13 こんなのって……
こんなのって、こんなのってないよ。
梨央ちゃんのこと、2人とも嫌いだったの?
そんな、なんで……?
おかしいよ、そんなの。
私たちは、仲良しだったんじゃなかったの?
それに、私がみんなと会うより早く、3人は仲良しだったんでしょ?
なら、どうして……。
みんな、怖い。
私をいじめていた人たちみたい。
怖いよ、みんな。
どうして、そんなこというの?
本当に、梨央ちゃんが嫌いなの?
どうして、そんなこと……。
もう、やだ。
こんなことでけんかなんてしたら、もう、私たち友達に戻れなくなりそう。
だって私たち、絶縁状態だもん。
ユアちゃんがいたら、少しは変わったかな。
もう、悲しすぎる。
やだ、こんなの。
「2人は、り、梨央ちゃんのことが、嫌い……なの?」
すると、2人は楽しそうに笑った。
スキップを始める。
なんなの?
「もう、愛華ったら本当にかわいいんだから。嫌いなわけないじゃん!!」
私はほっとした。
でも、嫌いじゃないのになんであんな言い方……。
梨央ちゃんのことじゃなかったのかな?
そんなことを考える私に目を向けず、変わらない笑顔で雪乃が言った。
「嫌いじゃなくて、大っ嫌いなんだよっ!!」
にっこりと笑顔で楽しそうに告げる雪乃を見て、私は絶句した。
え……?
大っ嫌い?
「えっと、どういうこと?」
雪乃の言ったことが理解できなくて、というか、理解したくなくて、分かりきったことを聞いた。
すると、雪乃が答えるより早く、紅葉が言う。
「もうっ、本当に分からないんだねっ。まあ、かわいいからいいけどさっ。つまり、私たちは梨央のことが大っ嫌いなわけ。分かった?」
分かんないよ、全然、分かんないよっ。
なんで、なんで嫌いなの?
私は本当に驚いていた。
何なの?
なら、なんであんな意地悪に仲のいいふりなんかしてたの?
すると、その場の雰囲気に合わない明るい声で雪乃が言った。
「ばーかっ! 嘘だよっ、嘘! だってさっ、ほら、あの、あれだよ。んと、まぁとりあえず、嘘です」
へ? え? 嘘? まさかそんな!
嘘なんて、すっごい……。
今日、エイプリルフールじゃないんだよ?
ひどいいたずら。
雪乃も紅葉も、本当にひどいんだから。
もう。
ちょっと怒ってむくれていると、紅葉が私の肩を叩きながら優しい声で言う。
「ごめんね? そのさぁ、梨央のことは嫌いじゃないよ。でも、今は、好きでもないってコトで、まあ、前よりは嫌いかなぁって感じなだけだから、大丈夫だよ」
え、それって、結構大丈夫じゃないんじゃ?
「紅葉、それはちょっとマズイんじゃないのっ……?」
という私の嘆きは暴走し始めた紅葉の耳には届かなかった。
結局それ以上何も聞けずに、バイバイと手を振る。
自然とため息が出る。
疲れた……。
あーもう、なんなの?
嘘だとか、嘘じゃないだとか、そういうの、本当にやめてほしいよ……。
今日は疲れた。
とりあえず、帰ったらすぐにでもお風呂に入って、その後夜ご飯食べて、テレビ見ながら休んだら寝ようっと。
そうでもしないと、体がもたないよ。
本当、疲れた……。
「ただいまぁ~」
「おかえり」
よかった。
お母さん、機嫌がいいみたい。にこにこしてる。ふわっと良い匂いがした。
これって、ハンバーグ?
久しぶりだっ!!
「おいしそ~!」
美味しそうな音が聞こえて、お腹がすいてくる。
早くお風呂入ってこようっと。
お風呂をあがってきて、服を着る。
もうハンバーグは出来上がっていて、ほかほかの白ご飯も盛られていた。
今日はなんだか豪華。
やっぱり、気分が良いからかな?
「いっただっきまーす」
手を合わせて、そう言う。
そして、ハンバーグを一口分切って口の中に入れる。
「おいし~い!」
思わず叫んじゃうくらい、美味しい。
珍しくハンバーグを家で作るなーとか思ってたら、美味しいじゃん。
お母さんのハンバーグ、本当に久しぶり。
毎日がこうだったらいいのにな。
まあ、今はあんまりいい気分じゃないけどね。
でも、家だけでもいい気分でいたいもん。
いいよね、ちょっとくらい欲張りになっちゃっても。
私は食べ終わって、食器を台所の流し台まで持って行くと、自分の部屋に入った。
それにしても、雪乃も紅葉も、本当にどうしちゃったんだろう?
梨央ちゃんのこと、あんまり好きじゃないのは本当っぽいし……。
梨央ちゃんは気付いてないだろうけど、知っちゃったら、きっとショックだろうな。
言わない方が良いよね。
うーん、でも、私が梨央ちゃんだったら、言ってほしいかなぁ……。
秘密にされるのも嫌だし。
でも、知って、そのあとどうするんだろう?
やっぱり、気まずい雰囲気になっちゃうんだろうね。
それはそれで嫌だしなぁ。
うーん、どうしたらいいんだろう?
雪乃や紅葉に相談するのはさすがに無理だろうし、梨央ちゃんに直接、どっちがいい? なんて聞くのはもっと無理だし……。
って、全部無理じゃん!!
もう、どうしたらいいのかなぁ。
こういうとき、他にも友達がいたらいいのにって、思うんだよね。
梨央ちゃんと雪乃と紅葉以外にも。
3人と一緒にいるのは楽しいけど、もし、この4人で何かが起こったら、相談する人がいない――――――。
あ、ユアちゃんに、相談すればいいんだ!!
そうだよね、ユアちゃんなら、外の人よりまだ仲良い方だと思うし。
まあ、今日仲良くなったんだけどね。
まあ、そんな細かいことは気にせずにっ!
同じクラスだから、たしか連絡網の手紙に電話番号があったはず……。
私は立ち上がって、部屋を出た。
「お母さん、連絡網の手紙って、どこにあるっけ?」
すると、お母さんはしばらく考えてから「多分、棚にしまってあるファイルの中にある」と言った。
ファイルかぁ……。
探すの、面倒くさいけど、仕方ないよね。
探そうっと。
4冊あるファイルを適当に漁っていると、3冊目のファイルの一番最後のページにあった。
ユアちゃんの名前を探す。
「あ、あった!」
電話番号は……あれ?
家の電話番号じゃない。
どうしよう、これって多分、お母さんの携帯電話の番号だよね。
かけちゃってもいいかな?
仕事中だったりしたらどうしよう!
迷惑だよね。
でも、外に連絡手段ないし……。
かけちゃおう!
お母さんに聞こえないように、子機を自分の部屋に持って行って電話をかける。
呼び出し中の文字が出たまま、しばらく時間がたつ。
やっぱり、仕事中とかかな。
マナーモードっていう可能性もあるよね。
うわぁ、最悪!
と思っていたら、やっとつながった。
「もしもし」
私はその声を聞いて驚いた。
その声は、ユアちゃんだった。
そうじゃないかもしれないけど、似てる。
「も、もしもし。ユアちゃん、ですか?」
「はい。え、あたし? 誰?」
あ、名前言ってなかった。
「あの、春野愛華です」
すると、ユアちゃんは、気が付いて「ああ、愛華か! どうしたの?」と、明るい声で言ってくれた。
ユアちゃん、偉大すぎます!
「なんで、あたしの携帯電話の番号知ってるの?」
「え?」
あたしの……?
あたしのって、つまり、これは、ユアちゃんの携帯電話の番号だったってこと?
なんで?
あれは連絡網に書かれていた番号なのに。
「私、連絡網に書いてあった番号にかけたんですけど……」
そう言うと、ユアちゃんは「そういうことか~」と言って笑った。
どういうことなんだろう?
「あたしの電話番号だったっけ、あれ。お母さんがやったんだと思う」
そ、そうなんだ。
ちょっと驚きながらも、私は納得する。
でも、普通は家の電話番号を書くんじゃ?
それじゃなかったら、お母さんとかお父さんの携帯電話の番号じゃないの?
でも、まあユアちゃんにつながったんだから、いっか。
私は、さっそくユアちゃんに、梨央ちゃんの事を紅葉と雪乃があんまり好きじゃないという事件のことを、相談することにした。




