11 友達
放課後、私だけちょっと気まずいとか思っている。
だって、ケンカしている相手と今一緒にいるんだよ?
絶対何か仕組んでると思うんだけどなぁ。
いやいやいやいや、梨央ちゃんの事だもん。
絶対そんなことないに決まってる。
……決まってないけど。
「愛華、さっきから黙ってるけど、大丈夫?」
ユアちゃんが私の耳元でささやいた。
私は大丈夫だと言ったけど、心の中ではかなり大丈夫じゃなかった。
梨央ちゃんとまた仲良くしたいよ~。
優輝君のことでケンカしたくないよ~。
うぅ、泣きそう……。
体調悪いって言って先に帰ろうかな。
梨央ちゃんと一緒にいるのは、今は無理。
よし、今日は早く帰ろう。
「あの、私ちょっと体調悪いから、今日は先に帰るね」
そう言って走って帰ろうとした。
すると、後ろから梨央ちゃんの叫び声が聞こえてきた。
「私も一緒に帰る!」
それじゃあ意味ないんだけど!
とか思ったのは誰にも言えないです。
梨央ちゃん……こなくていいのにぃ……。
心の中でため息ついて、表面上では笑顔。
「梨央ちゃんありがとう」
私はいつの間にか、こんなに悪い子になっちゃってたみたい。
友達に嘘つくなんて、最低だよね。
でも、それは梨央ちゃんだって一緒でしょ?
そう、だからいいの!
自分に言い聞かせながら5人で歩く。
結局、みんなで帰ることになった。
「もう、愛華ったら、体調悪いならもっと早く言ってよ~。黙ってたのも体調悪かったからでしょ?」
なんか、変な方向になっちゃってるけど、抵抗しない方が良さそうです。
「うん、そう」
私ってば悪い子!
悪すぎるよね、ほんとに。
そろそろ、罰が当たりそう。
友達って、いろいろ難しいみたい。
今までは、こんなこと気にせずに自然に仲良く出来てたのに。
ちょっと気の強い梨央ちゃんも、紅葉が和らげてくれてたし、紅葉の天然さは雪乃がカバーしてた。
雪乃のまじめさには梨央ちゃんが突っ込んでたし。
私の微妙な性格に、みんな大丈夫だよって慰めてくれた。
4人で、ダメなとこ支え合って仲良くしてたのに。
どうして今は、こう、ぎくしゃくしちゃってるんだろう。
梨央ちゃんは、梨央ちゃんなりの優しさで誘ってくれたのかもしれないし、ケンカしてるって思いたくなかったのかもしれない。
梨央ちゃんの気持ちは梨央ちゃんにしか分からないけど、梨央ちゃんの考え方は大体同じパターンだから分かる。
みんな平等になるように。
そう言って、いつも努力してくれてた。
それは今も一緒だよね。
私にも、ユアちゃんにも雪乃にも紅葉にも、みんなに同じように接してくれていた。
別に、他の3人が人によって態度を変えるとかいうわけじゃないけど、梨央ちゃんが一番それに気を付けてくれていた気がするんだよね。
気のせいかもしれないけど。
ううん、気のせいじゃないよね。
梨央ちゃんは、みんなに気を配ってくれてたもん。
雪乃はいつもみんなのサポートしてくれてた。
紅葉が天然発言したときに説明してくれたりするのはいつも雪乃。
真面目でお嬢様で、かわいい。
おしゃれが大好きで、梨央ちゃんと絡んでるときが一番楽しそう。
すっごく色々考えてそうで、底が見えない。
でもそこがいいんだよね。
雪乃の特徴。
紅葉はいつも天然発言でみんなを和ませてくれた。
ほわほわしてて、どちらかというと私に似ているタイプ。
いじられる側って感じかな。
雪乃と梨央ちゃんはいじる側だからね。
とにかく考えるより先に動く。
そして、ほぼ失敗。
そういう所は梨央ちゃんにも似てるかも。
自分が興味のあることには一生懸命だし。
そこは雪乃に似てる。
紅葉は、私にも雪乃にも梨央ちゃんにも似てるんだよね。
私は、それをいつも見ていた。
3人が絡んでるのを見て笑ったりしてた。
それだけで、楽しかったから。
友達って、一緒にいて楽しい存在なんだ。
なのに、最近は微妙な関係になっちゃってるなぁ。
大丈夫なのかな……?
まあ、私たちなんだから、安心かな。
梨央ちゃんも、紅葉も、雪乃も、ユアちゃんも、みんな仲良くやっていけるよね。
仲良し4人組から仲良し5人組に進化したんだし。
ユアちゃんともっと仲良くなれたらいいな。
「じゃあね、雪乃、紅葉、愛華!」
梨央ちゃんはそう言ってユアちゃんと一緒に違う方向の道へ進んでった。
梨央ちゃんとユアちゃんは家が近いらしい。
私たちは2人に手を振ると、3人で話し始めた。
――――まさか、あの子があんなこと言うなんて、思ってもいなかった。
梨央ちゃんとユアちゃんと別れてから、私たちは今日の夜ごはんは何がいいか、というテーマで話していた。
雪乃はハンバーグがいいらしくて、紅葉は麺類が嫌らしい。
その理由っていうのが、最近、夏だからと言ってそうめんとかそばとか、昼ご飯も夜ご飯も、麺類が多いかららしい。
ちなみに、朝ご飯はパンだから麺にやられる心配はないとか。
雪乃は外食がしたいとか言っていた。
それで、お店のハンバーグが食べたいんだって。
私は暑いから、そうめんでもいいと思うんだけどなぁ。
家で流しそうめんが出来たら、楽しそうだと思うんだけど……。
みんなはそうじゃないみたい。
やっぱり、人それぞれ好みは違うものなんだね。
私は改めてそう思った。
その時だった。
突然、話題が大きく変わった。
「やっといなくなったね」
雪乃がスキップしながら言った。
やっといなくなった?
なんとなく、嫌な予感がして、たまらなかった。
「だね。もう、本当に愛華愛華って、ウザいんだから。ね、愛華」
紅葉が私に話を振ってきたから、私は動揺を隠せなかった。
ウザいって、もしかして、二人とも梨央ちゃんのことを言ってるの?
友達なんじゃないの?
私は悲しくてたまらなかった。
「そ、んな、ウザいなんて……」
震える手を押さえながら言う。
これって、悪口?
やだよ、そんなの。
そんなの、やめて。
「やだ、もう愛華ったら、かわいいんだから。言いたいことは言えばいいんだよ? 私たち、愛華を責めたりしないから」
雪乃がポンポンと私の背中を軽く叩く。
言いたいことは言えばいい?
それって、私がうんウザいって言っても、ううんウザくないって言っても、本当に攻めないってことなんだよね?
私は不安に包まれた。
これって、本当のこと言ってもいいの?
「私は、そんなに、ウザくないって、思ってる、よ……?」
人生で一番緊張する発言だった。
もしも、嫌われたら――――――。
私は自然と、昔のことを思い出した。
小学生のころを。
私は小学生のころ、男性恐怖症というのが珍しかったのか、よくいじめられていた。
相手からしたら、いじめではなく、いじりだったのかもしれないけど、それでも私は嫌だった。
わざと男子を私の方に近づけて来るとか、そういう程度だったけど、男性恐怖症だった私は、いじめてくる男子も、それを面白がっている女子も、みんな怖いと思うようになって、次第に学校にも行かなくなっていった。
大体、男性恐怖症の私が学校に行っていたのもおかしい事だと思う。
おかしいと言ったらちょっと表現が変かもしれないけど、まあ、普通なら行かないかな~、みたいな感じで。
とりあえず、学校には行かなくなって、男性恐怖症は多分ひどくなっていたと思う。
そのあと梨央ちゃんたちに会ったんだっけ?
えっと、いつ会ったんだっけ……。
「ちょっと、愛華!!」
「えっ!?」
突然声をかけられて、私は驚いた。
それを見た紅葉は、楽しそうに笑い出した。
「やだ愛華、驚きすぎじゃないの? まあいいんだけどさっ、かわいいし!!」
きゃっきゃとはしゃぐ紅葉を見ていると、私をいじめていた女の子と紅葉が重なりそうになって、嫌になる。
一刻も早く、この場から走って逃げだしたいと思った。




