17 帰り道
「あーっはっはっはっは! それにしても今日、ほんっと面白かったよねーっ!」
梨央ちゃんの笑い声、もう聞き飽きました……。
私たちは5人でただいま帰宅中。
それにしても、なんか今日、すごく疲れたような気がする。
それもそうだよね。
だって私今日、ほぼ一日中梨央ちゃんとかユアちゃんの笑い声、聞いてたもん。あと紅葉のもかな。
雪乃はあんまり笑ってなかったけど。
まあ、雪乃はあんまり笑いそうな性格じゃなさそうだし、それは予想通りと言えば予想通りな気もしないこともないんだけど、やっぱり予想してたこととはちょっと違うけど、でもやっぱり考えてたことと全く一緒なんてそんなこと、ありえなさそうだし……あれ? 私、何の話してたか分からなくなるほど、変なこと言ってたような気がするんだけど……。
き、気のせいだよね……?
でも、なんか気のせいじゃないような気もするし……あ、だめだこれ。
永遠に終わらないパターンじゃん。
よしっ、それは気にしないことにしよっと!
それにしても、紅葉が意外と笑わないことと、怒ると怖いところがあることが分かったんだよね。
いつも一緒にいるのに、意外と知らないことって、あるんだなぁ。
そういえば、最近優輝君と会わないような気がするんだけど……。
まあ、同じクラスじゃないから、仕方ないのかもしれないけど。
うんっ、そうだよねっ!
だって、まさか優輝君が私の事を忘れて、違う女の子と付き合ってたら…………。
いやいやいやいやいやいやっ、絶対絶対そんなことないよねっ!!
だって、私か梨央ちゃんでしょ? あ、待って。こんなこと言ってもいいのかな。
えーっと、でも一応そう言うことになると思うんだけど……。
まず、私って優輝君の事好きなのかな?
一緒にいたいとは思うけど、好きってよく分からないし……でも、優輝君が誰かと付き合ったら嫌だなぁって思うんだよね……。
これって、好きってことなのかな? それとも私のただのわがまま?
私が頭の中でいろいろ考えていると、後ろから背中をつつかれた。
「まーなかっ!」
「その声……梨央ちゃん? ちょっとやめて、こしょばいぃ~」
そう言って梨央ちゃんの手を必死によけようとする。
でも、背中の方だからか、上手くいかない。
困っていると、突然梨央ちゃんの攻撃がやんだ。
「あ、れ……?」
私が振り向いた先には、雪乃に腕をつかまれている梨央ちゃんがいた。
「ったいってばっ! 痛いっ! 雪乃、は~な~せ~っ!」
梨央ちゃんは自分の腕を引っ張るし、雪乃は梨央ちゃんの腕をつかんだまま、離さない。
これ、危ないような……。
そう思っていると、次の瞬間、二人の手が離れた。
そしたら、二人はまるで弾かれたみたいに後ろによろめく。
「ゆ、雪乃!」
ユアちゃんが叫ぶ。
雪乃の背後には花壇があった。
ぶつかったら、けがしちゃうかも!
そう考えているうちに、ユアちゃんが飛び出して行って、雪乃は花壇にぶつからなかった。
みんなが胸を撫で下ろす。
良かった……。
私も、ほっとして、膝が笑う。
カクン、と膝が曲がって、その場に座り込んだ。
「愛華? だ、大丈夫?」
ユアちゃんに助けてもらったばかりの雪乃が、私のもとへやってくる。
「あ、えっと、大丈夫……だよ」
雪乃に手を貸してもらって、私は立ち上がる。
やっぱり、雪乃は優しいなぁ……。
私も見習います。うん。
雪乃は「そう?」と首を傾げながら、ユアちゃんと何か話しだした。
何の話してるのかな? まあ、関係ないか。
その時、梨央ちゃんの声が聞こえた。
「いったぁ~……。もう、あたしだってこけたんだから! みんな雪乃ばっかり。ひっどい!」
あ、そうか。梨央ちゃんもこけてたんだっけ。まあ、二人でやってたんだから、梨央ちゃんが普通に立ってる可能性は少ないよね。
「梨央ちゃんも大丈夫だった?」
そう言いながら梨央ちゃんの方に駆け寄る。
「うん、大丈夫!!」
「ならよかった」
私はお決まりのセリフを口にしながら考える。
大丈夫なら、心配しないなんてひどい、なんて言わなくてもいいのに……。
そういえば、最近優輝君を見ていない気がするのは気のせいかな?
……それにしても、梨央ちゃん余裕そうだなぁ。
まあ、仕方がないことだけど。
私と梨央ちゃんの優輝君に接している時間は全然違うし。
でも、わざわざ私にハンデをくれなくても、あの時に告白しちゃえばよかったのに。
梨央ちゃんは、私の事を考えてやってくれたんだろうけど、別にそこまでしなくてもよかったのに。
まあ、私が得したってことになるから、私はいいんだけど。
うーん、でもやっぱり、梨央ちゃんのしたことがよく分からない……。
なんで梨央ちゃん、わざわざ?
まあいいや、これ以上考えても、何にもいいことないだろうし。
梨央ちゃんはきっと優しいから、私に同情して……え?
同情? 梨央ちゃんって、私に同情してるの!?
「え~!? いや、待って。梨央ちゃんに限ってそんなことは……」
私が独り言を言っていると、梨央ちゃんがしらーっとした目で見てきた。
「愛華、何言ってるの?」
「えっ、そのっ、何にもないっていうかあるっていうか……」
どう切り抜けようか迷いながら曖昧な返事をすると、梨央ちゃんが怖い笑顔になって言った。
「何かあるんだ?」
「う……」
怖い、梨央ちゃん怖い。
何このキャラ。
あれ? こういうのって雪乃じゃなかったっけ?
違うっけ? ……うーん、まあいいか! うん、いいやいいや。
「愛華、どっち?」
なんか梨央ちゃんに追いつめられる私。
っていうか、隠す必要あるのかな?
まず梨央ちゃん、問答無用って感じな顔してるけど。
「はい、ありますぅ……」
もうこう言うしかないし、それ以外のことを言っても余計怪しまれるだけ……。
梨央ちゃん、いつの間に私の王様になっちゃってんの。
「だーよーねー。っで、なに?」
「えっと、梨央ちゃんが、こないだ……」
待って、このこと雪乃たちの前で言ってもオッケー?
普通ダメだよね。
っていうか、雪乃たちは梨央ちゃんの好きな人知ってたっけ?
まあいいか。じゃあ、適当な嘘を……。
「こないだ、牛乳吹き出してたことを思い出して……」
「えっ、愛華! ひどいよ忘れてって言ったじゃん!」
「だ、だからぁ……何もなかったことにしようかと……」
なんか私普通に嘘吐けちゃってますが、梨央ちゃん、妙に納得しちゃってるし。
まあ、私にしたらいいことだよね?
それより、この場合って、告白するとき梨央ちゃんに伝えないといけないタイプ?
だって、わざわざ梨央ちゃんがチャンスというか、時間をくれたわけだし……。
なんか、面倒なことになっちゃったなぁ。
まず、私に告白なんてできるのかな?
今まで一応男性恐怖症だったわけだから、恋なんてしたことなかったし。
うん、なかったよね。
「もう、愛華ってば……」
「なーに言ってんの? 二人とも歩いて歩いて!!」
ユアちゃんに背中を叩かれる。
前を見ると、小さくなった雪乃と紅葉が手を振っていた。
あれ? 私たちそんなに遅れてた!?
まさかぁ……。
何か信じられない。
ってか、3人とも歩くの速すぎだよ!
ユアちゃんは戻ってきたっぽいし。
「なんかごめんね~」
「何話してたかは秘密!」
「何それっ! ひっどぉ~」
3人でそんな会話をしながら雪乃と紅葉のところまでやっとたどり着く。
「おっそ~い。早くしてよ、もう」
雪乃が口をとがらせながらつぶやく。
私はいつものように「ごめんね~」って謝る。
梨央ちゃんは「ごめんごめん」って謝っているつもりなんなのか、とりあえずごめんって言ってるだけって感じ。
ユアちゃんは「この子たちが動かないから」とか言って私たちのせいに。
紅葉は「そうそう」って雪乃に同意。
うーん、何なんだろう、この規則みたいなものは……。
まあいいか。
「じゃ、さっさとかえろっか」
紅葉が笑う。
みんなそれに賛成したみたいで、そこからは楽しく帰った。




