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マリアの場合

 私が彼に話しかけると彼はいつも、困ったような顔をする。

「どうして私なんかがいいんですか。見ての通り、私は貴方より20歳以上も年上で人から怖がられる顔だし、口下手で、人見知りで、独立もしないで兄世話になっている。自分で言うのもなんですが、ろくでなしのだめ人間です」

 いつも自信なくそう自分を貶める言葉を口にする彼にわたしはいつもと同じ台詞を告げた。

「それは私があなたに恋をしたからです」

  


 マリアは自分が恵まれていることを知っていた。公爵家に生まれ、広大な屋敷に、望めがすべてがかなえられるほどの財を持ち、美しく優しい両親に5人兄妹の末っ子として愛情いっぱいに育てられた彼女は、貴族に生まれた女としての義務もしっかりわかっていた。

 いずれ親の決めた人に嫁ぎ、その人との間に子供を残すことで家に貢献するのだと。

 上の姉さま達は、年も家柄も近い素敵な人たちのもとに嫁いで行ったがすべてがそうであると限らない、むしろそうであることの方が稀であると年上の幼馴染に教えられ、その幼馴染は成り上がりで自分と10以上年の離れた男性のもとに嫁いで行った。

 だからマリアも結婚に夢は持たず、結婚した人がどんなひとでもしっかりと愛せるように想像を幼いころから働かせていた。

 自分の親より年上でも

 容貌が冴えなくても

 社交的でなくとも

 自分にふりむいてくれなくても

 出世競争に負けて貧乏になっても

 それでもずっと一緒に生きていけるくらい好きになろう、と少しずれていたが子供らしく幼く純粋な夢を見ていた。

 

 

 マリアの思いも知らず両親は13になり社交界に出ていくことになる娘にこう言った。

「愛しのマリア。貴方は上の姉さま達のように政略結婚をしなくてもいい。これから好きな人を見つけなさい。貴方が選んだ人ならば私たちはどんな人でも歓迎するわ」  

 嫁がせた娘たちは結婚先で幸せになったが、それでも諦めた思いもあったことを知っていた両親の、下の娘だけでも好きな相手と結婚させようという慈愛に満ちた愛情は、彼女にとって今までの自分の覚悟を否定するに等しかった。

 結婚する相手と恋愛するようにと考えていたマリアは、結婚していない相手と恋愛をするという意識自体が欠けていた。

 戸惑う彼女の思いもよそに社交界で、マリアの周りには男が群がった。

 公爵家という家柄を抜きにしても彼女は美しかった。育ちの良さを感じさせる上品な立居振舞、光をはじく金の巻き毛に、新緑の瞳、白磁のような白い肌にバラ色の頬、幼いながらに完璧な美を持ち、性格も朗らかで優しく、細かい気配りもできるいう全てにおいて最高のものを兼ね備えた彼女に適齢期の男たちは色々な方法でアプローチをした。

 美しい言葉を紡ぎ、色々な贈り物をくれて、手紙を書き、気遣ってくれた。

 自分と年の変わらない人もいた。

 整った素晴らしい容貌の人もいた。

 明るく社交的な人もいた。

 全てをなげうっても自分が欲しいという人もいた。

 将来を期待されている人もいた。

 だが、彼女の心はときめきを感じることはなかった。

 そうして3年が過ぎ、マリアは誰にも振り向かない『高貴な薔薇姫』と呼ばれるようになった。

 彼女は少し焦っていた。

 もうそろそろ結婚適齢期だというのに、いまだにこれだという人物に巡り合っていなかったからだ。両親からはゆっくりでいいといわれていたが、姉たちが自分の年齢のころにはすでに結婚をしていた。

 たくさんの素晴らしい人と出会ってきたはずなのに、恋愛一つまともにできない女だから母たちも私に無理に結婚を強いる事ができなかったのだろう。どんな相手と結婚しても愛せるようにと思っていたはずなのに、どんな相手でもいいから選びなさいと言われて選べない自分の傲慢さをマリアは恥じた。

 こんな自分が恋愛などできるはずもない。

 そうして恋愛に対してもだんだんあきらめを持つようになっていたマリアは、兄の友人の誕生日を祝うパーティーに誘われて行った先で運命の人と出会った。

 パーティ会場に入るとすぐ男性たちが私の周りに集まり色々なことを話しかける。

 マリアはそれに応対しながら、ふと視線を感じ視線の先をたどると壁にもたれている強面の男の人が、じっとこちらを見ていた。彼はどこか不機嫌そうな顔をしており、彼をさけるように周りには空間ができていた。

 彼のことが気になり、周りの方に聞いてみたが誰も彼のことを知らないと首を振った。

「彼のことが気になりますか?」

 パーティーの主催者で兄の友人の父リード・リィ・ロンド伯爵にそう声を掛けられた。

「ロンド伯。あの方を知っておられるのですか?」

「私の幼馴染で、ギルバートといいます」

 ロンド伯爵の言葉に「あのひきこもりの」と周りにいた男性のうち何人かが得心したような顔をした。

 ロンド伯爵曰く、あの顔のせいで40過ぎても未だ結婚ができておらず、兄の仕事の手伝いをして暮らしており、社交界にも出ず1年のほとんどを領地ですごしているとのことだった。

 男性たちからは失笑が漏れるが、マリアには特に気にするような点はなかった。

 そんなマリアの様子を見て、ロンド伯爵は「話しかけてみますか?」と聞いてきた。

「不機嫌そうな顔をしていますが、地顔なだけなので根はいい人間ですよ」

 その言葉に押されるように、私は周りの男性たちに断りを入れ、彼のもとに向かった。

「はじめまして、私マリア・リィ・エリストンと申します。貴方様のお名前を教えていただいてもよろしいですか?」

 礼をして笑いかけるが、彼は一層不機嫌な顔になり、ぶっきらぼうに名前を告げた。

 私が次に口を開く前に周りの人たちが私を彼から隠すように引き離したが、家に帰った後も私は彼のことが気にかかって仕方がなかった。

 それから、私はロンド伯爵に彼のことを教えてもらい。ロンド伯爵の計らいで彼に何度か会い、言葉を交わすが、彼はいつもそっけない言葉だけで、すぐに姿を消してしまう。

 私は彼に会いたくて、彼の背中を追いかける。

 

 そうして何度か会ううちに彼は私が昔結婚すると思っていた男性にとてもよく似ていた事に気がついた。

 確かに彼は私より年上だけれど、自分の親よりは年下だし、強面だけれど、優しい目をしている。

不器用で、出世欲がないけれどそれでもずっと一緒に生きていけけたらいいと思えるくらい素敵な男性だ。

 マリアは結婚と恋愛を一緒に考えてい為に将来結婚すると思っていた男性像が、いつのまにか恋をする男性像に変わっていたことに気付いていなかった。

 その男性像に近いギルバートが気になり、ギルバートに会い少しずつ彼を知っていく内に理想の男性がそのままギルバートになっていったことを。

 

 彼のような人と恋に落ちたい。


 そう自覚したマリアの恋愛結婚への道のりは、ギルバートが振り向くまで続くことになる。




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