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7 目的

「何が目的なの! もう来ないで! キモいし!」

 梨央ちゃんが叫んだ。

 キモいって、ちょっとそこまで言うのはさすがにあれなんじゃ……。

 でも、あの男が悪いんだもん。

 どんどん梨央ちゃんが言えばいいや!


 それにしても、大丈夫なのかな、雪乃ちゃんと紅葉ちゃん。

 私は公園に入った。

 うそ、誰もいない……。


「どうしたの愛華」

 梨央ちゃんが私の肩を軽くたたく。

「雪乃と紅葉が、いない」

 そう言うと、梨央ちゃんも驚いていた。


 私だって驚きだよ。

 なんで、いないの?

「優輝君、二人がいない……」

 振り返ると、そこには優輝君もいなかった。

 いやいやいや、これは絶対おかしいって。

 そういうのは、本当にダメ――――。


「ドッキリ大成功ーっ!」

 雪乃ちゃんの楽しげな声とともに、体全体に重みが……。

 しかも、視界が真っ暗です。

 ドッキリ?

 そんなこと言ってる場合じゃないし。

 っていうか、あの男はどこに行ったの?


「ってもう、愛華ったら、気絶しちゃうとかほんとよわっちいんだからー」

 あはは、すみません。

 というのも、ドッキリっていうのは嘘で、この場を盛り上げてあの男を倒そうとかいう企画だったらしく。

 心配するじゃん、もう。

 さらに、優輝君もその企画に入ってたらしい。

 っていうか、ドッキリっていうのが嘘だったっていうドッキリなんじゃないの?

 でもこれ、誰がどう見たってドッキリのような気がする。

 私だけかな?


 そのとき、再び草むらの方が揺れる。

 またアイツなんじゃ?

 そう思った私の予想は、また当たっていた。

 でも、今度はあの男は私たちを襲ってこようとはしなかった。

 かわりに、優輝君につかまって、なんか警察に連れていかれたけど。

 目的は何だったんだろう?

 大事にならなくてよかったけど。


「よかったね、愛華! これでもう安心だよぉ!」

 紅葉ちゃんの嬉しそうな顔を見て、私も嬉しくなった。

 ほんとに、良かった……。

 スキップしちゃいそうなくらい。

 私も、また頑張らなくちゃ。

 学校もいかなくちゃだし。

 明日からまた頑張ろうっと!

 私はそう心に決めて、解散した。


 家に帰っても、嬉しさは止まらなかった。

 お母さんも、なんか嬉しそうだねとか言ってくる。

 いつも私の事についてはあんまり言わないのに。

 今日はラッキーな日かも。

 いろいろあったけどね。

 そう思ってルンルン気分で寝たから、目覚めは良かった。


「うー、久しぶりにスッキリして起きれたかも」

 目覚めがいいと、やっぱりなんか、気持ちいいんだよね。

 みんなそうか。

「おはよー」

 私がそう言うと、お母さんも、珍しく明るい笑顔でおはようと言ってくれた。

 こういう家庭を、夢見てたんだよね。

 毎日これだったらいいのになぁ。


 とりあえず、朝ご飯を食べる。

 こんがりきつね色に焼きあがった食パンには、マーガリンを塗って食べるのが基本ですっ。

 まぁ、これは私の基本なだけだけどね。

 そういうことは気にしないでっと。


「いってきまーす」

「いってらっしゃい」

 うぅ、毎日がこうだったら幸せな家庭なんだけど、そうはいかないよねぇ……。

 寂しいなー、こういうこと考えるのって。


 一人で登校ルートを歩く。

 そういえば今日は梨央ちゃんたち、玄関まで来てなかったなぁ。

 いつもなら、待ち合わせ場所の公園では待ちきれなくてうちにきてるのに。

 公園で待っておこうかな。

 私はそう思って公園のベンチに座った。


 今日は普通にいい天気だから、気分もいい。

 もこもこした雲が空に散らばって浮かんでいる。

 あれがわたあめだったらいいのにな~。

 なんて、空想だけどね。


 しばらくすると、梨央ちゃんたちが来た。

「梨央ちゃーん! 紅葉、雪乃~っ!」

 手を振る。

 3人も、同じように振ってくれた。

「おはよっ、愛華!」

「おっは~!」

「あほよ……ふわあぁぁ……」

 ん?

 眠たそうにあくびしてるのは梨央ちゃん。

 どうしたんだろう?

「あほよって、梨央あんた、何言いたいのかさっぱりなんですけど!」

 雪乃がそう言う。

 そのあとに続いて、紅葉も。

「おはよってことじゃないのぉ?」

「そう、そりぇ……ふわわぁ」

 梨央ちゃん、やっぱり眠たそう。

 大丈夫かな?


 そんな心配をしながら無事に学校まで辿り着いた。

 クラスは一緒だから、4人そろって入る。

 席は結構離れているんだけどね。

「おっはよー!」

 紅葉がドアを開けた瞬間にそう叫ぶ。

「あ、紅葉! おはようっ!」

 窓際の席で誰かが紅葉の方に手を振っていた。

 特徴的な大きい瞳に、ポニーテール。

 あの子は確か、滝川ユアちゃん。

 ハーフだとか言ってたっけ。

 色白だし、可愛いんだよね。


「ユア~! もう、会いたかったんだから!」

 紅葉がユアちゃんに抱き着く。

 そういえば、ユアちゃんは最近学校を休んでたよね。

 うん、会いたかったっていうのは、そういうことね。

「ごめん紅葉! I'm sorry!」

 ユアちゃんは英語が喋れるんだっけ。

 最初の方、つい英語を発しちゃって、男子に笑われてたんだよね。


 ユアちゃんって、男子にモテそうなタイプの女の子なんだよね。

 明るくて活発だし、男子とも気軽に話せて可愛い。

 そりゃあ、気にならないわけがないよね。

 はぁ……私も、ユアちゃんみたいに明るい子になりたいなぁ。

 別にモテたいわけじゃないけど、くらいより明るい方が良いもんね。

 うぅ、虚しい。


「愛華、大丈夫?」

 そう声をかけてくれたのは雪乃ちゃん。

 あっ、またちゃん付けしちゃった。

「うん、大丈夫」

 大丈夫じゃないけどね、かなり。

「それにしても、ユアって本当に男子に人気あるよね。ああいう子って、女子に恨まれそうだから、近づきたくないんだよ、ホント」

 ん? 近づきたくない?

 雪乃、ユアちゃんに近づきたくないんだ。

 雪乃に避けられるのは嫌だし、私明るくなくてよかったかも。



「ユアはさ、色んな男子呼び寄せちゃうじゃん? だから、好きな男子と話してるの見ると、恋する乙女は嫉妬するわけ。んで、近くにいる女子にも飛び火がね……」

 雪乃は、ユアちゃんを眺めながら解説してくれる。 

 なんか、雪乃がかっこよく見えちゃうよ。


「ゆっきの~!」

「ぅわっ!?」

 茶色い髪が、私の顔にかかる。

 ん、茶色って……校則違反じゃないの?

 あ、ユアちゃんか。

 え、なんでここにユアちゃんが!?

 てか、雪乃を呼んだのは誰!?

「ちょっ、ユア!」

「えっへへ~。ごめんごめん! I'm sorry!」

 また英語。

 ユアちゃんと雪乃、仲良いのかな?

 でも、近づきたくないとか言ってたし……。


「ユア、もうやめてよっ! 私はあなたとは関わりたくないのっ!」

 パンっ。

 乾いた音がした。

 何が起こったの?

「ちょ、雪乃っ! いくらなんでも、手を叩くって、怪我させたらかなりの……」

「紅葉は黙っててよっ!」

 雪乃はそう言って教室から出て行ってしまった。


 手を叩くって、雪乃がユアちゃんの手を叩いたってこと?

 それがなんでそんな大事に?

「もう、雪乃のバカ。知ってるでしょ、ユアがピアニスト目指してるって……」

 ピアニスト!

 だからかぁ……。

 確かに、ピアニストには指が大切だし、手を叩くことが大事になるのは納得いく。

 でも、なんで雪乃はあんなにユアちゃんを嫌がってたんだろう?


「ねぇ、紅葉。雪乃はなんであんなにユアちゃんを嫌がってたの?」

 紅葉はじっと私を見つめた。

「聞きたい?」

 そんなに、深刻なことなのかな。

 ってか、聞いちゃっていいのかな。

 色々不安になりながらも、私はうなずいた。

「雪乃とユアはね、従姉妹いとこなの」

 い、従姉妹なんだ……。

 だから、あんなにユアちゃんを嫌がってたのかな。

 でも、従姉妹なんだから、関わりたくないって言っても関わらないといけなさそうなんだけど、まあそこは触れない方が良さそうかも。


 ってか、雪乃ちゃん探さなくていいの?

 あっ、またちゃん付けになっちゃったっ。

「雪乃、どこに行ったんだろう」

 紅葉がユアちゃんの手をじっと見ながら言った。

 ユアちゃんの手、大丈夫かな?

 でも、軽く叩いたくらいだったっぽいし、そこまで大怪我ではないよね。

「うぅ、眠い……」

 相変わらず梨央ちゃんは机の上で寝そべっている。

 梨央ちゃんの体調も気になるけど、ユアちゃんの手も気になるし、雪乃の行方も……。

 もう、どうしたらいいんだろう!


「愛華は梨央とユアを保健室に連れて行って! 私、雪乃を探してくるっ」

 紅葉がそう言って教室を飛び出した。

 一時間目が始まるまであと10分……。

 間に合うかな。

 眠そうな梨央ちゃんと話した事のないユアちゃんと一緒に、私は保健室に行くはめになった。

 梨央ちゃん、起きてくれないかなぁ……。

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