なめ。
また「瀝青炭」を原材料とするコークスは粘度によって用途が分けられるそうで、製鉄用には高粘度のものが使われ、低粘度のものは他の用途に。
一応、コークスの火力であれば溶鉱炉も作れるが、必要な炉の設計は非常に高度なので、おそらく内政チートでも無理。
それよりもコークスを使う利点は石炭から硫黄、コールタール、ピッチ、硫酸、アンモニアなどの不純物を弾けるのが大きい……はず。
特に硫黄が問題で、混合すると鉄が脆くなってしまう。
ちなみにコークス化そのものは、アルミホイルにくるんでライターで焙る程度でも可能?
その方法で実験しているHPを見たことがあります(アドレスは忘れてしました)