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3 梨央ちゃん

 私は食べ終わって看護士さんが来るか待っていると、廊下でバタバタと走る音が聞こえてきた。

 誰だろう、梨央ちゃん?

 いやいや、まさかなぁ……。

「愛華ぁぁ~!」

 うっ、この声って、り、梨央ちゃんだよね、絶対。

 来ちゃうんだよね、梨央ちゃんは来ちゃうんだよね!

 来ないと思っても来るんだよねっ!

 勢いよく病室のドアが開く。


 やっぱりね。

 そこには、ハデな赤と青の水玉のワンピースを着た梨央ちゃんがいた。

 後ろには、当然と言うように雪乃ちゃんと紅葉ちゃんがスタンバイ。

 マジですかっ……。

 そんなに来たいの?

「梨央ちゃん、紅葉ちゃん、雪乃ちゃん……や、やっほー」

 あぁ、おはようだぁー。

 間違えてしまったぁ。

 でっ、でも仕方ないよねっ!

 勝手に納得した私は、梨央ちゃんたちに向かって笑顔を見せた。

「来てくれてありがと」

 すると、3人はふんわりと笑って「どーいたしましてーっ!」と声を合わせながら言った。


 息ピッタリ。

 3人とも、すごいっ!

 感激しながら私は病室のドアを見る。

 看護士さん、来ないなぁ。

 いつもならもっと早く来るんだけど。

 いつもって言っても、昨日の3食くらいだけど。

「あ、そーいえばさぁ、梨央、あの話どうなったのよー?」

 雪乃ちゃんはちょっとニヤッとしながら、梨央ちゃんの頬を突いた。

 あの話……?

 ま、まさか、男性恐怖症のあの子っ――――!?


「だっ、ダメだよぉ! いくら梨央ちゃんだからって、わざわざそんな話振らなくてもいいじゃないのぉ!」

 言いながら、ちょっと冷や汗をかく。

 もしかしてだけど、梨央ちゃんから男性恐怖症の子が死んじゃってたってこと聞いてないとか?

 それで、聞いてるとか?

 うわぁ、なんか、時間を巻き戻したくなってきた……。


「えっ? 愛華ちゃん、何の事?」

 や、やっぱり……。

 どうしよぉぉぉ!

 って、どうしようもないか。

「あ、ごめん。誤解!」

 必死に弁解する私と頭の中が多分ハテナマークでいっぱいな雪乃ちゃん。

 なんか、すごい話がこんがらがっちゃってる。


「どーゆーことよぉ! 説明してよねっ!」

 紅葉ちゃんが雪乃ちゃんと私の間に割り込んできた。

 あぁ、もういいよ、やめて~っ!

 梨央ちゃんがまたへこむかもしれませんからぁ!

 という私の心配は、呆気なく崩れ落ちました。

「あ・の・さ! 私の話してんのか何なのか知らないけど、愛華、誤解しすぎ」

「え、ふぇ?」

 変な言葉を言いながら、私は梨央ちゃんの方を向いた。

 やっぱり誤解?

 で、でも梨央ちゃんまたあの子と思い出しちゃうんじゃ……。


「雪乃もあの話とか、訳わかんないこと言わないの! 愛華、うちのこと心配してんのか知らないけど、そういうのはマジでやめて! うちはさ、図太いでしょ? だからだいじょーぶ」

 だっ、だいじょーぶ?

 だいじょーぶなはずないでしょ?

 えぇ? ええっ? 大丈夫、なの?

「ええぇぇぇーーっ!?」

「愛華うるさい!!」

「愛華ちゃんっ!!」


 うるさいって言ったのは梨央ちゃんで、そのあと私の名前を呼んだのは……看護士さん?

 いつの間にか、ドアが開いていて、看護士さんが覗いてる。

 私大迷惑じゃん?

 それにしても、梨央ちゃんって、本当に強がりなんだから。

 もうちょっとみんなに甘えてもいいと思うんだけど……それが梨央ちゃんのポリシーなんだよね、きっと。

 ま、仕方ないか。

 私は気にせず気楽に気楽にいけばいいよね。

 だって、私は……男性恐怖症を克服しないといけないんだからっ!


 って、そうだった。

 ヤバい、絶対このままじゃ克服できないよぉ!

 お手本になるはずだった男性恐怖症の女の子もいない。

 梨央ちゃんだって、克服する方法を知ってるわけじゃないだろうし……。

「ねーねー、梨央も雪乃もさー、あの話って結局何だったのよー」

 後ろで手を組んで梨央ちゃんと雪乃ちゃんを見上げる紅葉ちゃんが、不思議そうに言っている。

 紅葉ちゃんの言うことは確かだ。

 あの話って、何だったんだろう?

 梨央ちゃんはぎこちなく笑って「ひみつ!」と叫んだ。


 けど、雪乃ちゃんはニヤニヤ笑いながら「梨央のヒミツだよ! 後で二人にも教えてあげる!」と言って、右手の人差し指を唇に当てた。

 どういうことなんだろう?

 すると、梨央ちゃんは雪乃ちゃんを睨みつけながら、何やらぶつぶつと嘆いていた。

 きっと、好きな人がどーとかなんだろうね。

 まぁ、聞いてもいいかな。

 梨央ちゃんのために聞かないのもいいだろうけど。

「じゃあさっ、二人、こっちおいでよ!」

 雪乃ちゃんが部屋の隅で手招きしている。

 紅葉ちゃんは素早くそこに行ったけど、私は少し悩んだ。

 だって、梨央ちゃんがめちゃくちゃ私の方見てる……。

 うぅ、なんだか惜しい気がするけど、梨央ちゃんのために、私は聞かないっ!

 そう決意して、私は梨央ちゃんの方をちらっと見た。

 梨央ちゃんは無邪気に笑って「ありがと、愛華!」と言ってくれた。

 ……代わりに、雪乃ちゃんは不満そうだったけど。


 でも、仕方ないよね。

 これは梨央ちゃんのためであって、雪乃ちゃんのためでもあるんだから。

 私が聞いてたら、雪乃ちゃんはきっと梨央ちゃんに色々やられそうというか、言われそうというか、そんな感じがしたから。

 だから、仕方ないんだよ?

 それを分かってね、雪乃ちゃん!

 私は心の中で叫ぶと、くすくす笑ってる雪乃ちゃんと紅葉ちゃんを見た。

 楽しそう。

 気になると言えば気になるけど、でもでもでもでも!

 これは、みんなのためだから、仕方ないのぉ!

 よし、いつか、梨央ちゃんがいないところで聞いてみよう。

 覚えてたらだけど。


 そ、それにしても、男性恐怖症を治すとか言う話はどうなったんだろう?

 とりあえず今は病院を退院だよね。

 私は大きく深呼吸をすると、ベットに寝転がった。

「うちら、そろそろ行くね。ちょっといろいろ用事があってさ」

 突然梨央ちゃんが言った。

 もう行っちゃうの……?

 いつもならもっと一緒にいてくれてたはずなのに。

 まあでも、用事なら仕方ないか。

「分かったよー。ばいばい」

 私は3人に手を振った。


 パタン。

 静かに病室のドアが閉まると、まるで魔法が解けたみたいに、部屋は灰色に包まれたような気がした。

 寂しいって、仕方ないんだから、そんなわがまま言ってられるほどみんなにも余裕がないんだってこと、知ってる。

 知ってるはずなのにっ……!

 どうして、みんながいないと何もできなくなっちゃうの?

 そんなに、私ってウザいかな。

 重いかな。


 みんなだってきっともう、呆れてるんだ。

 私の事なんかもう、どうでも良くなっちゃったんだ。

 男性恐怖症ってだけで面倒な子だったのに、わがまま言って、それで――――。

 考えてるうちに、私は泣きそうになっていた。

 というか、もう泣いていた。

 そんなに悲しいの?

 みんながいないだけじゃない!

 誰も、私の事嫌いになったなんか言ってないのに……。

 被害妄想激しいよね、私。

 バカみたい。

 みんなが私の事見捨てるわけない。

 きっと、見捨てないはずだよ。


 夜になって朝になって。

 私はついに退院した。

 きっと、克服修行みたいなものが始まるはず。

 私の覚悟はいい感じに採用されちゃって、やっぱり男性恐怖症克服修行が始まることになった。


「さぁ、始めるよ!!」

 梨央ちゃんの元気な声を聞くと、余計に辛い……。

 やっぱり心配。

 本当に大丈夫なのかな?

 もちろん、相手は花火大会のときのあの人。

 大丈夫、怖くなんかない。

 あの人は絶対に大丈夫。

 私は自分にそう言い聞かせて、深呼吸した。


 そして、私は閉じていた目を開いた。

 するとその前には……男子がいました。

 あ、当たり前ですよねー。

 だって、男性恐怖症を治すんですもんねー。

「あ、えっと、こんにちは……。よろしくお願いしますぅ」

 だんだん小さくなっていく声を、頑張って大きくしていると、その男の子はにっこりと笑った。

 なっ、何ですかその顔!

 私をどうしたいっていうの?


 私は別に好きになんか絶対にならない……と思う。

 で、でも誰も絶対絶対なんて言ってないから。

 もしかしたら好きにならない、いや、この場合もう恋しちゃった方が良いんじゃないの?

 そうだよね、うん。

 さっさと恋しちゃって、私は男性恐怖症を男性恐怖症を治すんだっ!

 そしたら怖くなくなるに決まってる。

 大丈夫、大丈夫。

 私は、変わったんだから!!


「こんにちは。愛華ちゃん、だっけ。よろしくねー」

 軽い。

 軽いよこの人。

 え、しかも一人しかいない。

 あれ?

 あの時は確か、もうちょいたくさんいた気がするんだけど。

「ね、ねえ梨央ちゃん。一人だけなの?」

 私が聞くと、梨央ちゃんは不思議そうな顔で「一人だよ? 前も一人だったじゃん」といかにも普通そうに言った。

 そうだっけ?

 もしかして、後ろにいた人たちは他人?

 いやいや、もうそういうことは関係ないからどうでもいいんだよ、うん。


 それにしても、あの、あれだよ。

 男子の顔は見ないようにしていた私でも分かる、いわゆるあの、イケメンってやつですよ。

 こんな人見たの初めてですぅ!!

 はっ、なんか言葉が変にっ。

 うぅ、ぐぐぅ……。

 わ、私のバカぁ。

 てか、初めてならなんでイケメンだって分かったんだろう?

 やっぱ、オーラ? イケメンオーラ? えっ、何それ、えぇ?

 怖いよ、イケメンオーラ。


「あの、えーと、よ、よろしくお願いします」

 訳も分からずとりあえず挨拶。

 あれ、私全然なんだか、不快感とか、不安とか、嫌な感じとか全然ないんだけど。

 この人女の子なんじゃないの?

 いやいや、それはさすがに失礼では。

 でも、こんなに魔法みたいに男性恐怖症の症状が現れないのはおかしくない?

 うーん……。

「え? あ、よろしく。さっきも言わなかったっけ」

 え? さっきも言ったっけ。

 まぁいいや。

 言っていようが言ってなかろうが、私には関係ないんだからね。 


 とりあえずあれだよ。

 男性恐怖症を治すんだよ。

 私にはそれしかないんだから。

「ごめんなさ、い」

 ヤバい。

 なんかヤバい。

 分かんないけど、ヤバい感じがする。

 うつむこう。

 相手の顔を見ずに、とりあえず落ちつくんだよ。

 私はうつむいて、深呼吸をする。

 う、落ち着いたかな?


 顔を上げてみる。

「うえぇっ!?」

 男の子の隣で男の子と腕を組んで立っているのは梨央ちゃん!

「ど、な、え? なんで、え、梨央ちゃん?」

 パニックになっている私を見て、梨央ちゃんは笑う。

「何驚いてんの」

 だって、梨央ちゃん……腕、組んでるよ?

 何なの、この関係。

 もしかして、梨央ちゃんって、この人と付き合ってるとかなの!?

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