友田先輩との初めての会話
生徒の99%が生徒会長の友田先輩目当てで残りの1%が書記のメガネ目当てといったところか、「こんにちはー」「キャー」「いつもお務め有難うございますー」「先輩命!」可愛らしい声から野太い声まで様々な声が飛び交う。まるで廊下の真ん中にはレッドカーペットが敷かれているのではないかと錯覚を覚えた。
今までの生徒会の行脚ではどこか緊張したような恐縮めいた感じの生徒が多かったらしいが友田先輩が生徒会長になって以来、その重たい雰囲気は一新された。
先輩はニコニコと微笑を崩さず手を降ったり頭を軽く下げながらゆっくりと廊下を歩き、知り合いがいればそこで一旦立ち止まり会話を楽しむ。
その光景はまるで皇室の園遊会だ。
そんなことを遠目で見つついよいよ生徒会長が僕らの前にやってきた。
「あれー、万美子ちゃんが男の子と手を繋いでる!ついに念願の彼氏が出来たのかな?」
友田先輩は北条と目が合うと気さくに話しかけてきた。
僕と北条は「えっ!」と思い下を見ると北条の手は僕の左の袖を掴んだままだった。
北条は動揺して「ちっ違いますよ友美先輩!こいつは今まで一度も先輩に挨拶したことがない不謹慎な奴で、今日こそは先輩に挨拶しなさいって連れてきたんです!」
友田先輩は北条の動揺ぶりをクスッと笑い「万美子ちゃんは相変わらず面白いね、でも彼氏じゃないんだ。残念」と言った。
すると北条は「こんなネクラで夢もない男が彼氏だったらまだ40代の趣味は油掘りのおじさんに託した方がマシですよ」とめちゃくちゃな事を言った。
友田先輩は「万美子ちゃんなにそれ?」とまた笑った。
「ちっ違います、例えばの話です、もっとこう、なんてゆうか壮大な浪漫があるじゃないですか、石油発掘には!!こっこいつはほんとにつまらない男なんです!」なんだなんだ、昨日石油会社のドキュメンタリーでも見たのか?
とにもかくにも北条は、会話の中に最低一つは僕の悪口を言わなきゃ死んじゃう病気なのだ。
僕は苦笑しながら友田先輩の方を見るとお互いの目が合った。
僕は今まで友田先輩の事を遠目でしか見たことがなかった。
そして北条から見せて貰った写真よりも間近で見る友田先輩は美しかった。
「君、名前は?」
友田先輩がなにか言った。僕がなにも言わないのに北条は不審に思い「ちょっと、先輩があんたの名前聞いてるよ」
北条が教えてくれてやっと我に帰った。
「すいません、政所です、政所」
緊張してか物凄く愛想が悪い挨拶になってしまった。
しかし友田先輩は全くそんな事は気にしないで
「まんどころくんね、万美子ちゃんを宜しく頼むね」
そう言った友田先輩の表情は一瞬何処か陰鬱だった。
しかし一瞬で友田先輩は素敵な笑顔に戻り軽く会釈をして歩いて行った。
先輩が去ると周りの人達もぞろぞろと教室に戻って行った。
「あんたなにあの挨拶、錆びたロボットみたいにガクガクになって、私の顔に泥を塗る気?まぁいいわ、私も最初は緊張したから、今日の所はレモンティで許してあげる」
北条は僕の失態を呆れてはいたがあまり怒ってはいないようだ。
僕は少し安心してポケットから財布を取り出すと
「いいわよ、あんたレモンティごときで今の借りは返せないわよ」と言って北条は教室に戻っていってしまった。
北条は本気で怒っていた。
僕は北条になにか大きな借りを作ってしまったのか?
僕は心拍数が上がったまま、頭の中が真っ白でチャイムの音も聞こえなかった。教師から早く教室に戻れと言われるまでずっと廊下で立ち尽くしていた。