1 お祭り
私は春野愛華!
コンプレックスありの女子中生。
友達はいるんだけど……。
で、そのコンプレックスというのは……男性恐怖症!
実は私、男性恐怖症なんだ~。
だから、男性に見られたりするのが、怖い……のかな、うん。
それで、つい友達の後ろに隠れちゃったりしちゃうんだよね。
今日は普通の休日……のはずなんだけど、お祭りとかいう面倒くさいものに呼ばれちゃいました。
友達からの、お誘いなんだけど……。
その友達というのは、夏川梨央ちゃん!
あと、秋山紅葉ちゃんと、冬音雪乃ちんがいるんだ!
みんなはいつも男性恐怖症の私をサポートしてくれるんだけど、今回だけは違うみたい……。
「愛華! 聞きなさい!」
梨央ちゃんが突然叫んだ。
私はびっくりして慌てた。
なに?
「今日は祭りで~す!」
ぴょこっとジャンプして出てきたのは雪乃ちゃん。
祭り? お祭り? 今日に? 冬なのに? 寒いのに?
正月でもないのに? なんでもない日なのに?
全く分かんない……。
どういうこと?
私が聞いてみると、横から飛び出してきた梨央ちゃんが笑顔で言った。
「今日はね、春山神社200周年なの!」
そうなんだ……。
私は梨央ちゃんのテンションの高さに圧倒されながらも、笑いながら言った。
「す、すごいね……」
「それでね、行こうよ!」
行こう? 今日帰ってすぐに?
って、また疑問が。
「何時に? 夜?」
私が聞くと、梨央ちゃんはあきれながら「そうに決まってるじゃんか!」と叫んだ。
ですよね~。
で、だから何時?
まったく、梨央ちゃんは重要な所だけ言わないんだから。
困るんだけど、って、心の中で言ってるだけじゃダメなんだよっ。
「ねぇ、何時?」
「ん~、6時くらい!!」
絶対適当に言ったよね、梨央ちゃん……。
なんか不安だな……。
まぁ、行ってみようかな!
男子と目が合わないように気を付けて。
「寒……」
私は浴衣なんて超寒いものを着て、この真冬の空の下に来た。
中はすごいほど着こんでいるんだけど……やっぱり、寒い。
待ち合わせ場所の春山神社前でしばらく待っていると……。
「ごめん遅れた! お待たせ~!」
そう言いながら、梨央ちゃんが息を切らして走ってきた。
後ろの方から、雪乃ちゃんと紅葉ちゃんも走ってきてる。
「はぁ、疲れた……。もう、梨央っ!」
「早いったらないよ……」
二人は梨央ちゃんよりもっと息を切らして、倒れこむようにして止まった。
だ、大丈夫かな。
「私、早く来すぎた?」
私がそう聞くと、全然そんなことないと言われた。
私は本当に良かったのか、分からないまま会場へ向かった。
少し歩くと、人ごみが現れた。
それに……広い!
迷子になっちゃいそうな感じだけど……。
大丈夫かな……?
私は心配で心配で仕方なかった。
「早く早くっ!」
梨央ちゃんの叫び声に、私は慌てて答える。
「あ、ちょっと待って~!」
梨央ちゃんったら、すごい走ってる。
私も追いかけてるんだけど、つ、疲れる……。
死にそうなほど、しんどい……。
「愛華ちゃん、早くっ!」
「そうだよっ、待たせすぎるとうちらが怒られちゃうんだから~!」
雪乃ちゃんと紅葉ちゃんが叫んだ。
二人とも、すごい大きい声。
あんなに遠くにいるのに、結構大きな声に聞こえる。
まるで、耳元でまぁまぁ大きい声でしゃべられているくらいの、そんな声。
って……怒られる?
他に誰かいるのかな?
私が一生懸命走って、やっと三人に追い付くと、梨央ちゃんに手で目を塞がれた。
「はい、目を閉じて~」
私はパニックになりながらも、言われた通り目を閉じた。
と言っても、梨央ちゃんの手で目を塞がれているから、そんなに変わりないんだけどね。
「じゃじゃ~ん!」
パッと手を離されたから、私は目を開こうかと思った。
「何?」
私がそっと目を開けてみるとそこには……。
「やだぁ~~~~~~~~っ!!」
私はダッシュッ!
そして逃げるっ!
誰がいたか?
そんなの分かる、よね?
男子……ですよ。
し、死ぬかと思った……。
って、死ぬわけないか。
いくら男性恐怖症でも、死にはしないよね。
でも、イラつく……。
あ~も~!
嫌だあぁぁぁ!
ほんっとにヤバかったんだからぁっ!
もう、耐えらんない!
触られるとか、終わってるんだから。
男性恐怖症って、触られると不安になるとか言うけど……。
私の場合、もう、なんだろう。
とりあえず、嫌っていうか、逃げちゃうっていうか。
一緒にいるだけで嫌なんだ。
だからわざわざ女子校に入ろうとしたんだけど……受験落ちちゃって、普通の共学の中学に通ってる。
女子校にいけたら、どんなに良かったかな。
でも、まぁ仕方ないよね。
頑張るしかないっ!
それに、私には梨央ちゃんと紅葉ちゃんと雪乃ちゃんがいるんだもん、大丈夫!
絶対絶対大丈夫なんだからぁっ!
って、私ったら何言ってるんでしょーか。
……そういえば、ここ、どこ?
見えるものは木。いくら神社でも、こんなに木が生えてるものなのかな?
そのせいでか視界も悪いし。
も、もしかして私……迷子? まさかっ!
中2にもなって、迷子ぉ?
そんなのダメじゃん。
ダメじゃないけど、でもやっぱりダメじゃん!
誰か探しに来てよぉ~っ。
その時だった。
「愛華~!」
「愛華ちゃん!」
「愛華ちゃーん!」
みんなの声が聞こえてきた。
でも、今行くとダメなんだよぉー。
だって、男子達のはしゃぎ声が聞こえるから……。
「もういないから、大丈夫だから~!!」
梨央ちゃんの叫び声。
うぅ……。
さっきの人たちはいなくても、周りにいるから無理なんだよぉ。
怖いし。
そこらへんにウジャウジャいるんだよね……男子って。
大勢で遊ぶの好きそうだし。
それに対して私は多ければ多いほど、ぶつかったりするし、危険なんだ。
だから、こういう所は怖いんだよね……。
それでも来た理由は、ただ一緒にいたかったから。
あの三人と。
私は休日に遊んだりしないので、あまり一緒にいることがない。
それも男子のせいなんだけど。
でも、たまには一緒に遊びたい。
たまには、三人に気を使わせたくない。
私はそう思った。
だから、ここに来たんだ。
逃げてちゃダメ。
男子がいたって、構わない!
私はもう逃げたりしない。
ちゃんと、現実と向き合うんだっ!
私はかっこよく決意すると立ち上がって、森のようになったその場所から出ようとした。
でも、葉っぱのせいで暗くなってよく見えない。
浴衣のせいで動きにくい。
「痛い……っ」
私はかすれた声を出した。
痛みを感じる右腕を見ると、そこには細い枝が刺さっていた。
刺さっていたと言っても、そんなにグッサリ刺さっていたんじゃなくて、ただ単に腕に食い込んでいただけ。
でも、痛いものは痛い。
私は左手で枝を避けると、また歩き出した。
っていうか、声が聞こえなくなった……?
もしかして、私もっと奥に行ってるんじゃ……?
そう考えると、私は背筋が凍りついたような気がして、震えた。
なんか、風が強くなってきて、寒い。
まずはこの森から出なくちゃ!
帰りたい、けど帰れない!
「愛華~!」
雪乃ちゃんの声がした。
こっちに来てるのかも。
目の前から光が射した。
まぶしいけど、あそこに行けばきっと、雪乃ちゃんたちに会える!
男子の声はしないし……大丈夫なはず!
私は歩き出した。
そして、光のもとに辿り着くと、そこには三人の姿があった。
「みんなっ!」
私は叫んだ。
三人は声に気付いて振り向くと、可愛い笑顔を輝かせて、抱き着いてきた。
「愛華っ! どこ行ってたの、心配したんだからねっ!」
梨央ちゃんは泣きそうな顔になって、私に向かって叫んでる。
みんな、怒ってるに決まってる。
私はその場の空気に耐えられなくなって謝った。
「ごめんなさい……」
すると、予想外の声が返ってきた。
「愛華ったら何謝ってんの!」
「私たち、友達でしょ! ……怒ってたけどさ、もういい」
「そんなつまんないことで謝んない謝んないっ!」
えぇっ!?
私は叫びそうになりながら、頭の中で何かと格闘する。
さすがに、謝んなくていいってことはないんじゃ?
いくら友達でも、それくらいは区別つけなくちゃいけないよ。
ギギギィィィィィーーーー!!
わっ!
突然大きな音がした。
な、何?
その時、大きな何かが私たちに向かって近づいてきてることが分かった。
あれは何……?
私は避けることができなかった。
体が固まったように動かない。
そのとたん、ドンッと、何かにぶつかる音がした。
私は目の前が真っ暗になっていくことに恐怖心を抱きながら、パニックでどうにかなってしまいそうだった。




