12 想い出
「まなちゃん、あそぼ」
愛華の家の隣に住んでいる、ゆうちゃんという子が愛華を呼んだ。
これは、愛華が男性恐怖症を引き起こす前のはなし。
愛華は幼稚園の年中さん。
ゆうちゃんも年中さん。
愛華とは年が変わらないけど、お兄さんのような存在だった。
「ゆうちゃんおはよー!!」
ゆうちゃんに呼ばれた愛華はそう言いながらゆうちゃんの方へと走る。
すると、落ちていた小さな石につまずいて、転んだ。
幸い、そこはコンクリートではなく土だったので汚れただけで済んだ。
「大丈夫?」
ゆうちゃんは愛華の服に付いた土を払いながら心配そうに言う。
「うん! 大丈夫!!」
愛華は転んでも元気だった。
でも、次の瞬間――――――。
庭の後ろに隠れていた男が、突然二人を襲ってきた。
しかし、母親たちは家の中でくつろいでいて、声が届かない。
すぐに二人が見えるようにと窓の近くに座っていたが、話に夢中でとても聞こえそうになかった。
二人は男に、さっさと連れて行かれてしまった。
車に乗せられた二人は、怖くて震えていた。
どこへ連れて行かれるのか分かるはずもなく、ただ二人は黙っている。
それで男たちが安心したのか、二人は縛られたり、口をガムテープでふさがれたりはしなかった。
でも、しゃべるといつ何をされるか分からなかったので、静かにしていた。
しばらくすると、男が運転しながら電話を始めた。
そしてもう少しすると、車が止まり、二人は車から降ろされ、広い倉庫のような所に連れられる。
「ここにいろ」
男は二人をにらみながら倉庫から出ていった。
「まなたち、どうなっちゃうのかなぁ」
愛華はが心配そうに言う。
でも、ゆうちゃんは黙ったまま。
「ねえゆうちゃん」
「し-っ。誰か来るかもしれないよ。大きい声出しちゃダメ」
ゆうちゃんはそう言うと、そこらをウロウロし始めた。
「ねぇゆうちゃん、なにしてるの?」
愛華が聞いても、ゆうちゃんは答えない。
ちょっと怒った様子で、もう一度呼びかける。
「ねぇ、ゆうちゃんってば!」
「しーっ!」
ゆうちゃんは人差し指を自分の唇に当てて言う。
しかし、その時にはもう遅かった。
バンッとドアが乱暴に開いたかと思うと、男がまたやってきて「静かにしろ!」と叫んだ。
二人は震えながらうなずく。
男がいなくなってドアが閉まると、ゆうちゃんは言った。
「ほらね、言ったでしょ。あの人が来ちゃうから、静かにしとかないと」
「はぁい」
注意を受けた愛華は、面白くなさそうに返事をした。
「お母さん、何してるかなぁ」
愛華がつぶやく。
そのころ、母親たちは警察に捜索届を出し、警察はこの近くに二人を探しに来ていた。
二人をさらったこの男は、以前も誘拐事件を多発させていて、警察たちも捕まえようとしているところだったらしい。
そしてついに、二人は見つかり、男たちは逮捕された。
二人は気付いていなかったが、実はこの倉庫には他にもたくさんの子供がいた。
そして全員無事に助けられ、家族が待つ家へと帰って行く。
しかし、男の仲間が来て、ゆうちゃんだけをさらっていってしまい、9年たった今でもゆうちゃんは見つかっていない。
ちなみに、愛華はゆうちゃんのことを女の子だと思っている。
このことをきっかけに、男性は恐ろしいものだと思ってしまい、愛華は男性恐怖症になってしまった。
なぜこれまで男性に興味がなかったのかというと、実は愛華には父と祖父がいなかったからだった。
愛華は男性のいない環境で育ってきたので、大人の男性に出会ったのは、この時が初めてだと言ってもおかしくなかったのだ。




