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14 電話

「――――――っていうわけなの。それで、ユアちゃん! どうしたらいい?」

 すると、ユアちゃんは興奮気味に聞く私の予想からかなり外れた答えを出した。

「で、あたしに何をしてほしいの? あたし、特に何かできるわけじゃないし」

 で? って……ひどくない?

 いやいや、相談に乗ってくれただけでも感謝せねば。


「き、聞いてくれてありがとう」

「ん? あ、どういたしまして。で、なにかしてほしいの?」

 なにか、してほしいことって、あるのかな?

 雪乃と紅葉を説得するとか?

 それは、なんだか無理矢理な気がするしなぁ。

 またユアちゃんと雪乃の関係が良くなくなったら、責任感じるし。

 梨央ちゃんに言うとか?

 でも、それをユアちゃんに言わせるのは悪いよね。

 せめて、私が言わないと。

 あれ? ユアちゃんのやることないような気がするんですけど?

 これって、聞いた意味あるのかな?

 でもまあ、ユアちゃんに言えて、ちょっと気楽になったかも。

 言うだけでも、意外と意味があるのかもね。


「やっぱり、なにもないみたい。ごめんね、ありがとう」

 ちょっと笑いながら言う。

 ユアちゃんは電話の向こうで少し不満そうにしていたようだったけど、すぐに明るい声になる

「いいよいいよ!! またなんかあったら電話してね!」

 ユアちゃん、頼りになる!


 ……私も、頑張らなくちゃ。誰かの役に立てるくらいに。

 ユアちゃんとの通話を終えて、私はベットに寝転がる。

 あっ、食べた後だから、寝転んだらいけないんだっけ。

 座ろう。

 そう思って、ベットの端の方に座る。

 何しよっかな。

 あ、雪乃たちのこと、考えておかなくちゃ。

 私は立ち上がって、机に向かう。

 自由帳を取り出して、私は作戦について書くことにした。


 いつも通りの朝、なぜか目覚めが良かった。

 作戦について書き終わった頃には、10時を過ぎていて、慌ててベットに寝転がったけど、心配でなかなか寝られなかったはずなのに。

 逆に、心配すぎて目が覚めたのかな?

 まあ、どっちでもいいか。


「おはよ~」

「おはよう、愛華」

 うん、今日もお母さんの機嫌はいいみたい。

 って、何言ってるんだ、私。

 なんだか、お母さんのこと、気にしすぎじゃない?

 ……絶対そうだよね。

 あーもう、なんか疲れる。

 昨日も疲れて帰ってきたのに、疲れがとれないよ。

 私、学校行けるのかな?

 倒れたりしたらどうしよう!!

 って、心配してもしょうがないよね。

 気にしない気にしない!


 今日の朝ご飯は昨日の晩ご飯の残り。

 ハンバーグと白ご飯。

 あれ? なんだか物足りないような……。

 あ、汁物とか、サラダとかかな?

 昨日はサラダはあったよね。

 スープもあったような気がしないこともないし……。

 まあ、なくなったんだよね、うん!

 ……無理矢理すぎるかな?

 いいよね、別に。


「どうしたの? 愛華。そんな所に突っ立って、早く食べちゃいなさい」

 お母さんに言われて、私は椅子に座る。

「いただきまーす」

 そう言ってハンバーグを頬張った。

 昨日よりは少し硬くて、ジューシーな肉汁も出てこない。

 だけど、温かくて、おいしくないことはない。

 ってか、おいしいよ!

 え? 何このハンバーグ、すごいよ。

 昨日のなのに、おいしい。

 でも、ジューシーな肉汁とか、軟らかいお肉とか、そういうのがないんだよね。

 なんでだろう? まあ、一晩経っているんだから、仕方ないよね。


「ごちそうさまでした」

 食器を流し台に持って行く。

 すると、お母さんが止めた。

「これからは私がするから、愛華は食べ終わったら食器を持って行かなくていいわよ」

「え?」

 食器を持って行かなくていい?

 今まで、うるさいくらいに持って行けって言ってたのに……。

 まあ、いいことだよね、これも。

 でも、最近、お母さん調子が良さすぎる。

 いつもなら、食器を持って行く前にトイレに行きたいと思っても「先に持って行きなさい」って言ってたのに。

 おかしい。絶対おかしいよ、これ。


「お母さん、どうかしたの? もしかして、熱がある?」

 この言葉が、どれほどお母さんを怒らせるか、私は分かっていなかった。

「……熱が、あるですって?」

「お、お母さ……」

 私は自分が言った事を思い返す。

 熱があるって言ったことがそんなに嫌だったっていうの?

 お母さんも勝手だ。

 ふと時計を見ると、遅刻しそうだったので、私はお母さんを無視して家を出た。

 家の前には梨央ちゃんも雪乃も紅葉もいない。

 もちろん、ユアちゃんもいない。

 公園にいるかな? と思って公園の前を通りかかったけど、そこにも誰もいなかった。

 雪乃と紅葉はともかく、梨央ちゃんまでいないなんて、おかしいなぁ。

 休みなのかな?

 私が遅かったからかな?

 いつもなら待ってくれるのに……。

 とりあえず、私は一人で行くことにした。


 学校に着くと、私は信じられない光景に絶句した。

 梨央ちゃんと雪乃と紅葉が、親しそうに仲良く話していたからだ。

 まるで、昨日私に言った事をまるっきり忘れてしまったかのように。

 何これ、昨日の事が全部嘘だったみたい。

 って、そんなわけないか。

 雪乃と紅葉は、きっと演技をしてる。

 昨日のことを覚られないように。

 そして、私にばらされないように。

 多分、そういうことなんだ。


「雪乃、紅葉っ、梨央ちゃん!」

 私は3人のもとに走り寄る。

 すると、雪乃が私を睨んできた。

 え? どういうこと?

「ちょっとぉ、愛華。なんでよってくるの? もう、仲直りしたんだから、いいでしょ?」

 は? え? ん? いやいやいやいや、おかしいよね、これ。

 どういうことかな?

 って、私、結構冷静だったりするものなんだ。

 なんか、意外と、悲しくなかったりして。

 これって、どういうこと?

 まあ、結果オーライ? なの、かな?


 その日の帰り、後ろから誰かに押された。

「った……。誰?」

 振り向くと、にこにこ笑っている雪乃と紅葉がいた。

 なんなの?

「ごっめーん、朝、嫌だったよね。あれ、作戦なんだ。愛華にも伝えようと思って電話したけど、話し中だったから」

 ごめんね? と、紅葉も雪乃に続いて言う。

 話し中、か。

 ユアちゃんと話してた時だね。

 でも、作戦って……?


「ねえ、作戦ってどういうこと?」

 すると今度は紅葉が雪乃よりも早く答える。

「梨央を油断させる作戦的な?」

 梨央ちゃんを、油断させる……。

 それって、本当は油断しちゃダメってことか。

 いろいろ考えるなぁ、2人。

 そんなに梨央ちゃんが嫌いなのかな?

 もう、面倒なんだから。


 雪乃と紅葉と別れて、家に入る。

「ただいまー」

 おかえりはなかった。

 どうしたんだろう?

 機嫌悪くなったのかな?

 あ、朝のことか。

 もう~、帰って来なかったらよかった。

 雪乃の家なら、多分泊まらせてくれたのに。

 服とかも一応雪乃のを借りれば……って、迷惑だよね。

 あ~もう、どうしよう!!


「おかえり」

 お母さんが、奥の部屋から出てきた。

 あれ? なんだか、そんなに怒ってなさそうな感じがするんだけど……。

 気のせい、なのかな?

 それとも、朝、お母さんが怒っていると思った私の方が間違っていて、本当はお母さんは怒っていなかったのかな?

 ……どうなんだろう?

 でもまあ、怒っていなかったんだから、良い事なんだよ。


 そういえば、優輝君の話とか、聞いてないなぁ。

 今は、ちょっぴり梨央ちゃんと疎遠って感じだから、仕方ないのかもしれないけど。

 まあ、そのうち紅葉も雪乃も、飽きて梨央ちゃんと仲良くなるでしょ。

 まさか、本気で梨央ちゃんの事大嫌いってわけではなさそうだし。

 ちょっと、ストレス発散って感じなのかな?

 でも、それにしてはかなり凝った作戦を立てていたけど……。

 どうしてもって感じの事になったら、ユアちゃんに頼ってみよう。

 ユアちゃんは、頼りになるしね。

 雪乃と仲が悪くならないように、考えておかなくちゃ。


 私はそんなことを考えながら、のんきに着替えをする。

 楽なワンピースに着替えると、自分の部屋に入って、今日の復習を少しだやる気になったから、机に向かう。


「そういえば……梨央ちゃんと優輝君の取り合いみたいなのがあったけど、どうするんだろう? 私が不利だからなんとかかんとかって言ってたけど」

 独り言を漏らす。

 あ、危ない。

 私、独り言多い方だから、おかしな子って優輝君に思われちゃうかも!

 うっわぁ~! そんなの、嫌だぁ!

 今は家の中だからいいけど、外でも独り言してたり、ぶつぶつ何か言ってたり、考え事してて人の話聞いてなかったりしてたら、優輝君に幻滅されるかもしれないよぉっ!

 ダメだダメだ。

 落ち着いて、冷静になって……。


 私は深呼吸する。

「ふぅ……」

 やっと落ち着いて、勉強を始められる。

 私は、苦手な数学の問題を解くことにした。

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