照準の中に
F県某地域・・。
寒気に流れて吹いている風に揺れて踊る草木の葉。ただ呆然と私はそれを眺めて冷えた自動小銃を手に地面へと伏せていた。
何も聞こえない。といっても聞こえるのは風が通るときの篭る音。
誰も居ない、動物の鳴き声もしない。
ただじっとその場に私は居る。
「よしいくぞ」
川崎秋水軍曹。彼は草に偽装するスーツに身を纏ったギリースーツを着用しその場から立ち上がった。
手に持つ自動小銃はM40ライフル。
銃本体にも同じ偽装がされている。
草木を掻き分けて進む姿に続き、私も屈みながら前進。
寒い。
それももちろん、なんたって1月中旬。
雪が積もる山々を越えて私たちは標的を求めて常に前へ、前へと進んでいた。
無意識に歩いていく。
そして知らない間にブーツが冷え、足は痛くもなく冷たく、熱い。よくわからない感覚を持ちひたすら彼女の背中を見続ける。
雪解けの森林内は足場は悪く、ぬかるんで、一歩間違えれば滑って転んでしまう。
枝木から差し込んでくる日光。その目の前に人影が二人居る。
警察の連中か?
と思ったけど、青い防弾着と9mm短機関銃をベルトでぶら下げて辺りを歩いて何かしら警戒をしている。
「どうして警察隊がここにいる・・!」
「この方向は原発じゃないのか?」
私は問う。彼女は黒い瞳を向けて
「警備と偽って核燃料を取ってるんだろう。たぶん連中らは大金で雇われて公務の目的を無視している」
と言った。
確かに私たちは原発にある用事があったためその単語を放っただけである。
「殺すか?」
私は肌身離さず持っていたM16A3ライフルを構え、ACOGの照準に連中の一人、頭を十字に合わせ引き金に指をかける。
銃口先端は黒く太い筒をつけている。
消音機だ。撃っても多少響かない。
「合図で撃って。3、2、1・・」
トリガーを引いた。
篭った銃声が2回。
警察隊の男らはぱったりと地面に突っ込むように倒れ、その屍のそばを後にするように私たちは再び進んだ。
轟音と強風に葉達がまい散る。ヘリコプターが私たちの頭上をゆっくり通り過ぎ私は見上げる。
"福島県警"という黒文字に青と赤の線をの胴体・・。
頭上を通り緑の森林の影へと消えていいった。
残るのは轟くヘリの音・・。
「大当たりだ。奴ら県警使ってるぞ。大問題になりそうだな」
「政府も黙っちゃいないよ。なんせ私が居るからな」
「そうだったな、川崎・・」
森林を突破・・。
あの爆発で廃墟になった福島原発が目の前に見えていた。
送電搭が並ぶ・・。
爆発後が生生しく残る原発施設では防護服を着用しないでせっせと核燃料を積んで取引の準備をする警察部隊・・。
黒尽くめの最新装備を整えてその作業を眺めるA.K.Aの隊員らが原発内を巡回している。
残骸だけが残る原子炉号機。
ゴマに見えて動く人々、双眼鏡をのぞいてみれば福島県警の機動隊とA.K.A社が車両に武器や原発施設から奪い取った機械をトラックに積んでいた。
「まったく警察がここまで腐ってるなんて思いもしなかった」
不機嫌そうに川崎は言葉を吐いた。
双眼鏡を覗いて彼らたちの動きを監視していると、川崎は自ら持ってきた大型ライフルのトランクを開く所を横目で見つめる。
ずいぶんとデカイ物を持ってきたなぁ・・。
「50口径大型ライフル?」
私は尋ねた。
川崎はうれしそうに答える。
「あなたの国から購入した新品ライフルが初めてここで使えるのよ。せっかくだし撃ってみる?」
「私はもう何回も撃ったよ。川崎が使って」
「そう。ありがとう、これでやつの頭を私の手で撃てるわね」
「奴って誰だ」
気になってまた言うと二脚を装着、ストックをつけてスコープを連中のほうへ向ける川崎は小さな口を開いて言った。
「そうね・・。ここにやってくる警察警備隊長とA.K.Aの取引役人かしら・・」
「警備隊長は偽りを何度もやってこのA.K.Aに最新武器を提供したりして金を稼いでるわ。表向きは危険地域警備とか言ってるけど・・。A.K.Aの取引役人は兵器は勿論、武器の販売とかやってるわね。核もそうよ?」
私は理解した。
ここにつれて来られた事も。
「そうか、それで私をここに呼んだのか。それにP.D.M社の社員も」
「部隊との息が合うからね。それに政府もP.D.Mを歓迎していた・・。小さい会社ながら信頼は高いのよ?」
双眼鏡に目を入れる。ちょうど一台のトラックと随伴の警護車両にパトカーが数十台度厳重警備に原発施設内に進入するのを目で追う。
3号機と4号機の間の通路前に停車する。A.K.Aの黒尽くめ達と警察が取り出した核燃料と思われる入れ物を引っ張り出してきた。
「出てきた。あれか?」
ブリーフィング前に出された黒いベレー帽に黒の戦闘服に身を包んだ白人の男が警護車両の中から現れ、サルのような顔をし警察の機動隊服をした警備隊長も一緒に出てきた。
「いつでもいい。合図とともに撃つ」
だが左から吹く冷風が強い。
「風が強い・・。まだだ」
それに機銃をつけて取引現場に向う警察ヘリまで頭上を再び通りすぎ、余計に風が強くなる。
すでに取引は始まっている。
だが風は一向にやまない・・。
「弾道右寄りになるけど、一か八かでやってみる?」
「OK、何とかやってみるわ」
すでに取引現場は終わりに近づいているのか黒ベレーの男がアタッシュケースから日本円の現金が詰まったものを警備隊長に見せ付けた。
これで終わりか・・。
と思った時だった。
突然、警備隊長が核燃料の入れ物に指を指して顔真っ赤にしながら何か怒鳴っている。
ちょうど二人がもみ合って黒ベレーが背が向けられ、警備隊長が重なりて隠れた姿になる時。
「いまだ、撃て!」
鼓膜が破れるほど強烈な銃声が、静かな空間を撃ち裂いた。
双眼鏡から伸びる赤の線が男二人の胴体を貫き、大円の風穴を作り吹き飛ばされる。
真っ赤な血が冷たいアスファルトに塗られる。
発射音を聞いた警察隊とA.K.A社の連中らは動揺し小銃をどこからと構え始め、警護者や自動車がいっせいに走りだし草木の影へと消えていく。
「上手い射撃だ。一発で2人殺るとは」
双眼鏡をはずして言う。
「ありがとう。ここをそろそろ退散したほうがいいかしら・・」
「ん・・」
強風かと思えば目の前に攻撃ヘリが!
ロケット弾ポッドに対戦車誘導弾が翼を連ね構えられている。
キャノピー下に20mm級だろうか。人間をミンチにできる機関銃が搭載されていた。
「Mi-24Dがどうして!」
「対抗手段はないぞ!走れ!」
背後に迫る殺人機を後に私達は再び来た道を引き返し、その場から死の物狂いで走り出した。
なぜなら熱感知カメラで木の下に隠れようとも私達の持つ"熱"がある限り奴らは徹底的に狩ってくるからだ・・!
「ミト、急げ!回収地点まで走るわよ!」
神様私達が回収地点までたどり着けるまでどうかあの攻撃ヘリを近寄らせないでください・・。
胸に秘めた十字架を創造し私は神にとにかく祈り冷たい森林の中走り出した。