愚者たちの踊り
アイリスの混乱は頂点を極めていた。
「え!? え!? 火の玉よ? 火の矢よ! |火よ≪ファイア≫!」
アラルドはアイリスに魔法の呪文を教えてくれた。
それはアイリスも読み書きはできる古代語だった。
その言葉は読み書きに使うためだけのものだと思っていたアイリスは、発音があることに驚いた。
ギースも、古代語で書かれた詩を普通語に訳して朗読しているが、古代語を発音したことはなかった。
魔法を教えられるようになってから三日目。
いくつか発音を教えられたアイリスにできたのは、一番短い発音だけだった。
魔力を手に込めて、呪文を口にして、火の玉にもならず、火の矢にもならなかった火は――アイリスの拳にまとわりついて火の拳を作り出した。
不思議とアイリス自身は熱くはない――
「アイリス……君、やっぱり才能はないかもしれない」
「ええっ、そんな!」
「|火の矢≪ファイアアロー≫すら言えないとは思わなかったよ。僕は|火の矢≪もえよ≫と言えと言ってるわけではないんだけど」
「|火の矢≪もえよ≫?」
「……うん? 今言えたね」
「あ、あなたが言ったのを真似しただけなんだけど、言えてた?」
「もう一回言ってみて」
「あ、ありゅぅくぁいえりぇばみゅお?」
「…………」
アラルドは無表情で沈黙した。
きれいな顔で静止すると、アラルドはさながら彫刻のようだった。
「あ、アラルド? 言えてた?」
「まったく言えてない。君は自分が言ってる言葉をちゃんと聞いてる?」
「き、聞けていないわ。言うのに必死で」
アラルドは顎に指をあてて真剣な面持ちで首を傾げた。
「……今から僕が言う言葉を繰り返してみてくれる?」
「い、今からぼくがいうことばを――」
「そこからじゃなくて」
アラルドに厳しくぴしゃりと言われて、アイリスは黙った。
言った後で自分が何を言ったのかに気づいて、アイリスは頬を赤らめた。
「……|火の矢〈ファイアアロー〉」
「……|火の矢〈ファイアアロー〉?」
「|火の矢≪もえよ≫」
「|火の矢≪もえよ≫!?」
〈|火の矢≪もえよ≫〉
〈|火の矢≪もえよ≫ー!?〉
≪……|火の矢≪もえよ≫≫
≪う、あ、|火の矢≪もえよ≫!?!≫
「初めからもう一度全部ひとりで言ってみて」
「うりゃぉえがぴみみみありゅぇおずぇぱり!?」
アラルドが眉間に寄る皺を大義そうにもみほぐしながら、改めて指示を出した。
「……火よ、と古代語で言ってみてくれる?」
「|火よ≪ファイア≫!」
「うーん」
アラルドは悩ましげに唸った。
本当に困り切った顔をしている。この男をこれほどまでに困らせることができるとは思わなくて、アイリスはハラハラしながら反応を待った。
「……僕が何を言っているかもわからないし、復唱している自分の言葉を聞いてもいないけれど、聞いたばかりの言葉は正しく復唱できている。古代語もネイティブな古代語も、|古代星≪ルーン≫語も、|古代魔≪ルト≫語まで。いっそ清々しい」
「|古代魔≪ルト≫!」
「聞こえた言葉を無暗やたらと復唱しないように。才能以上の言葉を口にしながら、万が一魔力を込めてしまえば、君は酷い代償を払うことになる」
「う……ごめんなさい」
「|古代星≪ルーン≫語と|古代魔≪ルト≫語というのは、古代語よりも難しい言語のことだよ。古代語の発音すら怪しい君には絶対に覚えられないし、例え復唱できたとしても決して魔力を込めないこと」
「はい、わかったわ!」
元気よく頷いたアイリスに、アラルドは哀れみに満ちた微笑を浮かべた。
「……結局、覚えられた単語は、|火よ≪ファイア≫と|水よ≪ウォータ≫と|土よ≪アース≫と|雷よ≪サンダー≫だけだね。これだけを言われた理の方も困ると思うよ。どうして欲しいんだかさっぱりわからない。だから唱える時にはイメージを大事にするといい。そうすれば君を愛している精霊が助けてくれることもあるだろう」
「火はとにかく、水に覆われた拳や、土に覆われた拳をどうしたらいいの?」
「それで魔物を殴るといいよ。他にどうしようもないだろう?」
確かにどうしようもなくて、アイリスは拳に揺らめく火を見て溜息を吐きつつ、それを消した。
「……ありがとう、アラルド。何もできないより、はるかにましだと思うわ」
「前向きだね。おめでたいことだ」
「これを私が村のみんなに教えたりしたら、あなた怒る?」
「別に? 時間の無駄だと思うだけだよ」
アラルドがそう言うということは、魔法の才能を持った人が他にはいないのかもしれない。
アラルドのこういう言葉を聞いた時、村の人たちは怒りそうだとアイリスは思う。
けれど――アイリスはアラルドに深く頭を下げた。
「ありがとう、本当に、本当にありがとう。とても貴重な知識を、力を、くれたことを感謝するわ」
「より苦しむことになるとしても?」
「より苦しむことになるとしても、よ。手段が増えて、私は嬉しいわ」
「そうかい。それじゃ、どういたしましてと言っておこうか」
「そうよ。初めからそう言えばいいのに」
アイリスが胸を張って笑顔でそう言った時、草を踏みしめる音がした。
そちらを見ると、ギースが木陰から出てきて言った。
「……そろそろ集会が始まる。おまえらも、来い」
「もうそんな時間?」
ギースは頷いた。暗い顔つきで……アイリスはそれを見てきょとんと小首を傾げたものの、特に何も問わず、広場へと向かった。
(洞窟の中にわく魔物の討伐隊を組む……誰か立候補してくれるかしら?)
立候補があまりいなかった時、村長は苦労することになる。
その時はアイリスが自らまた名乗りをあげれば、いくらか村長もやりやすくなるだろう。
(言葉を選ばないと……なんて言えばその気にさせられるかしら……)
村人にはそれぞれの性格と、傾向がある。
これまで見てきて得られた情報をもとに、アイリスは思考した。
ギースにより広場に村人たちが集められ、アイリスもその一員として片隅にいた。
広場の中心に村長が進み出て、アラルドが予告していた通り、より尊い精霊の誕生を阻止しようと魔王が送り込んできたという魔物の討伐について、議題をあげた。
「討伐隊に志願する者はいるか?」
ざわついていた村の人たちは静まり返った。
やり玉にあげられることを恐れている……そんな中、狩人のダヴィがゆっくりと手をあげた。
「おれが行こう。魔物退治には村の誰より慣れている……だが、おれ一人じゃきつい。あの洞窟の中へ入るのなら、あと五人ぐらい欲しいんだが」
「そうじゃな。志願する者がいなければ――」
「オレが行くよ、オヤジ」
「ギース!」
村長が本当に驚いたといった表情で声をあげた。
自ら手をあげたギースを見て、アイリスも驚いた。危険な仕事だ――けれど、だからこそ次期村長を担う人間が行うべきかもしれないとも思った。
ギースが中央ヘ進み出るのを見て、アイリスは開きかけていた口を噤んだ。
彼の出方を待つことにした――ギースは、いくらか影はあるものの、落ち着いた面持ちで広場にいる面々を見渡した。
「オレは、次期村長としてこの危機に、責任を持って立ち向かっていきたいと思っている――」
堂々とした宣言。
村の人たちは息を呑んでギースの言葉を待っている。
アイリスは表情をほころばせた。これまでのギースに足りなかったものがそこにある。
それでこそ村長としてあるべき姿だ――これなら安心して逝ける。
「だが、オレとダヴィだけでは力が足りない。どうか、みんな、オレたちに力を貸して欲しい!」
ギースが率先して立って誘う。
アイリスがやろうとしていたことを、彼がやってくれる。
ならば、アイリスが名乗り出なくてもいいかもしれない……そう思った時、ギースが声色を変えた。
「……できれば、ついてきてほしいと思っている人員がいる。きっと彼がいれば討伐作戦は成功するだろう。彼なら、それだけの力を持っているに違いないからだ」
今のギースに誘われて、嫌だと言える村の人はいないだろう。
いたとしても、断った人が白い眼で見られるぐらい、今のギースには統率力があった。
「魔王の台頭により力を強める魔物が跳梁跋扈する中、旅をしてきた、黒衣の神官アラルド――あなたの力を貸して欲しい」
「……えっ?」
アイリスが思わず漏らした声を聞き咎め、ギースが視線を向けた。
ギースは暗い目つきでアイリスを睨んだ。
「何か意外か? 村の為に、力ある人間に協力を要請しているだけだ」
「だ、だって……」
アラルドは要請を断ったと言っていた。村長から内々に頼まれて、既にその意志を伝えているはずなのだ。
それをギースは知らないのだろうか?
アイリスが村長を見やると――村長は目を見開いてギースの言動を注視していた。
……愕然としているように見える。
「アラルド、オレと一緒に洞窟に入り、魔物の討伐に協力してほしい」
「嫌だよ、何故僕が力を貸してやらないといけない?」
「何故だって!?」
ギースが声を張り上げた。まるで信じられないとでも言うかのように。
「オレらの村は突然の訪問者であるあんたを歓待しているじゃないか! この非常時に食料を分け与え、あんたには敬意を払っているのに! あんたはオレたちのためにそのありあまる力を使うのを嫌だというのか?」
まるで村の代表だと言わんばかりにギースは言う。
村の人たちにざわめきが広がっていく――アイリスの見た限り、信じられないことに、村の人たちはギースに同調しているようだった。
「ここは僕の村ではない」
アイリスには最もな意見に聞こえた。けれど、村の他の人たちも、非難するような声をあげた。
責めるような視線が集中する。
アラルドは――その視線を笑みを浮かべて受け入れていた。
「あんたは神官なんだろう? 神官というのは、こういう時に力を使うためにいつもはもてはやされているんじゃないのか!」
「……望みは何かな? 端的に言うといい。君との会話は面白くない」
「――あんたの存在は村の負担になっている。荒ぶる神について知識を提供してくれたことには感謝するが、うちの村にはエレナさんがいる。もうあんたが何も役に立つつもりがないというのなら、出て行ってくれないか」
「ギース!」
思わず口を挟もうと声をあげたアイリスだったが、そのアイリスの声に被せるように、ギースは大声で言った。
「アイリス!! 信じたくなかったがその様子だと本当だったらしいな。おまえはその男と村から逃げ出す計画を立てていたんだって!?」
「そんな……一体誰がそんなことを!」
いや、誰が言ったのかはアイリスにもわかっていた。
アイリスは視線で広場の中にリーラの姿を探したが、彼女の姿は見えなかった。
「アイリス、おまえは責任感の強い娘だから、その男に誘われてももちろん断ったんだろう? ……だが、その男といる内にほだされたか?」
「そんなことはないわ!」
「だがおまえがその男とべったりしているところを、村のやつらが何人も見ている!」
「ただアラルドとは話をしていただけで……! 彼は色んな事を知っているわ! 最近だって――」
「いい! 聞きたくない。その男を庇う言葉は!」
「彼は本当に色んな事を知っている! 例え彼自身が動かなくとも、役に立つことを教えてもらえたわ。私は魔法を教えてもらったの! 魔物の討伐でも、きっと役に立つ――」
「黙れと言っているだろう、アイリス! 誰か! アイリスを捕らえてくれ――彼女がもし逃げ出したら、人身御供は再選定だ」
「あっ」
恐怖と怒りに染まった表情の人たちに、アイリスは押さえつけられた。
首だけで周りをめぐらすと、村中の人たちの視線を受けても堂々と立ち続けるアラルドの姿を見つけた。
アラルドは――楽しくて仕方がないと言った顔つきをして、地面に押さえつけられたアイリスを見下ろしていた。
アイリスは、ゾッとした。
アラルドが何を言おうとしているのか、アイリスにはわかったからだ。
――リーラの時と同じことをしようとしている。
「さあ、アラルドさん、あんたにはこの村から出て行ってもらおうか!」
「……あの男はこう言っているけれど、どうしよう、アイリス?」
アイリスには、彼が何を言おうとしているのかがわかる。
けれど、それを言って欲しくなかった。
アイリスがそう思っていることを、アラルドは百も承知だろう――けれど言うに違いない。
(どうして――私は、アラルドにここにいて欲しいのかしら?)
疑問に思いながら、アイリスはアラルドの顔を見上げていた。
彼の美しい唇が、笑みに歪んだ。
「君がいて欲しいと言うのなら、僕はこの村の誰の反対を受けても君といるよ」
ここでいて欲しいと言ってしまえば、ギースと村中の人間の怒りを買うことになる。
「僕は君の願いを叶えてあげたいんだ――それこそ、なんでも」
村中の人間が、彼の一言一句に反応する様を、ギースの表情の変化を、彼は本当に楽しんでいるようだった。
「君が逃げたいと言うのであれば、僕は全力でもって君の助けとなるだろう」
「――その男を捕らえろ!」
「さあ、どうするアイリス?」
「……あなたの助けは必要ないわ」
そう、はっきり村中の人間の前で宣言するしかない。
アイリスの言葉に、激怒していたギースは落ち着きを取り戻した。
アラルドは「そう?」と簡単に頷き、肩をすくめた。
「それなら、僕は彼の希望通り村を出るよ」
「ええ……さようなら、アラルド」
「さよならアイリス。――また会う時まで」
そんな時が果たしてあるだろうか――きっとないだろうと思いながら、アイリスはアラルドが後ろ髪引かれる様子もなく、あっさりと背を向ける姿を眺めていた。
彼の姿が広場から消え、見えなくなると、アイリスは顔をあげている力もなくなり、項垂れた。
「……アイリスをうちの納屋に閉じ込めて、誰か見張りを立ててくれ」
ギースの言葉に村の人たちが従う……そうあって欲しいとアイリスが常々願っていた状態。
喜ぶべきなのに、今のアイリスにはとても嬉しいとは思えなかった。
納屋まで運ばれて、外から鍵がかけられた。
アイリスは薄暗い納屋の中で膝を抱えて座り込んでいた。
しばらくして……扉が外から開かれた。けれど、アイリスは顔をあげなかった。
「アイリス、わしじゃ」
「……村長」
膝に顔をうずめていては不敬になる。
顔をあげて、村長の顔を見た瞬間、アイリスの小豆色の両目には涙が溢れていた。
泣くアイリスを、村長が抱きしめた。
「うう、村長……」
「……すまない、アイリス、リーラは黙らせたと思ったんじゃが、わしの思い違いじゃった。大人しくしていると思ったが、まさかギースに告げ口しているとは思わなんだ。本当にすまなかった。ギースがこのようにおまえを侮辱するようなことになろうとは」
「そのことじゃ……ギースのことじゃなくて」
「リーラのことか? お前に対するこの仕打ち、さすがに許せないか?」
「違う……違い、ます」
「あの男のことか?」
アイリスは泣きながら頷いた。
村長は深い溜息を吐いた。
「死ぬまでの短い期間、おまえがあの男を愛そうと構わなかった……逃げたいのであればわしはあえてそれを止めようとも思わんかった。じゃが、あの男とは一緒になっても幸せにはなれんよ。この村で死んでおいた方が幸せかもしれん」
「逃げたりなんか、しない、しません」
「……それでは、やはりギースは、わしの息子は見当違いの大馬鹿者じゃということじゃな。身勝手な嫉妬でおまえを傷つけた。憎い男を村から追い出す為、おまえを侮辱しおまえから愛する男を奪う為に、村人から支持を得ようと、魔物討伐隊に参加を表明してまで……命を懸けて……愚かなことじゃよ」
「愛する、おとこ?」
「愛していたんじゃないのか? いつも一緒にいたじゃろう。一緒にいて楽しかったんじゃろう?」
「楽しかった……でも、あい……?」
そうではない、そうではないと思った。
アイリスは、愛というものはわからないけれど、これが愛だとは思わなかった。
「だって……だって! あ、アラルド、私を最期まで見ていてくれるって、言っていたのに」
「……愛する男に看取られたかったということじゃないのか?」
「アラルドは、私のことをなんとも思っていないし……私は、そこがよかったの」
「はあ?」
「村長みたいに私を、可哀想だと思わないし……ギースみたいに私をまるで私じゃない別の女の子みたいに勘違いもしていないし、リーラみたいに怒ったりもしなくて……村のみんなみたいに、私をそうあるべきだとして扱わない……。アラルドは、私のことを私のまま見て、面白いって……変わってるけど、たまにはそういう人もいるって……そう言ってくれた」
アラルドの目から見ても、アイリスは変わっているらしい。
けれど、あくまで人間の女の子としてアイリスを扱っていた。
アイリスを変わっているとは思っても、村の人たちのようにアイリスを得体のしれない生き物だとは思っていなかった。
「アラルド、わかりやすかった……村長よりも、ずっと、すごく、わかりやすかったわ。自分以外の他の何もかもをどうでもいいと、そう思っていて……退屈していて……面白いことを求めてる、ただそれだけの人……みんなみたいにわかりにくくない。みんなみたいに、私の言葉で、傷ついたり、不愉快になったりしないし、怒ったりもしなくて、ほとんど何も思わなくて、ただたまに、面白いって……外のことを話してくれて、私が変なことを言っても、わけがわからないって、投げ出したりも、しない、し」
アラルドが、アイリスを理解しようとしてくれた。
アラルドは外の人だから、機嫌を損ねなければ、アイリスは態度に気を付ける必要を感じなかった。
アイリスはありのままでいられて、アラルドはそれでいいと思っていて――アイリスが最後の最期まで心変わりしないかどうかを、すぐ傍で見ていようとしてくれていた。
面白がって、あるいは悪意ある誘惑をするために――たとえそれでも。
「私が、考えるんじゃなくて、私が、見ていてもらうの。私の気持ちがどんな風になっているのか、アラルドが、考えないといけないはずだったのよ! そう約束、したのに。賭けたのに。――ちゃんと死に殉じたら、お願いを叶えてくれるって言ったのに!」
「アイリス……すまない」
「アラルドの、バカ。嘘つき、嘘つき! ――楽しみにしてたのに! 悔しがる顔を見てやろうと思ったのに……ッ!」
例えアイリスが死に殉じる道を選び、彼が賭けに負けたとして――彼は悔しがるかもしれないが、同時に面白がってもくれるだろうと、アイリスはそう確信していた。
アイリスの最期の姿を見ても、悲しむこともなく、怒ることもなく、勘違いすることもなく――ただアイリスを見届けてくれただろう唯一の人だった。
「あんな言い方したら……! さよならって言うしかないのに……!」
わざわざみんなの前であの言葉を選んだのは、きっと「ただなんとなく」そして「面白そうだったから」アイリスを傷つけようとしたために違いなくて。
「バカ、バカアラルド、アラルドのバカ……バカああああああああ――――ッ!」
これぐらい言っても許されるだろうとアイリスが生まれて初めて思った人。
彼は、そんなアイリスとの約束をあっさり破って、さっさと村を後にしてしまった。




