5 梨央ちゃん捜索隊
「あのさ、愛華ちゃん」
突然優輝君に呼びかけられる。
「えっ、あ、はいぃ!?」
私はテンパってそんな返事をした。
うぅ、恥ずかしいよぅ……。
はぁ……。
つい、ため息を出してしまう。
あぁ、憂鬱です。
「今度、一緒に出かけない? もちろん、二人で」
二人でという所に反応したのか、横から梨央ちゃんが叫ぶ。
「え~、私も行きたいのに~。愛華ばっかりずるいっ!」
ず、ずるいって……。
梨央ちゃんったら、そんなこと言っても、仕方ないんじゃ?
っていうか、優輝君を連れてきたのは梨央ちゃんなんだから、自業自得じゃないですか。
突然何なの?
私だって、やっと、やっと……好きな人、見つけられた気がするのに。
喜んでくれる人は、いないの?
私、不幸じゃないかな。
はぁ。もうやだよ……。
「別にいいだろ。梨央には関係ないんだから」
優輝君のそっけない返事に、私は顔を上げる。
なんでそんな、優輝君冷たいの……?
私に接するときは、全然優しくて、王子様みたいだったのに、梨央ちゃんに対しては、どこにでもいる、普通の男子。
まるで、好きな子に意地悪するような、ちょっと恥ずかしがり屋な、男の子。
えっ、優輝君、梨央ちゃんの事好きだよね、これ。
バレバレじゃん。
私でさえ分かるんだから、梨央ちゃんだったらもうとっくに気が付いてるはず。
あーあ、もうちょっと夢を見たかったのになぁ。
そう思っていると、隣から泣き声が聞こえた。
梨央ちゃん!?
えっ、なんで泣いてるのっ!?
「うるさいっ! 優輝のバカ! 気付いてるくせに、ひどいよっ!」
気付いてるくせに……って、やっぱり梨央ちゃん、優輝君のことが好きで、優輝君も梨央ちゃんのことが好きで、もしかしてだけど、二人はお互いの気持ちに、気付いてない。
ど、鈍感だなぁ。
梨央ちゃんってば、こういう所だけだめなんだから。
「ちょっと、梨央!」
雪乃ちゃんがそう叫ぶ。
あっ、梨央ちゃん、部屋の外出てるっ!
ここ梨央ちゃんの部屋だよ?
どこ行くのっ?
そして私たちはどうしたらいいのぉぉ!?
いやいやいや、落ち着け私。
その前に、梨央ちゃんを追いかけなくちゃいけないんだからっ!
「まったく、梨央も世話が焼ける子供ね。ほら、さっさと行くよっ!」
雪乃ちゃんが私と優輝君の腕をつかんで走り出す。
私と優輝君は引きずられるようにして梨央ちゃんの家を出た。
「おじゃましましたぁ~」
そんな私の声も、梨央ちゃんのお母さんに聞こえたのか分からないくらい、雪乃ちゃんは速く速く走る。
速いよぉ~!
そこから私は、疲れすぎて梨央ちゃんに出会うまでの記憶を一切忘れた。
「梨央ーっ」
「梨央ちゃーん」
私たちは叫ぶ。
喉からからだけど、梨央ちゃんの事が心配……。
大丈夫かな?
図太そうに見える人って、意外と色々一人で抱え込んじゃって、人の前では強がっちゃう人が多いんだよね。
梨央ちゃんも、きっとそう。
弱いところを見せないだけで、梨央ちゃんにだって弱いところはある。
きっと今だって、心細いはず。
だから、一刻も早く、梨央ちゃんを見つけ出さなくちゃ!
でもっ……。
梨央ちゃんが辛いときは、私だって辛さを分けてほしいのにっ――――!
どうして、一人で抱え込んじゃうの?
私だって、力になりたい。
分けてほしい。
悲しみも、苦しみも、嬉しさも。
みんなで、分け合いたいよ。
「愛華っ、いた?」
「あ、雪乃ちゃ――――あ、えっと、雪乃、か。いないよ」
あぁ、また雪乃ちゃんって言いそうになっちゃった。
そういえば、梨央ちゃんちから出る時も確か、雪乃ちゃんって言っちゃってたな。
だめだ、雪乃って定着させられないよー。
紅葉もだし。
気にしてたらいけるんだけど、何にも考えてないと、自然にちゃんを付けちゃうんだよね。
私ってやっぱり、ダメダメ?
いやいや、そんなことはないはず、きっと。
でも、やっぱりなぁ……。
って、梨央ちゃんを探さないと!
ここは公園、なんだけど――――こんなところに本当に梨央ちゃんがいるのかなぁ?
紅葉ちゃ、あ、紅葉情報によると、梨央ちゃんはすねると公園に来るらしい。
うーん、ありがちだね。
ブランコを一人でこぐいじめられっ子みたいなの、よくあるもんねー。
あ、私はしてないけど。
「梨央、いないなー。って、優輝! あんた真面目に探しなさいよ! そもそも、あんたのせいなんだからねーっ! まったく、バカめ……」
ため息をつく雪乃ちゃんの横で、私もついため息をつく。
うつったかな?
それにしても、梨央ちゃん、どこに行ったんだろう?
心配だなぁ。
なんか、面倒くさいことに巻き込まれてなかったらいいんだけど。
そう思いながら、私はまたため息をついた。
数えてはいないけど、今日、かなりため息ついてる気がするなぁ。
はぁ……。
あ、またため息が。
もうやだぁ。
どうして?
どうしてそんなにため息魔人みたいな、って、ネーミングセンスなさすぎだな、私。
はー。
もう、梨央ちゃんのバカァ!
「梨央ちゃんのバカーッ! 出できてよ、迷惑かけてんの、分かんないのーっ!?」
あぁ、叫んじゃったよ。
いつの間にか、本音が出る。
向こうの茂みで、葉っぱが揺れた。
あれは、梨央ちゃん?
「梨央ちゃんっ」
私はその茂みに近づいた。
「愛華っ!」
紅葉ちゃんの焦ったような声も私の耳には届いていない。
その茂みから出てきたのは、梨央ちゃんではなく、怪しげな男だった。
「っひゃぁっ」
突然の事に小さく悲鳴をあげる。
後ろから雪乃の叫び声も聞こえてくる。
「逃げて、愛華! 早く!」
意味が分からなかったけど、とりあえず、逃げよう。
もつれそうになる足を無理矢理動かして逃げる。
男は追って来なかった。
何なの……?
意味も分からず立ち尽くす私を、優輝君が支えてくれた。
危ない、私倒れるところだったかも。
やばいやばい。
ご迷惑をおかけするところだったよぉ……。
「大丈夫? 愛華ちゃん」
うぅ、なにその笑顔。
優しすぎる、紳士すぎるよぉ……。
こんなんじゃ、梨央ちゃんが好きになっちゃうのも分かるなぁ。
しかも、幼馴染だもん。
そのグループに入ってなかった女の子が幼馴染の彼女になるのは、いくら私と梨央ちゃんが友達でも抵抗ないことはないよねー。
私だって、幼馴染がいたら、たぶんそう思ってただろうし。
仕方ないよね。
私がどーとかこーとか言える立場じゃないし。
「あいつっ……。愛華に何するつもりだったのっ! むかつく。次愛華に何かしたら、跳び蹴りしてあげるからね!」
雪乃ちゃんが叫んだ。
それにひるんだ男は、さっさとどこかへ行ってしまった。
っていうか、それまであいつ、何してたのよ。
私狙い?
いやいや、そんなはずはない、はず……。
だって、私別にかわいくもないし。
……じゃあ、梨央ちゃんが狙い?
私たち、梨央ちゃんの名前、叫んでたし。
どうしよう!
また探しに行ったかもしれない。
「梨央ちゃんっ! 出てきてーっ!!」
私は人生で一番大きな声で叫んだ。
梨央ちゃんが、梨央ちゃんがっ……!
だめだ、先にあの男を捜したほうがいい。
「雪乃ちゃん、じゃなくて雪乃、紅葉! さっきの男捜して! あいつ、私じゃなくて梨央ちゃん狙いかもしれないっ!」
すると、雪乃と紅葉は驚いて、悲鳴をあげた。
「どうしよ、梨央が、危ないってことじゃん! 優輝、紅葉、愛華、行くよ! あ、やっぱり紅葉と愛華は残ってて! 来るかもしれない。あー、でもその二人だと危ないよね。えーっと、じゃあ、優輝は愛華と一緒にここに残って! 梨央かあの男が来るかも!」
雪乃ちゃんはすばやく振り分けをしてくれた。
でも、その意見に優輝君が口を挟む。
「女子二人で歩き回るほうが男に出会う可能性が高いから、雪乃と紅葉はここで待ってろ。俺と愛華ちゃんで、行ってくる」
確かに……。
それは一理ある、かも。
歩き回るほうが確かに危険だよね。
でも、それって私も歩き回らなくちゃいけないってことじゃない?
まぁ、優輝君がいるからいいかな。
よしっ、梨央ちゃん捜索隊、出動!
……って、言いたかったんだよね。
子供っぽいか。
あはは……。
あぁ、笑えないよ。
って、真面目に行かなくちゃ!
レッツゴー!




