16 距離
……どういう、こと?
「あははははっ、ごめん愛華! なんか黙っちゃった!」
「ごめんねっ」
雪乃は笑うし、紅葉は右手をピースにするし、梨央ちゃんは私を無視しているのか、ユアちゃんと話している。
何なんだろう、この距離感……。
私たちって、本当に友達?
そう思っちゃう。
分かってる。思い込みなんだってことは。
でも、本当にそうなのか心配になってくるんだよね。
だって、分からないから。
みんなの気持ち。
別に、分かりたいとは思わない。
すべてを知り尽くそうだなんて思っていない。
でも、やっぱりなぜか、気になっちゃう。
私のこと、どう思っているのか。
私のこと、みんなは友達だって思ってくれてるのかな?
男性恐怖症だって、治そうと一緒に頑張ってくれて、今では結構平気だし、みんなとのつながりも深まったと思っていた。
でも、それは私だけが思っていたことなの?
みんなは、別にそうは思ってなかったの?
……そうなんだろうね、きっと。
だって、私のことなんかどうせ、みんなは特別になんて思ってない。
せいぜい、ただの友達ってくらい。
そうだよね、きっとそうだよ。
――――そうに決まってる。
「ねえ、みんなはさ、私のこと――――」
そう聞こうと思ったら、紅葉が思い出したように叫んだ。
「あっ、そうだ! ねえねえみんな! あのさあ!」
「紅葉、声でかいって」
「近くにいるんだから、そんなに大きな声で叫ばなくても、みんな聞こえるよ……」
みんながあきれたようにため息をつく。
なんか、言うタイミング逃しちゃったなぁ……。
「ぁ、ぁのさぁ……ゎたしずっとぉもってたんだけど……」
「変な喋り方しなくていいよ」
梨央ちゃんが突っ込む。
するとそれに続いて、バカ、と、雪乃がつぶやいた。
そんなに言わなくても……。
「ってか、愛華、なんか言おうとしてなかった?」
ユアちゃんが私の方を見る。
えっ、聞かれてた!?
私はあせった。
「あっ、何も言ってない。っていうか、言うこと忘れちゃったから、いいや」
えへへ、と愛想笑いして言う。
ふう、何とか大丈夫……だったかな?
私は探るようにしてユアちゃんの顔を見た。
別になんとも思っていないみたいで「そっかぁ」と言ってまた雪乃たちの話に入った。
私も一緒に聞いておこうかな。
「でね、愛華が言ったんじゃん」
え、私?
何で私の話なんだろう?
「――――――って!!」
あ、聞き逃しちゃった。
「あははっ、そんなことあったね!」
「あ、紅葉。今、なんて言った?」
私が聞くと、紅葉は「聞いてなかったの?」と言って、面倒くさそうにしながらも教えてくれた。
「〔私、早く来すぎた?〕だよ。ほら、言ってたじゃん。春山神社の200周年記念のお祭りのとき」
そうだっけ?
私が必死に思い出そうとしていると、梨央ちゃんが口を挟んだ。
「200周年だったっけ? 100じゃなかった?」
200、だったと思うんだけどなぁ……。
「200周年だって!」
「そ、そうだっけ……?」
そんな会話をしていると、隣の方では、従姉妹で話していた。
「ユアって、相変わらずノー天気だよね。紅葉みたい」
「はっ!? 何それ、失礼でしょ!!」
「誰に?」
「あたしに決まってるじゃんか!」
ユアちゃんはバッカじゃないの、と後から付け足す。
でも、ケンカしててもやっぱり仲良しだなぁ……。
きゃわゆいっ!
はっ!! わわわ、私ったらなんてこと言ってるんでしょうか。
バカなのは私だよ、ユアちゃん……。
ごごご、ごめんなさい……。
「えっとぉ……愛華? どうしたの?」
ユアちゃんが不審そうに私の顔を見る。
「はわわっ、なな、何にもないですぅ!!」
なんだか、私ってミーハーなのかと疑っちゃうよ……。
だって、そうっぽいもん。
私ってそんなものだよね。
「……ふぅん。ならいいけど……」
じぃっと見られて、少し恥ずかしくなる。
ユアちゃん、何を思ってそんなに見るんですか……!
なんか、ほんと、やめてほしい。
「えっとぉ、そのぉ……そろそろ見るの、やめていただければと、思うんですが……」
髪をいじりながら敬語で言う私を見て、ユアちゃんは盛大に笑う。
「何それ、そんな改まらなくてもいいじゃん! あー、ほんっと、面白いよね。愛華ちゃんって!」
そんなに私、面白いのかな?
私はまた髪をいじる。
それを見て、ユアちゃんは言った。
「愛華って、恥ずかしくなったら髪いじる系?」
「ふぇ!?」
そそそ、そうなのかな……?
確かに、よく髪をいじるけど……。
でも、私、そんなに恥ずかしい出来事多いっけ?
あ、私……恥ずかしがりやなんだ。
「ふぇって、そんなに驚かなくてもいいじゃん!」
そう言って、ユアちゃんはまた笑う。
それを聞いて、横にいた雪乃たちもはじけるように笑いだした。
「あっはははははっ! やっぱりアレだよね。愛華って、天然ってやつだよね!」
雪乃がそう叫ぶ。
て、天然なのかな!?
「あははははっははは! それ言えてる! あーはははは!」
梨央ちゃんもそう言う。
なんか、みんな笑いすぎてて怖い……。
「はは……」
私は苦笑いをするしかなかった。
でも、紅葉は笑いそうな正確なのに、全然笑うようなそぶりを見せなかった。
というか、笑わなかった。
「紅葉……? 笑わないの?」
私が聞くと、紅葉は怪訝な顔をして、冷たく言い放った。
「面白くないことにでも、ムードメーカーのあたしは笑わなくちゃならないの? そういう強制的な性格の決め付け方って、どうかと思うけど」
「えっ……」
私は、それしか声が出なかった。
紅葉はいつも笑ってて、こんなこと言う子じゃなかったはずなのに……。
お前が何を知ってるんだって言われればそれで終わりだけど……。
そうだよね。私、紅葉のこと、そんなに知らない。
なのに、決め付けて……。
だめだよね。
「ごめんね、ごめんね紅葉。私、決め付けてたよね」
「え、愛華……? えっ、ちょっと、謝らないでよ!? あたし、そういうことじゃなくて、だから、えっと……あぁもう! えっと、ね、だから、愛華は謝らなくていいの。あたしが逆ギレしちゃっただけだから。だから、えっと、本当にごめんね」
結局、2人で謝りあって、笑いあった。
「紅葉っ……あはははっ! そんな謝らなくてっあははははは!」
「愛華……笑いすぎっははははっ……あー……疲れた。笑いすぎ……」
はぁ……。
そうやってため息をつく。
その間、3人はずっと笑っていた。
おなか痛いとか言ってたけど……笑いすぎじゃありませんか?
「紅葉、なんで笑わないの? うらやましーよ。あーはははっはっはっはっははっ!!」
梨央ちゃん……笑い方、怖いです。
「愛華も笑ってないじゃん! あぁそっか。自分で言ったんだもんね! あっはっはっははっははっ!」
あ……もう、いいです。はい。
もう分かりました。相手にしません。
「愛華……笑わせといて、そういう態度やめて……あーははははははは!」
ユアちゃんの笑い方も怖いです。
何なんだろう、この笑い方。
もう、なんか、壊れてますよね。
壊れて、爆笑しちゃってるんですよね。
はい、分かります。
「愛華……座ろうか」
「う、うん……」
私と紅葉は、そろそろチャイムが鳴ると思って、相変わらず笑い転げている3人を置いて席に座ることにした。
それにしても、何に笑っていたんだっけ?
忘れるほど笑ってたなぁ……あの3人。
特に梨央ちゃん。
なんであんなにはじけてるんだろう?
私も、あれくらい楽しく笑いたいなぁ……。
だって、私最近あんまり笑ってないんだもん。
もっと、楽しく笑って生きたいな。
まあ、梨央ちゃんと一緒なら、つられて笑えそうなんだけど……。
でも、やっぱ分からないものだよね。
あー……なんか本当に……しんどくなってきたような……。
あっ、はいっ、気のせいですぅ!!
……誰に言ってるんだろう。私、怖い。




