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6 告白!?

「梨央ちゃぁーん」

 静まり返った道路で、私は叫ぶ。

 静かすぎて、不気味なくらい。

「梨央ー」

 横から優輝君も言う。

 あぁ……。

 ほんと、どこ行っちゃったんだろう、梨央ちゃん。



「ここだよ」

 聞き覚えのある声に私と優輝君は振り向く。

「梨央ちゃんっ」

「梨央!」

 なんで、どこ行ってたの……。

 私、私、心配だったんだよ?

「梨央ちゃん~。なんで、飛び出して行っちゃったの? 私、心配で、それでっ――――」

 言葉が急にでなくなって、詰まる。

 何が言いたいんだっけ。



「愛華、ごめんね。私、いやだったの。優輝と愛華が仲良くしてるの。私が優輝を連れてきたのにおかしいよね。でも、気付いちゃったの。私、優輝が好きなんだって」

 そういう事か……。

 離れたからこそ気付く、みたいな?

 あ、知ったかぶりみたいかも。

 ごめんなさい。

 って、誰に謝ってるんだか。

「いいよ。私だって、その、あの……」

 あぁ、優輝君が好きだなんて、優輝君の前で言えないよぉ!

 うえぇ、どうしよう……。

 仕方なく私は梨央ちゃんの耳元でささやいた。



「私、優輝君のこと好きなんだ。でも、梨央ちゃんから取るつもりはないよ。正々堂々? っていうか、とりあえず、勝負しよっ! 私と梨央ちゃん、どっちが優輝君にお似合いか。あっ、偉そうにごめん! でも、その、なんか、やっぱりさぁ、あの、優輝君に選んでほしいじゃん? あ、ほんとごめん!」

 最後の方はもう優輝君に聞こえそうなくらいで、私も耳元から口を離して話していた。

 ささやいてなんかいない感じで。

「ありがと」

 梨央ちゃんはそうささやいた。

 泣きそうになっていたけど。

 それでも、いいよね。

 梨央ちゃんは、私の大切な友達なんだから。

 正々堂々勝負して、最後には優輝君に選んでもらおう。

 


 うん、それが一番いい方法っ!

 だよね、うん。

 っていうか、もう告白しちゃった方が良いのでは?

 いやいやいやいや、まだ早いような。

 でも、どうせだからもう、言っちゃった方が良い気もする。



「ね、梨央ちゃん。もうさ、告白しちゃわない、か、な?」

 ちょっぴり上目使いをしてみる。

 梨央ちゃんはきっとこういうのに弱かったり……しそう、っていうだけの、ただの予想なんだけど。

「は、え、えぇぇぇえ!?」

 梨央ちゃんが叫ぶ。

 おいおい、これじゃあ優輝君に思いっきり聞かれちゃうんじゃ?

 え、いいの?

「無理ムリムリ! っていう、か、その……」

 突然梨央ちゃんの声が小さくなる。

 どうしたんだろう?

 あー、恋する乙女ってやつかな。

 梨央ちゃんもかわいいとこあるじゃん。

 あ、なんか私、偉そう?



「うーん……いいけど」

 絞り出したような声で梨央ちゃんが言う。

 いいって……いいの!?

 なんだか、急に変わるからこっちが驚いちゃうんですけど。

 やっぱり、恋する乙女は挙動不審になっちゃうものなんですかね。

 あーゆー感じの、色々考えちゃうみたいな。

 って……だから、私に何が分かるんだって話だよね。



 梨央ちゃんの黒くて長い髪が風に吹かれて右方向による。

 なんだか、綺麗。

 いや、いつも梨央ちゃんの髪は綺麗だけど、でも、いつもよりずっと、めちゃくちゃ綺麗。

 それどころか、梨央ちゃん自体が、全体的に光ってるっていうか、本当に綺麗……。

 なんでだろう。

 なんか本当に、すごく輝いてる。

 これも、やっぱりあれかな。

 恋する乙女のオーラって感じかな。

 梨央ちゃん、思いっきり恋する乙女なんだね。



「……その、いいけど、でもそしたら愛華が……不利になるよ?」

 不利?

 私は一瞬、意味が分からなかった。

 なんで、私が不利に?

「なんで、私が不利になるとか思うの? なんか、理由とか?」


 一応聞いてみる。

 だって、気になるし。

 しばらくの沈黙。

 えっ、なんなの!?

 私の心は沈没。

 うっわぁ、思ったよりへこむわぁ。

 なんで、え、無視?



「……だからっ、私の方が優輝と一緒にいた時間長いんだから、私の方が仲良しだし、私の方が有利なんだよ? それでも告白するの?」

 梨央ちゃんが小声でささやく。

 そういうことね。

 確かに、そうかも。

 や、やっぱりやめとこうかなぁ。



「そう、だよねっ! やめとこっ、ね!」

 あーうー、自分勝手な私を許してください~。

 ごめんね梨央ちゃん~。

 私、やっぱり自信ないです。

 絶対梨央ちゃんを選ぶもん、優輝君。

 なら、ちょっとでもアピールして、こっちに気を向けなくちゃいけないもんね。

 じゃあやっぱり、今はやめた方が良いよね。

「もう、いい?」

 優輝君の言葉で、私たちは顔を上げる。

 あ、そういえば、雪乃ちゃ、じゃない、雪乃と紅葉、公園にいるんだった!

「そうだね。早くいこ! 雪乃と紅葉が、もしかしたら、さっきの男に会ってるかも」



 私が駆け出そうとすると、梨央ちゃんが不思議そうに聞いてきた。

「さっきの男?」

 そうだ、梨央ちゃんは知らないんだっけ。

 私は梨央ちゃんにできるかぎり分かりやすく説明しようと頑張った。

「えっとね、さっきなんか、私を襲ってきた? みたいな人だよ。梨央ちゃんを探してたかもしれないって思って慌てて探してきたんだ、梨央ちゃんを」



 そう言うと、梨央ちゃんは凄く驚いていた。

「ま、愛華大丈夫だった?」

 そんなに私の事大切に思ってくれてるんだって思って、すごく嬉しかった。

 ちょっと微笑んで私は言う。

「ぜんっぜん大丈夫! 優輝君が、助けてくれたし。それに、雪乃ちゃんが飛び蹴り、だったかな、なんかしてやる~とか言ってたから、すぐ逃げてったよ」

 すると梨央ちゃんはほっとしたように胸に手を当てた。



 なんか、本当にごめんなさいって謝りたいです。

 心配させてごめんって言いたいってか、言う。

「ごめ、心配させてごめんね」

 梨央ちゃんは不思議そうに首を傾げる。

 微妙な反応。

 私の意図に気が付いてないって感じかな。

「私何も謝られるようなことしてないよ?」

 あぅぅ、梨央ちゃんなんでそんなに優しいの~。

 感動です。

 私は雪乃たちが気になって、早足で歩き出す。

 それについてくる二人はちょっと呆れている感じで、疲れている。

 私ってそんなに体力あったっけなぁ?

 まぁいっか。



「ね、愛華? どこに行ってんの?」

 梨央ちゃんの言葉に私が答えようとすると、その一足先に優輝君が答えた。

「公園」

 やっぱり、私に対する紳士さがまったくなくて、かわりにしっかり普通な感じの男子さがあるよ。

 つまりこの、やっぱり優輝君は梨央ちゃんが好きなのかなー。

 うん、絶対それだよね。

 それしかないよね。

 そうだよ、それだよ。

 それしかないよぉぉぉお!

 え、じゃあやっぱり私、勝ち目無し。

 うっわぁ、やる前から分かっちゃうっていうの、めちゃくちゃ嫌だね、ほんと。



「あっそ。てか、優輝に聞いてないんだけど」

 うそでしょ梨央ちゃん!

 むしろ嬉しいでしょ?

 なにこの典型的な二人。

 強がっちゃう感じの、ありがちな二人。

 いやいやいやいや、だから私に何が分かるんだって言ってんの。

 そもそも今まで男性恐怖症で男子に会ったらマジでヤバいっていうか本当になんかダメな感じで触られるどころか目を合わすのも論外だったのにこうやって普通に話せちゃってるとか奇跡的なんだけど。

 それなのに、なんでそんな恋愛マスターみたいに分かりきってるようなこと言うんだろう。

 意味不明じゃない?

 うんうん、絶対そうですよね。

 梨央ちゃんが心の中で嫌がってないことだけを願うよ。



 やっと公園が見えてきたと思ったとき、草が不気味に揺れた。

 これってやっぱり、アイツ……?

「梨央ちゃん、危ないっ」

 私は草むらの方に梨央ちゃんを近づけないようにして梨央ちゃんの前に立った。

 梨央ちゃんの悲鳴が聞こえる。

 思わず振り返ると、そこにはなにもなかった。



 何に叫んでるんだろうと思った瞬間、優輝君が私と梨央ちゃんの腕を引っ張った。

「いたっ――――」

 つかまれた腕に痛みを感じる。

 優輝君ってやっぱり、男の子なんだ。

 でも、なんでいきなり引っ張るの?

 草むらの方を見ると、あの男がいた。

 優輝君、気が付いたんだ。

 優輝君が腕を引っ張ってくれてなかったら、私アイツに襲われてたかも。

 危なかった……。

 そう思いながら、胸を撫で下ろす。

 ほんとによかったぁ。



 ってか、やっぱり私、予想当たってたんだ。

 アイツ、誰が目当てなの?

 私? 梨央ちゃん?

 梨央ちゃんじゃなかったらいいけど……。

 私より、梨央ちゃんの方が、大切にされてる。

 私、入院したのにお母さんもお父さんも、来てくれなかったもん。

 ひどいよ。

 やっぱり、私に感心なんてないんだ。

 あーあ、嫌なこと考えちゃったなぁ。

 やめたやめたっと。

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