影
ジリリリリ………
警報ベルが鳴り響く。
ここはとある国のとある施設。
たった今爆発音がして、施設が少し揺らいだところだった。
「何だ。今の音は!」
この施設の責任者であろう男が、近くにいる部下であろう男に問い掛ける。
「分かりません。30分程前に付近で黒い影を見たとの報告はありましたが「何故報告しなかった!!」」
男が部下の言葉に激怒する。
「それは」
「無駄口は後だ。見せろ!」
部下がパソコンを操作し、ディスプレイに監視カメラの映像が映し出された。
途端、男の顔が蒼白になる。
「まさか…奴らか?」
ジリリリリ………
警報ベルは鳴り止まない。
△▲△▲
「はぁ、派手にやりやがって。まあ、良いか。」
暗闇で影が呟く。まだ若い、青年の様でいて、何処か達観した老人の様な声。
影の右手には黒塗りの刀、顔には黒い仮面、そして全身黒尽くめのその出で立ちは、まるで大きな烏の様である。
ブー、ブー、ブー、ブー………
突然、何かが鳴り始めた。彼はポケットからそれ-通信機-を取り出し、
ピッ
ボタンを押す。
『すまない。予想していたより威力が強かった。だが、作戦に支障は無い。案ずるな。』
彼は表情を変えない。
「そうか。別に気にして無い。だからお前も気にするな。」
その言葉に安堵したらしく、
『……そうか。なら良い。』
ホッと胸をなで下ろした様だ。
「けど、俺を冷や冷やさせた分だけ後で殴る。」
『えっ?』
「冗談だ。じゃあな。」
ブツ
と、そのまま切ってしまった。
そして直ぐに行動を再開する。
「さて、死神のお迎えだ。行くぞ、黒百合。」
愛刀の名を愛おしそうに呟いて彼は歩み出す。
光の無い暗闇の中を。
何も見えないはずの廊下を。
まるで全てが見えているかの様に。
そして彼は、
闇に消えた。
△▲△▲
「えっ?」
『冗談だ。じゃあな。』
ブツ
ツー、ツー、ツー、ツー
「……一方的に切りよって。」
ぼそっと呟いたのは、赤い長髪に黄色い瞳の男だ。声からして十代後半あたりか。先程までの男より幾らか年上かも知れない。
男は軽く溜め息を吐く。
「まあ、昔と比べ幾分ましか。良しとしよう。」
少し嬉しそうに呟いた。
「さて、こちらもそろそろ動くとしよう。」
と言って、彼もまた、
闇に消えた。
△▲△▲
「ま、待ってくれ!」
目の前の男が叫ぶ。
「た、たの、頼む。殺さないでくれ! あ、あんたらだって、こんな事がバレたらお終いだろ?」
男は必死の形相で言葉を紡ぎ出す。
それもそうだ。それに、死にたくないのは当たり前だ。例外は居るが、死にたい奴なんてそうそう居ない。と彼は周囲より優秀だと自負する頭から例外の顔を引っ張り出し、脳裏に思い浮かべる。もはや目の前の男の言は聞いていない。殺すのだから。
それ故彼の唇は、
「無理だ。」
と言葉を紡いだ。
刀を引くと、黒塗りの刀身が紅黒く光った。
彼の周囲には幾つもの死体があり、その何れも、つい先程までは動いていた。歩いていた。喋っていた。
それを、
一瞬で終わらせた。
刀を振る度、肉が切れ、命が散り、それらの全てが終わっていった。
そして……
「あんたも殺る。」
男に向けて刀を突き出す。
男の首に、漆黒の刃を、闇を、突き立てる。
「がっ!?」
声とともに、その男の全ても終わった。
見開いた目から光が失われて行く様は、何とも言い難い感情を呼び起こす。敢えて名を付けるなら、それは恐らく……
ブー、ブー、ブー、ブー……
狙ったように、通信機が鳴る。
彼は少し嬉しそうに笑いながらボタンを押した。
『終わった?』
相手の声は少女の様だ。
「ああ、今終わった。」
『そっか。良かった。大丈夫? 無理してない?』
「別に無理なんかしてない。大丈夫だ。」
通信機の向こうから、ふーん、という声が聞こえる。
『じゃあ、ゲート開けるから。待ってるね。』
ピッ
そこで通信は切れた。同時に床に円が現れ、白く輝き始める。
「さようなら。育ててくれた事には感謝してます。」
そう言い残し、円へと歩を進め、
消えた。
敢えて名を付けるなら、それは恐らく「恐怖」と「歓喜」。