お前の席ないから
教室に着いたのは9時5分前だった。
約30分の遅刻で恐る恐る教室に入ると英語教師の長濱と目が合った。
長濱は高校までアメリカに住んでいた帰国子女で
頭の中もアメリカ人のそれらしく遅刻に関してもあまりうるさくなかった。
長濱はなぜか申し訳なさそうな顔をしている。
教室のみんなも僕に気づいたらしく殆どの生徒が後ろを振り返った。北条を除いて……
長濱は僕から視線を外して僕の机に目をやった。
僕も長濱の視線を追って自分の席に目を向けたがなにかがおかしい。
僕の机に椅子がないのだ。あれ?誰かが暴れて椅子壊しちゃったのかな?そんな軽い気持ちで少し苦笑いをしたが長濱は真面目な顔して僕に言った。
「さっき生徒会長の友田さんが来てね、今日から"政所君に限り"遅刻したらその日1日椅子無しで授業をすることになったみたいなんだ」
長濱は頭に手をやり付け加えた。
「僕は勿論それに対して抗議したんだよ。たかが遅刻くらいでこんな罰を受けるのは度が過ぎるってね。でも友田さんは緊急会議で決まったことですからって全く引かなくて結局副会長の土方君と会計の酒井くんが強引に持っていってしまったんだよ」
「そうですか、わかりました…」
「ほんとにすまない。僕みたいな講師は明日が我が身でね…すっかり日本人になってしまった」
「いえ、お気遣いありがとうございます」
友田先輩は僕が遅刻の常習者であることを把握している。
きっとクラスの出席簿でも見たんだろう。
生徒会長ならそんなこと朝飯前だ。
僕はこれからの学園生活を危惧した。
友田先輩は僕を退学にさせるって言ってた。
今回の嫌がらせは序の口でこれからもっと酷い仕打ちがあるに違いない。
英語の授業が再開されたが僕は立って授業を受けているので後ろの席に迷惑がかかると言うことで今日だけ1番後ろの席の池田と席を代わった。
昼休みなり僕は図書室で昼寝をしようと思い廊下に出た所で誰かにポンと肩を叩かれた。
「調子はどう?」
「まあまあかな」
「なら良かったわ、実はね、昨日の夜友美先輩から電話があったの。友美先輩から電話が掛かってくることなんかあんまりないから凄い嬉しかったのよ」
そうなのか、友田先輩はお気に入りの北条に電話とかあまりしないんだ。
「それは良かったね」
「でもね、電話してきた理由があんたのことだったのよ」
北条は嫉妬しているような顔を作り僕を見ている。
「あんたの学園生活どんな感じで過ごしているか教えてくれってね、私はあいつは遅刻の常習犯で授業中後ろ向いても居眠りばっかしてて友達も殆どいないって正直に答えたわ」
「それはありがとうございます」
そして北条は少し困惑した顔で「そしたら今日こんなことになっちゃって…私凄いビックリして…
なにかあったの?」
「いや、別に何もないけどこれから何か起きるかもしれない…」
「何かって?」
「何かだよ!」
「意味が分かんないし!すでに起きてるじゃない?あんただけ遅刻したら椅子を没収するなんて普通じゃないわよ!それとね、今日放課後生徒会室に来てくれだってさ」
「分かった、行くよ」
「私もついていくからまた後で声かけるわ」
「りょ!」
北条は席に戻り隣の席の永倉さんに「ごめんねぇ」と言ってなにか話の続きをし始めた。
僕は廊下から教室を見渡して見たが1番後ろの僕の机だけ椅子がない光景をとても異様に感じ思わず鳥肌が立った。
おかしい、おかしすぎる。
弱味を握っているのは僕の方なのだ。
弱味を握っているからこそ襲いかかる仕打ちに僕はジレンマを感じた。