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お馬鹿コメディ短編集

異常彼女の一方通行

作者: 湯気狐

 こんな娘が彼女だったら楽しい……けどかなり疲れるんだろうな……と、思いながら書いたお馬鹿短編四作目です。


 恐らく、今まで描いて来た女の子キャラで一番ぶっ飛んだ娘だと思いました。それと同時に、書いてて凄く楽しい作品に仕上がりました。


では例の如く、物好きな方だけどうぞ。

 貴方は一体どんな彼女が欲しいだろうか? もしくはそんな人がいるだろうか?


 清楚で家事ができる娘。ツンツンしつつたまにはデレる娘。テンション高くて賑やかな娘。とにかくデレデレでべったり甘えてくる娘。


 とまぁ、欲する女の子の例を上げれば十人十色だ。色々な女の子がいて、各々が良し悪しな部分を備えている。


 ちなみに、俺が望んでいる女の子の特徴は今挙げた例の一つ。『テンション高くて賑やかな娘』だ。


 俺は常に欲求不満で、これといった変化も何も訪れない日常を拒み、嫌っている。だからこそ、俺の予想を遥かに越えるハイテンションガールさえいれば、毎日が楽しくなると信じているからこそ、俺はそんな彼女が欲しかった。


 ……なんて、思っていた時期があったことを今でもはっきりと覚えている。


「なぁなぁ真白ましろ、見てくれよこの素晴らしきベストショット」


 アパートの一室。俺の部屋のベッドの上でダラけていると、先程から何やらスマホを弄くっている茶髪ロングの娘がその画面を唐突に見せてきた。


 画面に写っていたのは――漫画とかでよく見る、とぐろを巻いたウンコだった。


「凄くね? 今日の学校帰りに偶然見付けてさ。あまりにも綺麗な形過ぎて写メ連写した上に、家に持って帰って玄関に飾っちゃったよ、アハハハハッ」


「…………」


「あっ、ちなみにちゃんと持ち運んだ時には軍手を使ったから、手に菌が付いたとかそういうのはノープロブレムだぜぇ。こう見えて私は綺麗好きだからさ? いつも部屋は白銀の光沢を放ってるんだぜぇ? カッケーでしょ? イカしてるでしょ?」


「………………」


「あっ! それとそれとこれも見てくれよこれも! 休みの日に『何かラッキースケベでも拝めねぇかなグヘヘヘヘッ』と呟きながら散歩してたんだけど、そしたらミニスカート穿いたこれまた天然娘っぽい女の子が何もないところで転んでさ。すかさず中身を撮ったよね。勿論、連写してやったよ? ほら、見てくれよこのエロパンツ。ヤバくね? 私が男なら毎晩おかずに使ってるわ~」


「……………………」


「……なぁ真白~。何か反応してくれよ真白~。あっ、もしかして別のところで反応しちゃってるとか? やだなも~、まだ真っ昼間だってのに発情するとかどんだけ性に飢えてんだよ~。しょうがないから今晩は満足できるだけ相手してやんよ~。と言っても、相手というのはあのボクシングでカチカチするおもちゃの相手だけどな~。やれやれ、すぐに相手とか言ったらそういう意味に捉えるんだから真白ったら~。でもそういうところにも好意を感じちゃう私がいたりいなかったり――」


 お分かりいただけただろうか? このツッコミを入れる隙さえ見せ付けることなく、あらゆる方面に話の方向性をあっちゃこっちゃと持っていき、とても女の子とは思えないような内容をベラベラ語ってくる少女。


 はっきりと断言できる。こいつは異常だ。俺の予想を遥かに越えるどころか、大気圏を突破した後、更に月の彼方に消え去る勢いを備えた異常な奴だ。


 今まで俺は色んな変わり者と接し、友達になってきたが……ここまで思考がぶっ飛んだ奴はまずいなかった。いや、いるわけねーだろこんな素質を持ったやつ。


 開口一番にウンコを家に持って帰って玄関に飾るだなんだと言ってくる奴なんて……イッてるだろ。馬鹿とか阿呆とか、もはやそういう次元の話じゃ収まらない。


 ……だからこそ。そんなぶっ飛んだ奇想天外な奴だからこそ、俺はこの梨明日りあすという女の子に告白したんだけど。


 その結果はご覧の通り。「黄泉まで見送りしてくれると見せ掛けて閻魔に下剋上仕掛けてくれるなら許そうじゃないか」と言われてこうなった。これで俺は地獄に落ちることが決定してしまったんだが、その時はその時に考えようと深く考えないようにしている。


 ちなみに俺も梨明日もまだ高校生なのだが、お互い一人暮らしをしていた事実を知った途端、こいつは何の連絡もいれることなく無理矢理この一室いえに引っ越して来ていたりする。つまりは同居だ。


 振り回されてる。即座にそう思ったけど……まぁ、毎日が暇にならずに済むならもう良いかと割り切った。


 ……いや良いのか? 冷静に考えると駄目じゃね? もしかして、梨明日と共にいるせいで俺にも異常性が感染してきてるとでも? いかん、それだけはいかんよ。


 取り合えずだ。俺も人のこと言えずにベラベラ語っていたが、まずはあるものを処理せねばならない。


 玄関のウンコ、早く駆除しないと洒落にならないことになる。少なくともカレーが一生食えなくなるだろう。ラーメンよりカレー派の俺にはキツい現実だ。


 未だに喋り続けてゲラゲラ笑っている異常彼女を放置し、俺は部屋から抜け出そうとドアを開け――


 ポタッ……ポタッ……


「…………ぁ?」


 ドアを開けて部屋から出た瞬間、真上から妙な音が聞こえた。音と同時に俺は真上を見上げると――


 ポタッ……ポタッ……


 そこには真っ赤な血に染まった生首が。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?」


 俺は今まで生きてきたこの十七年間の人生の中でナンバーワンの悲鳴を上げ、ヘッドスライディングで部屋の中に飛び込んだ。ズザザザザッと思いきり顔面を擦ってしまったが、この際こんなことはどうでも良い。


「ぶはっ! ぶははははっ! やっべ、今の反応テラワロスッ! あれだよ真白それ、絶対ドッキリコンテストでナンバーワンのオンリーワンに輝ける反応だよ、ぶはっ! ぶははははっ!」


 梨明日はとても満足なようで、女の子とは思えない程のだらしない笑顔を浮かべ、俺を指差して爆笑していた。腹を抱えて仰向けになりながら笑い上げる姿を見ていると、とてつもなく『殺したい』という衝動に背中を押されてしまいそうになる。


 ……もういっそ殺してやろうかこのトラブル・オブ・ザ・ガールを。


「あぁやっべー、やっぱ真白は最高だぜ~。やっぱ私の目に狂いはなかったよ。『こいつには私の波長が共鳴できる素質がありやがるでございますよおとっつぁん?』と睨んでたけど、やっぱその勘はドンピシャだったわ。やっぱスゲーなー私。やっぱやべーなー私。つーか『やっぱ』使い過ぎだし私。あっ、真白が言いたかったこれ? ごめーんち☆」


 俺はどうしてこんなクソウゼェ女を好きになってしまったんだろうか? あれか? 彼女できたのが初めてだったから、何処かで舞い上がってたのか? イカれてんな俺。


「あー、そういや通報なんてしないでよ~? さっきのあれは、マネキン+私の装飾スキルを組み合わせて出来た努力の結晶作品だからさ。徹夜で三日間かけて作製したんだよ? 凄くね私? 普通に逸材じゃね? 鍛えればどんな鉄をも打ち砕く日本刀になるぜ? ……って、日本刀の領分は『斬る』だろってな、アヒャヒャヒャヒャッ!」


「……あのさ梨明日」


「おぉっ!? ようやく私の台詞の次に続いて真白の台詞がつづられたっ!? これぞ私と真白によるカップリングコミュニケーショーンフォーエバー!? やっべ、ムラムラしてきやがったぜ。今晩の飯は真白のソテーだなこりゃ。調味料は多目にして味は濃い方向にして……やっべやっべ涎が止まらねぇぜグフフフフッ」


「…………」


 駄目だ、ツッコミどころか普通に会話する隙さえ与えてくれねぇ。梨明日ってもしかしたら話を聞いてくれる相手がいたら、もうそいつが誰だろうと選ばないんじゃないだろうか?


 ……って、なんだよ俺。この言い方だとまるで俺が寂しいと感じてるようじゃないか。全く冗談じゃない。


「…………」


「…………んん?」


 さっきまであれだけ喋っていた梨明日が突然時が止まったかのように固まっ――たと思いきや、何か掌サイズの妙な機械を何処からか取り出し、小さな画面を見た後に俺の顔をジッと見つめてきた。


「……な、なんだよ」


「…………真白、君は」


 そう呟いて梨明日が今さっきまで見ていた画面を俺に見せてきた。そこにはこんな文章が。


『駄目だ、ツッコミどころか普通に会話する隙さえ与えてくれねぇ。梨明日ってもしかしたら話を聞いてくれる相手がいたら、もうそいつが誰だろうと選ばないんじゃないだろうか?』


「うっひゃ~、かぁ~良い奴だな真白~。な~にクール決め込めているように見せ掛けて寂しい感情抱いちゃってんのよ~? むっふふ、でもこれって真白が私に惚の字だっつー証拠だよな~。愛されてんな~私。いやぁ、惚れられるって罪だわ~」


 ヤバい、今にもスイッチ入って真面目に梨明日を殺してしまいそうだ。退屈しない代償に俺のストレスはビンビンになっていく一方だ。


 しかも心を読む機械なんて恐ろしいものまで作製しやがって……天才と馬鹿は紙一重とか誰が言ったんだろうか?


「お、おいおい真白、そんな怖い顔しねーでくれよ~。別に私は馬鹿にしてるわけじゃなくて、これでも素直に喜びを表してるんだぜ? それと一つ勘違いしてるから言っておくけど、私は真白が相手じゃないとこんな騒音機みたいにベラベラ喋らんよ? だからそんな可愛かわゆいこと考えなくても大丈夫だって」


「はいはいそうですか。すいませんね女々しい思考の持ち主で」


「そんなイジケるなよ~。女々しいまでは一言も言ってないだろ~? まぁ、真白は女々しいところあるけどさ……『って、結局言ってんだろっ!』てな。いや~ん、許して真白ちゃん♪」


 もう完全無視してやろうかな。いや、もういっそのこと別れ話でも持ち掛けてやろうか? ここまでウザいともう我慢の限度メーターが上限越えてどっか吹き飛んで、同時に俺の理性も吹き飛びそうだ。


 ていうか、そろそろウンコ処理しないとマジで駄目だろ。ドリフ世代もドン引く反応を示すくらいにウンコ臭満開の一室ができあがんぞコレ。


 リトライするかのようにまた立ち上がり、俺は今度こそ玄関のウンコを駆除するべく移動を――


「伝説の英雄、それはガーディアンクラッシャー。己の家族を手にかけることになった宿命を持ちながら、一欠片も崩れぬ屈強の精神を携えた最強で最恐のデストロイヤー。そう、それがこの他でもない私のことだ!」


 しようとした瞬間、ドアの前にガーディアンクラッシャー梨明日が立ち塞がった。


「……退いてくれないでしょうか、ガーディアンクラッシャーさん」


「悪いな勇者真白デニーロよ……私には守らねばならぬ家族がこの背にいるのだよ」


「その家族を手にかけることになった宿命を貴女は背負っているんじゃないでしょうか」


「……フッ、これだからまだまだ未熟なのだよデニーロちゃん。ガーディアンクラッシャーとは気まぐれな生き物なのさ。時には己の宿命に抗うことも日常茶飯事なのさ! 誰にも縛られずに突き進む俺の道! 誰にもこの道を遮ることは叶わんよ!」


 こいつ、俺がウンコを処理することを悟ってやがる。なんなんだその執念。その強き信念はもっと他の場面で活かしてほしい。


「特例で通してくれないでしょうかガーディアンクラッシャーさん。デニーロちゃんにもそれなりの使命がその行路の先にあるんです」


 ……ノッてあげてる俺は優しいんだろうか? それとも単純に馬鹿なんだろうか? 真意は誰にも分からない。というか理解して欲しくない。


「やはり、我らの意思が繋がることは叶わぬか……だがこれも定め! ガーディアンクラッシャーの名にかけて何人足りともここは通さぬ! 通りたくば私をどうにか倒して行くが良い! 覚醒せよ、私の愛刀フォースブレード!」


 梨明日はスカートのポケットに手を突っ込み、これまた掌サイズの奇妙な機械を取り出した。そして、「はぁぁぁぁ……」というそれっぽい声で呻いた瞬間、ブウォンッという音と共に青色の光を帯びたライトセイバーが出現した。


 ……え? 本物じゃねこれ? なんか熱気みたいなの感じるし、普通に物を物理的に両断できんじゃね?


「さぁ来いデニーロ! 私の剣は屈強だぞ!」


 そう言いながら梨明日は……股に挟んで違う意味での“剣”としてライトセイバーを構えた。


「太くて固くて輝く剣! サすぞサすぞ~? お前の穴と言う穴に私の剣をサすぞ~? サしてヌいてを繰り返すぞ~? ほれほれ、ムフッ、ムフフフフッ」


 気味の悪い……いや、気色悪い笑みを浮かべながら突然ブリッジの構えを取る。勿論股にはライトセイバーを挟んだまんまで……正直何をしたいのか何一つ理解できなかった。というか理解したら終わりだと思った。


「ほ、ほら、かかってこんか~い。この態勢やってみたら結構しんどかったから、と、とっととこの戦いに終止符打ってや、やるぜ~」


 ブリッジしたままブンブンと腰を左右に振ってライトセイバーを振るう。言うまでもなくその輝かしい刃が俺に届くはずもない。


 そして待つこと一分。梨明日は態勢を保てず勝手に崩れ倒れた。危ないので俺がライトセイバーを引っこ抜いて電源切った後に。


「フッ、フフッ……なかなかやるではないか真白君。いとも容易くここまで私を追い詰めるとは……良き師匠に出会えたのだな……」


 俺の名前が元に戻り、名も顔も知らぬ師匠を褒められた。俺って誇れる師匠がいたんだな。だからこんな心広いんだきっと。


 ……自分で言うなよ。


「だがなぁ……ここまで来て呆気なく倒れるなんてことはしない。転んでも普通に起き上がらず、成長して立ち上がるのが私なんだなこれが。さぁ来い真白! 私の極めに極められた究極対術を特別にご覧してしんぜよう!」


 これまた奇妙な構えを取って俺を通さないつもりの梨明日。


 そろそろこの茶番も終わりにしないと駄目だな。とにかくまずはこいつの暴走を先に止めるべきだ。と言っても、こいつを止めるのは簡単なことじゃない。普通の者であれば、まずそれは不可能に近いことであろう。


 ……普通の者、ならばの話だが。こいつを理解してる俺には簡単な話として済むことだ。


「くらえ真白! 私の黄金の右ストレート!」


 ノリノリでシャドウボクシングをしながら俺に向かって突っ込んで来ると否や、右ストレート――と言っておきながら右からの横蹴りを放ってきた。


 俺は受け身を取ることなく立ち尽くし、何もしないまま梨明日の蹴りを腰の辺りにくらった。


 ポフッ


 とても優しい音。毛程も威力のない蹴りを放ち終えた梨明日は怯まず、ノリノリのまま俺の腹にラッシュを叩き込んでくる。


「吠えろ私のマシンガンブロー!」


 ポフポフポフポフポフポフポフッ…………


 ちなみにこれは本気で殴ったり蹴ったりしている。梨明日は極端に非力すぎる女の子なのである。もし不審者とかに襲われたら何も抵抗できずに好き勝手されてしまうであろうくらいに非力な女の子なのである。


 たまに見せる女の子の部分。もしかしたら、こういう些細な可愛さも見せる梨明日に、俺は惚れてしまったのかもしれない。


 暫くマシンガンブローを続けていると、さっきのブリッジと同じ長さで疲弊し、またもや梨明日は勝手に崩れ倒れた。


「さ、流石に疲れたぁ……ちょっち私めに休息を……慈悲を……情けを……おまけにオレンジジュースを……」


「テメェ自身でやれ」


「とかなんとか言って優しくしてくれるのであろう真白。私はそんな君にラブ・ドゥー・イット……」


 うつ伏せに倒れて消え入りそうな爽やか笑顔を浮かべる梨明日を捨て去り、俺はマネキン生首を撤去してウンコも撤去した。


 ……そのウンコは確かに綺麗な漫画ウンコで、俺も出来心で一枚だけ写メに収めた。



~※~




「区切りが良いから話が終わりと思っただろう……だが私はまだ終わらない! 後半戦はここからなんだぜ視聴者様よぉ!?」


「飯は黙って食べなさい」


「はい、ごめんなさい」


 時は過ぎて夜。俺と梨明日はテレビのバラエティ番組を流しながら、テーブルにて夕飯を食べている最中である。ちなみに、我が家では椅子を使わずに座布団に座って食べる風習だ。いや、別にそこに深い意味はないのだけれど。


「……このひじきの塊、まるで背中擦った時に出てくる垢に黒のペンキを塗ったみたいだな~。食欲失せるわマジで。あぁもう食えないよひじき」


「自分で言って自分で自滅しないでください。全部食べないと許しませんよ俺は」


「てゆーか、今日の真白の敬語の頻度高くね? 他人行儀しないでくれよ~。私と真白の仲だろ~? 将来まで近い合った仲だろ~? 夜な夜なチュッチュしてる関係だろ~?『シよう?』って言ったら外だろうが何処だろうが欲求に身を任せて行為を――」


「黙って食え」


「はい、ごめんなさい」


 誰かに聞かれたら色々と誤解を生む内容。勿論、全てでっち上げなので悪しからず。


「……」


「…………」


「………………」


「……………………」


 …………ハァ。


「……喋って良いぞ」


「いや、そういうのはちょっと……私って話すの苦手だから……ウフッ」


 バキッ(無意識に箸を折る音)


 やべっ、箸の一つも貴重と言えるくらい家計のやりくり大変な身なのに……。


「あらあら、何をしているのですか真白さん。物に八つ当たりなんて、紳士の貴方がすることではありませぬことよ。オホホホホッ」


 ピキッ(茶碗にヒビが生じる音)


 苛立ちもここまで来ると、どうやら異能の力を開化させて物にヒビを入れられるようになるらしい。


「ちょ……ご、ごめんて真白。素直に謝るからピリピリせんといてって。ほら、ここからは恋人の特権で私が食べさせてあげるからさ。はい、あ~んしてあ~ん」


 少しだけ怖じ気付いた梨明日が俺の横に移動してくると、おかずの一つを箸で取って俺の口元に添えてきた。


 そのおかずは――無論、ひじきだ。


「梨明日、お前そろそろブッ飛ばすからな」


「コラコラ、ブッ飛ばすだなんて物騒な言葉を使っちゃいけないぜ~? そこは『おブッ飛ばしなさるぞ』と訂正しなさい」


 梨明日が女の子だということに心の底から苛立ちを覚えた。もし梨明日が男だったなら、なりふり構わず殴り飛ばしているところだ。


「やれやれ、短気は長生きできないぞ~。しゃーない、ならここは私のサービス精神を見せ付けちゃおうかな? ほら、こうして……」


 今度は何をするかと思えば、自分の舌をペロッと出して、その上にひじきの塊を乗せた。そして、そのひじきの塊を乗せたまま、俺に顔を近付けてきた。


「ふぁい、わはひほはえひほほひははひひゃっへふははひは(はい、私の唾液ごと頂いちゃってくださいな)」


 こいつには羞恥心の欠片もないようだ。いや、あるわけないか。何せパンチラを連写する奴なのだから。


 ……さて、ここで少し攻めてみようか。


 俺は――上手い具合に舌を出して乗せてあるだけのひじきをペロリと口の中に運んで見せた。


 モゴモゴと口を動かしてひじきの塊を噛み締める。その時、梨明日はと言うと――


「…………」


 これがギャップ萌え、なんだろう。梨明日は耳まで真っ赤にして俯いたまま動かなくなっていた。


 あれだけ異常破天荒なくせして、こういうところは普通に女の子だということは既に理解していること。


 だからこそ分かる。ここが梨明日を黙らせる攻め時だ。


 ……と言っても、何もする気はないのだが。


 俺は折れた箸を使って一人で食事を再開する。梨明日を目尻に着実に食べていくが、面食らった梨明日に動く気配は見られない。


「……冷めるぞ飯」


「…………うん」


 小さくて可愛らしい声でそう言うと、向かい合って食べていた態勢だったが、梨明日は俺の隣に移動してベッタリくっついてきて食事を再開し出した。


「…………」


 顔を真っ赤にさせたまま黙々とおかずを食べる梨明日。それを見ていたからか、自然と“それ”が口から出てしまった。


「……梨明日お前可愛いな」


「や~~~め~~~ろ~~~よ~~~!!!」


「ほら、そういうところとか」


「だ~~~か~~~ら~~~止めっ――」


「照れてやんの。可愛い奴」


「ちょ……も、もう止めて……お願いしますから……いやホントに……」


 うん、何かほっこりした。これで今日の苛立ちは相殺されたな。


「なんでこういうことには態勢ないんだよ……全てをネタに変えるのが梨明日のアイデンティティーだろ」


「私も一人の女の子なんだよ! 照れる時は照れるの! 恥ずかしい時は恥ずかしいの! なんかこう……嫌なのこういうの!」


「そうか。嫌ならあれだ。もう別れるしかないな」


「あっ、やっ、本当に嫌とかそういうあれでなくて……その……その……」


 俺の中の欲求不満が解消されていくのが感じられる。癒される瞬間というのは心地好い。


 思わず梨明日の頭を撫でてやると、更に梨明日は手に持っていた茶碗を置いて、縮こまって俺の膝を枕にして寝転んだ。


「…………なぁ真白」


「ん~?」


 それは確か、俺が梨明日に告白した時に言われた言葉。閻魔云々の後に言われた、異常とはかけ離れた梨明日の女の子らしき言葉。


 俺はニッコリと微笑み、梨明日も幸せそうに微笑んで目を瞑り、俺達は触れるだけのキスをした。


「私、やっぱ真白に一筋だ♪」

 この二人のやり取りが凄く気に入ったので、またこの二人の短編物語を書こうかなと思っています。


 これを見てドン引きした方は遠慮を。可愛い、もしくはほっこりして頂けた方は次作を待っていてくれたら幸いです。


 では、五作目でまたお会いしましょう物好きの方々。

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