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寂しさ

作者: 白猫ノ夏

冬、私は風邪を引いた。

元気だけがとりえのような私が、迂闊にも風邪を引くなどなにごとか!?

なんてことは、誰も思ってくれていないだろう。

インフルかもしれないが病院へ行く気力すら起きない。

とりあえず一人暮らしの私の部屋には、いつのことだか思い出せないが、賢い私が前もって買って置いていた風邪薬があったので、それを呑んで会社に連絡を入れて布団に戻ったのだった。

布団に戻って数十分。

一向に眠れる気がしない。

いつもならもっと寝ていたいと携帯のアラームに愚痴りながら布団を出るというのに、眠りたいときに寝れないとはこれいかに。

身体が酷く重く、寝返りを打つのもやっとの状態。

子供だった頃は学校を正当な理由で休む口実になると喜んでいたのに、この年になって風邪を引くのはごめんこうむりたいと、そう思う。

まだ二十六歳だけど…。

既に風邪を引いてしまった今回は仕様がない。次からは失恋したからと言って生活を投げやりに崩すのはやめよう。

社会人になって早四年。

ついでに言うと大失恋から早三ヶ月。

そいでもって初恋からも既に十四年。

処女喪失から九年だ。

もう子供じゃない。

いい加減大人にならなきゃ!とか、適当なことを自分に言い聞かせておいて、もう一度ゴロンと寝返りを打つと、枕元に置いてある携帯電話に手を伸ばす。

カーテンが中途半端に閉まっている薄暗い部屋では、今ではもう当たり前になったスマホの画面が良い感じの光源になっていた。

昔、親に暗いところで本を読んだりゲームをするなと言われていたが。

なるほど、最近視力が落ちてきたのはそのせいか!

偉大な御母上、ごめんなさい。

私は阿呆でした。

そう心の中で反省をして、メール作成画面を開いた。

連絡するならLINEでしろよ!と、同僚や友達から言われている。が、私は如何せん機械に弱い。

このスマホにもついこの間乗り換えたばかりなのだ。

既に旧時代の遺産となりつつあるガラケーですらまともに使いこなせていなかった私からしたら、これは正直よくわからないけど凄い物!くらいの認識でしかないのだ。

だから、LINEなんてものは私にはまだ無理なのだ。

故にメールも短文。というよりも殆ど一言。

つまり呟きレベル。

ツイッターでもやればウケるだろうか?などと思案しつつも、いつものノロノロペースでメールを打ち終え友達皆に一斉送信でばら撒いた。

『風邪引いた』

たったこれだけである。

なんてつまらない。どころか、どうでもいい情報である。

受け取った友人たちはどう返すのだろうか?

そんなことを考えていたら、ようやく薬が効き始めたのか眠たくなってきた。

私は機械に弱いけど、どうやら薬の効き目にも鈍感なようだ。

そうして私は眠りに落ちた。



夢を見た。

いつだったかにした約束の夢。

私に初めて告白してきた人の夢。

いつも私から告白していた恋愛に訪れた変化。

その人とした約束のことを、私は夢で見た。

幸せそうな日常だった。

彼と話したことは殆ど忘れてしまったけれど、約束だけは覚えてる。

『ずっと一緒に居ようね。あと四年だよ?四年たったら結婚できるからね~♪約束しよう!お姉さんとの約束だ!』

夢は夢で終わって、約束した私の方から彼を捨ててしまった。

私の自分勝手な理由で彼の前から居なくなった。

それは唐突に、何も言わずに、何も残さずに、ふらっと居なくなったのだ。



目が覚めて最初に思ったのは「気持ち悪い」だった。

いっぱい汗をかいたせいで、下着どころかパジャマまで全部ぐっしょりと濡れていた。

そして布団も結構湿っぽい。

「うへー、気持ち悪いなぁ~」

そうボヤキながらも身体を起こすと、眠る前より格段に身体が軽くなっていた。

立ち上がると少々跳ねたい気分になったが風邪を引いているのを思い出し、すんでのところで思いとどまった。

「私えらい!」

自分を適当に褒めた。

それから着ている物を全部脱いで洗濯籠に放り込むと、タンスから新たな下着とパジャマを取り出し装着した。

そして可愛らしくもない丸い教室とかにあるような時計を見て少々驚く。

「もう四時かぁ」

そうもう四時なのである。

昼ごはんを食べていないのでお腹が空いていた。

「はっ!朝ごはんも食べてなかった!」

すっかり忘れていた。

今日何も食べてないよ、私!

『ぴーんぽーん』

唐突に鳴り響いたチャイムの音に、少し心が躍った。

一人暮らしを始めて早四年。

時々ではあるけれど、孤独を感じることがある。

その度に彼氏に電話して、寂しさを紛らわしていた。

そんなことを何度か夜中にしていたら、遂には二年付き合った彼氏に振られたわけだ。

だから、人の訪問は新聞だろうと宗教団体だろうと少し嬉しい。

「はいはーい」

そう言って、私は玄関へと向かう。

朝に出したメールも寂しかったから出した。

病気になると心も弱って寂しくなる、と友達が言っていたのが今日やっと分かった。

だから、夢も見たんだと思う。

「はい、なんでしょうか?」

そう言いながら玄関のドアを開けた私は、数秒言葉を失った。

「あの、えっと……メールが巡り巡って、僕のところにも届きまして…」

私の目の前に居る人はそう言って、緊張気味に身体を強張らせ、ついでに目もあちらこちらに泳がせて、そして言うのだった。

少し長めのコートを纏い。これまた少し長めのマフラーを巻いた人が言うのだった。

「来ちゃいました」と。

彼がまだ中学生の頃、大学生の私に告白してきたのは七年前だと覚えてる。

可愛いからって付き合い始めて、いつの間にか私も好きになっていた。

けど、今日見た夢の通りの約束をして、その後私は別の男と付き合い始め、ふらっと彼の前から姿を消したのだ。

あれから七年近く経つ。

忘れているんだと思っていた。

覚えているのは私だけだと。

「あの、………さん?」

久々すぎて恥ずかしいのか、彼の呼んでくれた私の名前は、声が小さくよく聞こえなかった。

けれど聞こえてきた音もある。

ドクッドクッと少し速いペースで刻まれる私の心臓の音だ。

これはチャンスだと私は思う。

だから、とりあえずは彼をもう一度籠絡する事から始めよう。

寂しさを紛らわす為に。


お久しぶりです。

しろねこです。

前回の小説から二年近く経ちましたかね。

待っていてくれた方には申し訳ないです。


さて、今回は初の短編です。

短いですねぇ。

でも、よくよく考えてみれば、いつも短いのでどれも短編なんですよね。

無理やり切り分けて連載にしているだけで。

いつかまぁまぁ長いお話が書けるといいなぁなんて思います。


えぇと最後に、この他にもう一つだけ既に書き終わっているお話があります。近々載せる予定ですので、よければそちらも面白そうだなと思いましたら読んでいただけると幸いです。

それではまた次の作品でお会いしましょう。

しろねこでした。

ドロン!

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