北条万美子はお熱い
僕のクラスの北条万美子は生徒会長友田友美の熱烈な信者である。
今日の昼休みに生徒会の校内行脚の予定があるらしく、それが待ち遠しくて仕方がないようだ。
僕の前席に座っている北条は僕の方へ体を回すと
「今日こそはちゃんと友美先輩に挨拶するんでしょうね?友美先輩に挨拶してないのあんただけなんだから!」
「いやぁ、今日こそはって言ってもこっちにも予定が…」
「予定ってなによ?友美先輩に挨拶することよりも大事な予定があるんなら勘弁してあげるけどそんな予定あなたにあるわけないわよね?聞いてあげるから言ってみなさいよ」
これは面倒なことになったなぁ、北条は友田先輩の事になると頭のリミッターが外れるようだ。恐ろしいほどの上から目線に、僕は今日の所は何を言っても無駄だと思い北条に従うことにした。
「分かったよ、今日はちゃんと先輩に挨拶するからあまり興奮しないで」
「OKー!じゃあ昼休みまで寝ててよし!」
北条はそう言うと気分よく体を前に戻して姿勢を戻した。
以前北条は僕に自慢気に鞄の中を見せてくれたのだがその中には友田先輩の写真が200枚ほど入っており、その殆どが隠し撮りだった。先輩のつむじがアップで写っていたり変わった写真も何枚かあった。
そして家にはそれらと全く同じ写真が2枚づつあるのだという。
「これがノーマルで、これはレア、そしてこっちがスペシャルレアね!」まるで何かのカードゲームをコンプリートする収集家のような口調だ。
「家には"保存用"と"観賞用"があるから、今あんたに見せているのが"布教用"だから好きなの1枚売ってあげようか?」
呆れた僕はいらないと言ったら北条は少しむっとして
「ジョーダンよ、神聖な友美先輩の写真を売ってお金を稼ぐなんてするわけないでしょ?好きなの1枚あげるから貰いなさいよ!」といささか強い口調で言ったので僕はそれならばと1番怪しい写真を指差した。
それは友田先輩が階段の踊り場で誰かと会話をしていたのであろうか、先輩は横向きで微笑しており唇を僅かに開けている。窓ガラスからの光りが後光のようで先輩の美しさを引き立てておりそれだけ見ると素晴らしい写真だ。
問題はアングルだ。階段の1番下から犬位の目線で撮られており
今にも友田先輩のパンツが見えそうなのである。
僕は北条の反応を少し期待した。どうせまた変態だとかそれ見て家で変なことするんじゃないでしょうね、とか言ってくれるんではないかと。
勘違いしてもらっては困るが僕は決してドMではない。しかしなぜだか僕は他人から誉められたりするよりかはバカにされたりする方が気が楽なのだ。
特に女の子と話すときはどうしても真面目に会話することが出来なくてついつい言わなくてはいいようなつまらないギャグなんかを言ってしまう。そうやって生きて来たのである女の子からはもったいないね!なんて言われてしまった。
はたして、北条は僕が選んだ写真を見てなんて言うのだろうか、
北条は僕の顔を見るとニヤリと笑った。
「あんたにしてはいいセンスね、この写真を撮るのに相当苦労したのよ、友美先輩から溢れている神聖さとパンツが見えそうで見えないまさに崖っぷちギリギリのエロス、ほんのちょっとでもパンツが見えていたらこの写真は友美先輩を汚していたわ。」
北条は変わった人間だ。まさか褒められてしまった。
僕はきょとんとして北条からその芸術作品を受け取った。
頭をはたかれた、手加減無しに。
「いってー」
「ごめんごめん、軽くポンと叩いて起こしてあげようとしたんだけど強く叩き過ぎたみたいね」
ちきしょう、謝られたら許すしかないじゃないか、なんか損してる気分だ。
「お昼休みになったわよ、急いで!」
そう言うと北条は僕の制服の袖を掴み廊下に走り出した。
僕はセントバーナードに引っ張られている飼い主のように北条と廊下に出た。
廊下には既に人山が出来ており押すな動くな頭下げろ尻触るな!と色々な罵声が飛び交い渋谷のスクランブル交差点さながらの密度で息苦しい。
「毎回こんな感じなの?」と苦笑しながら北条に尋ねると北条も同じような顔をしてうんと言った。
時間を少し気にしたのか北条は僕の腕時計を覗くと僕の制服の袖を再び引っ張り「ごめんねごめんねー」とお笑い芸人のような台詞を言って前の方へ僕を誘導した。
「あとどれくらいで生徒会は来るの?」
「そうね、CMを2本見終わる位かな?」
生徒会役員は既に一階上のA組からE組までの行脚が終わったらしく階下にある僕らG組の廊下はお祭り騒ぎだ。
そしてついに生徒会長を筆頭とした生徒会役員がやってきた。
今まで渋谷のスクランブル交差点みたいだった廊下に生徒会が現れるとモーセが海を割ったように一斉に生徒がスッと左右に散って廊下の真ん中に空間ができた。
僕はベテラン北条の隣にいたので運良く一番前の場所で生徒会長を見ることが出来た。