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game part1

夏休み中に終わらせるつもりが、ずいぶんと長くかかってしまいました……。

段々中二病からは離れてしまっていますが、これが最後ですのでどうぞお付き合いください。

 5人の男女が、ひとつの部屋に集まり膝を合わせて話し込んでいた。

 調和のとれたアンティークな家具には微細な傷もなく、磨かれた表面には真剣な表情をした5人の姿が映し出されている。

 天上には安価な蛍光灯などではなく、ダイヤモンドのように光を反射するシャンデリアがつりさげられている。手を伸ばしても届きそうにない位置にあるそのシャンデリアは、どこか遠くから光を放っているように思えた。

 透明なガラス机を囲むようにして置かれているソファーの座り心地は、気を抜いたら眠ってしまいそうなくらいだ。それくらいに神経は張り詰めていたし、おれたちは疲れ切っていたのだから。

「ゲームをしようじゃないか」

 その一言がすべての始まりだった。

 何も特別なことはない、強いていえば黒々とした雨雲が空を覆っていた日のことだ。

 おれは普通に学校から帰ってきて、何事もなく1日を終えるはずだった。――奇妙な男が、リビングで紅茶を飲みながらくつろいでいるなんてことがなければ。

 似合っているのか似合っていないのか、その男は黒いタキシードを着込んでいた。彼の服は彼の一部であるかのようにも見えたし、ちょっと角度を変えるとひどく異質なものであるようにも感じた。

 まるで目の錯覚を利用した騙し絵のようだ。

 かわるがわる違う図形が見えたと思えば、消えていく。

「誰だ、あんた?」

 おれはその人に尋ねる。

 首もとに据えられた赤い蝶ネクタイがいやに目立っていた。

「あまり気になさらないでください。私がだれであるか、などという些細なことよりも、私がなぜここにいるのかを考えてみてはいかがかね? 変装が得意なコソ泥とかではないことはたしかだがね」

 上手なウインク。

 日本人ではないのだろうが、西洋風の彫の深い顔立ちをしているのとは対照的に、流暢な日本語だった。本当にどこかの怪盗みたいだ。

 おれはもっていたカバンを床に置き、男の座っている庶民的なソファーを挟んだ場所に腰を下ろした。ここからだと相手の様子が手に取るようにわかるのだ。

 そうは言っても仮面をかぶっているかのような微笑を絶やさないので、あまり意味はないのかもしれないけど。喋っていなければ人形と勘違いしてしまいそう。

「空き巣かい?」

「紅茶は勝手に拝借したが、それ以外には何も盗っていない。不満があるなら後で英国産の最上級品を郵送しよう。君の家のは少々、味に深みがない」

「悪かったな、安物で」

「いやいや。君ならばこの程度の茶葉でも美味しく淹れることができるだろう。私もなかなかの腕前だと自負しているのだがね、何においても最上の才能をもつ新堂くんと比べるのは気が引ける。いかがかね、君も一杯」

「いただこうか」

 男は優雅な手つきでティーポットから紅茶を注ぐと、音も立てずおれの前に差し出した。洗練された一連の動作によどみはなく、いかにも手慣れているという感じだった。

 湯気を立てているカップはまるで別世界からやってきたかのように美しい。たしか食器棚に飾ってあったはずなのだが。

 フーフーと冷ましてから口をつける。

「……無粋ではないかね?」

「おれは猫舌なんだ。他人のことを考えて茶を出すのが日本の礼儀ってやつでね、郷に入っても従わないあんたのほうがよっぽど無粋だよ」

「……ふむ。東洋の美学というものか、興味深い」

 男はそれから、自分のことをピエールだと名乗った。いかにも胡散臭い名前だが、どうせ本名を知ったところで役に立たないのだから偽名でも同じことだ。

 何人なにじんか、という問いには答えない。代わりに紅茶を一口すするだけだった。

 勝手に他人の家に上がりこんでくつろいでいるような肝っ玉の座った相手だ。おれがどのようにはったりをかけたところでボロはださないだろう。それに今しがた気付いたことなのだが、ピエールは土足だった。幸いなことにフローリングには泥などの汚れはない。

 日本の文化に慣れていない。それくらいしか推理できることはなかった。

 それにしては上手すぎる日本語だし、土足であるほかにおかしい点もない。おれは考えるのを放棄した。

「それで? ミスター・ピエールは一体何の用があっておれの家にいるんだ? ややこしいことは抜きにしてさくっと要点だけ話してくれ」

「そういうご要望なら、そういたしましょう」

 そこだけ改まった態度で、ピエールが言った。

 タキシードの胸ポケットからおしゃれに彩られた手紙を取り出し、こほんと咳払いをする。

新堂瑞貴しんどうみずき様。このたびは突然の来訪、誠に申し訳ありません。どうしてもこの招待状は直接手渡したかったもので。――我々の目的はひとつ。あなた様を幻夢館にご招待することです」

「幻夢館?」

「はい。そして、これがその招待状となっております」

 そう言って渡された招待状は絹のような手触りで、すぐに高級なものだと見当がついた。封には赤いリボンが使われている。リボンの巻きつけられたボタンをはずすと、中から英語の筆記体で書かれた手紙が出てきた。

 簡潔にまとめられた文章は、王家からパーティーに招待されたようにも思えた。

「……まあ、つまり。幻夢館に来いということだな?」

「さようでございます」

「わかった」

 学校にはインフルエンザで休んでいるとでも連絡しておけば問題ないだろう。授業よりもずっと面白そうなことが待っているのだから、招かれない理由はない。平穏な日常など、時間の浪費でしかないのだ。

 おれがその手紙をしまおうとすると、

「大事に取っておいたほうがいい。これがなければたとえ館のすぐ前に来たとしても、入ることはできないのだから」

「本人だとしても?」

「はい」

 ピエールは銀に光る腕時計を見やると、そろそろお邪魔しようと言って席をたった。玄関の外まで見送ってやる義理もなく、おれは座ったまま憮然とした態度で頬づえをついている。

 ピエールはさして気を害した様子もなく、むしろ上機嫌で退室しようとしたが、何か忘れ物でもしたかのように振り返った。対面した時と同じ微笑を張り付けながら。

 そして、言った。

「ゲームをしようじゃないか」と。



 道路の幅いっぱいに存在感を示している、ダックスフンドのように胴長の黒いリムジンが現れたのは、またもや計ったように学校から帰ってきてすぐのことだった。

 塀との距離は人が1人やっと通れるくらいのものだ。

 おれは身をひねってようやく玄関までたどり着くと、招待されるべき服装を考えた。

 やはり学生の身であるから、制服で行くのが礼儀というものであろうか。それともジーンズにポロシャツといったカジュアルな服装でもいいのだろうか。

 正直なところ制服では行きたくない。機能性は悪いし、なにより個性がなくなってしまうからだ。おれは悩んだ末に、洋服箪笥から買ったばかりの洋服を取り出した。

「お待たせいたしました」

 待たせたのはこちらなのだが、運転手と思しき人が一礼をして重厚なリムジンのドアを開ける。

 革張りの座席は適度にクッションが利いていて、車内にはほのかに香水も香っているようだった。おれと、日本人の運転手の他にはだれも乗っていない。ずいぶんと贅沢な使い方だ。

「ここからどのくらいかかるんですか?」

 おれは後部座席から運転手に尋ねた。運転手は返事をよこす代わりに、車を発進させる。

 エンジン音さえ伝わらない。するすると流れていく外の景色はあっという間に高速道路の見晴らしの良いものへと変わり、心地よい上品な静寂の中で、瞼の重くなるまま素直に眠ったのだった。

「――到着いたしました」

 そう声がかかって目覚める頃には、ちょうど夕暮れが終わっていた。

 まだ明るさの残る闇がリムジンの周りをとりまく森を染めている。時計を見ると、7時を少しまわったところだった。ずいぶんと眠りこんでしまっていたらしい。

 車内に漂っていた香水に眠くなる成分か何かが含まれていたのだろう。

 もちろん、しきりでくくられた運転席にはその効果が届かないように。

「こちらでございます」

 運転手は何食わぬ顔をして、いくぶんか離れた場所にある洋館を示した。さびれた印象をうかがわせるレンガの色からして、どうやら最近作られたものではないらしい。つまり、おれを招くために作られたものではなく、もとからあったものだということだ。

 コンクリートではなく、砂利におおわれた駐車場には、おれが乗っていたリムジンのほかにも全く同じ型の車が4台、広い感覚をとって停められていた。

 いずれも無人だ。おれ以外にも幻夢館とやらに招待された人がいるのかもしれない。それはそれで面白そうだ。ゲームは1人でやっても面白くない。

 運転手に導かれるまま、数分ほど山道を歩いていく。そこにもコンクリートで舗装された道路などはなく、好き放題に枯葉や枝が散乱していた。ガードレールも設置されていない道のすぐ向こうは崖のように切り立っていて、もし足を踏み外したら発見されるかどうか怪しいものだ。

 クマやシカがどこから飛び出てきても不思議ではないくらい、自然がありのままの姿で残っているところをみると、だいぶ山奥につれてこられたらしい。

 秋には紅葉が山を彩り、さぞかしきれいなことだろう。

 電柱はあるものの、外灯は1本も立っていない。夜になったら懐中電灯があったとしても歩くのは危険だ。おれはそうならないことを祈りながら、5分ほどの道のりを歩いた。

 幻夢館は近づくほどにその存在感を増し、同時に不気味さも3割増しくらいになった。

 獅子をかたどった呼び鈴を鳴らすと、中から運転手と変わらぬ人形のような執事が出てきて、深々とお辞儀をした。コスプレでもしているかのように見事な白ひげと、片メガネが完璧な執事を演出している。彼が外国人なら、セバスチャンと呼ぶのがふさわしいだろう。

「ようこそいらっしゃいました。長旅でお疲れでしょう、さっそくお部屋にご案内いたします」

「ありがとうございます」

「では、こちらへ」

 後ろで外界と隔壁するには充分すぎる厚みの扉が閉まり、運転手は姿を消した。本当におれを運ぶためだけに雇われた人だった。この幻夢館と同じくらい、殺伐とした雰囲気を伴っている。なんというか、人間らしさがないのだ。

 豪華な内装はたしかに調和がとれていて、付け入る隙もないくらい完璧に整えられている。

 入り口の正面には例によってピエールらしき巨大な肖像画が飾られており、内装全体をにらみつけているみたい。さらにらせん状で、二股に分かれている階段の先は各部屋につながっているようだ。

 セバスチャンとおれは荷物も持たずに階段を上り、右手側にある部屋に入った。

 招待状には、必要最低限のものは向こうで用意すると記されていた。

 だからおれはなんの支度もせずにやってきたわけなのだが、手ぶらだと何かむなしいような気分になる。

 服を着ていないような、スースーするような感じ。

「何か御用や不都合がございましたら、こちらの呼び鈴を押していただければすぐにまいります。夕食はそちらにある時計で8時となっておりますので、その時刻になりましたら下にある食間までいらしてください。――あと」

 セバスチャンはウールのハンカチを取り出すと、おれの時計をよこすように指示した。

 おれは少しだけ抵抗をすることにする。

「そうしなければいけない理由でも?」

「主人はゲームをする際にフェアな状況でありたいと申しております。ですから、ゲームに関係のない物はなるべく預かるようにと」

「それで、そのゲームとやらはいつから始まるんだ? それまではもっていても問題ないだろう?」

「それはわかりかねます。ですが、主人のことづけですので」

「ピエール?」

「さようでございます」

 セバスチャンはそれから、こう付け加えた。

「そう言えば、主人は申しておりました。新堂さまがいらしたら、郷に入っては郷に従え、と伝えておくようにと」

 ピエールの得意げな顔が思い浮かぶ。

 これは一本とられたものだ。あの時の言葉があだになろうとは。

 仕方なくGショックの電波時計を預けると、セバスチャンは丁寧にハンカチでくるんで部屋を出ていった。

 純白のシーツの張られたベッドに腰掛けると、ふと家のふかふかのベッドが恋しくなった。遠くはなれた場所に来てしまうと、自分の巣が懐かしくなるのは生物の本能なのかもしれない。

 見知らぬ天井は雑菌すら許していないみたいに真っ白で、無機質だった。

「ゲームをしよう」

 こんな人里離れた山奥の洋館にまで招待したのだから、まさかWiiで遊ぼうなんていう魂胆ではあるまい。おれは負けたことないけど。

 もしかして非合法のカジノなんかが地下に隠されているんじゃないだろうか。

 あんまりギャンブルが好きなもんで、個人的に作ってしまったとか。でも、それだとおれを呼び寄せた理由があまりにも不可解だ。それにピエールは曲がりなりにも紳士であるようだった。彼がギャンブルにハマっているとは想像しにくい。

 世界を賭したゲームをしようなんてわけではないだろう。

 今の地球を征服するなんてことはまずアメリカの大統領が野放しにしてはおかないだろうし、新型の爆弾を開発したとか、凶悪なウイルスをばらまくとかも、映画の中だけで十分だ。

 核兵器をつかっても生き延びている人たちがいるのだ。

 そう簡単に地球は滅びないし滅ぼすようなものも作れない。スター・デストロイヤー。

 部屋はホテルのスイートルームそのまま、というわけではなくひとり暮らしには少々大きすぎるくらいのものだ。

 巨大なベッドには10人くらいを優に寝かせられそうだし、おれ1人だけが独占するのではもったいない。

 ニスのきいた木のテーブルの上には油絵のモチーフになりそうなフルーツバスケットが飾られている。あまり実用的なものではなさそうだ。部屋の中央にどっかりと腰を下ろした安楽イスは珍しかったが、しばらく揺られていてもいい考えは出てきそうになかった。

 そして、壁に埋め込まれたデジタル時計だけが異質さを放っている。

 アンティークな雰囲気で統一している部屋だというのに、デジタルの文字盤は生まれる時代を間違ってしまったかのように合っていない。鳩の置時計でもあれば完璧だっただろうに。

 それとも、この時計を置かざるを得ない理由があったのだろうか。デジタルにしなければいけなかった重大な理由が。

 ほかにも、この部屋にはトイレや洗面台、浴室などが完備されていて、食事さえあれば生活できるようになっている。

 窓から見えるのはどこまでも広がっている広葉樹の森。そのむこうには、かすむような山脈もある。

 おれは部屋のものをひととおり観察し終えると、デジタル時計の時間を確認した。

 19:55

 もうすぐ食事の時間だ。

 おれは赤いじゅうたんの敷き詰められた階段を下り、食堂へと向かった。


 リムジンのように長いテーブルには6人分の食事が並んでいる。

 主人が座る席にはピエールが相変わらず仮面のようなほほ笑みを浮かべてナイフとフォークを握っている。

 紅茶をいれたときのように優雅な手つきでレアに焼かれたサーロインステーキを食べているのに、美味しそうな様子を全く見せないのが、不気味だ。

「どうですかな、食事のほうは?」

「今まで食べたどんな食事よりもおいしい。とくにこのステーキにかかっているソースは最高ね。隠し味にお酢でも使っているのかしら」

 ピエールの隣に座っている女性がじつに楽しそうな表情でほめる。

 それが普通の人の反応だ。おれだって美味いものを食べれば幸せな顔になる。

「俺は近所にある700円くらいの大盛りラーメンのほうがいいな。こんな上品すぎる料理は、とてもじゃないが味が薄くて食べた気がしないもんでね」

 と、顎のとがった青年がケチをつけた。

 痩せた感じの青年に、こてこての脂っぽいラーメンは似合っていない。黒ぶちのメガネを曇らせながらフーフー言って麺をすすっているよりは、今みたいにフランス料理のコースを苦い表情をしながらもしっかり食べているほうが自然だ。

「そうこう言いながらも、ちゃんと完食しているじゃないですか。行動は正直ですよ」

 ナプキンで口を拭きながら、べつの若者が笑った。

 青年よりもうすこし若いくらいだ。いまどきの大学生のようにシャレこんでいるわけではなく、立っているだけでも感じられる気品を兼ねそなえていて、おまけに顔立ちもいいとくれば、どこかのお坊ちゃんなのだろう。

 しかし、甘やかされて育った人によくある自立できていない雰囲気はなく、むしろ頭がよく回りそうな印象を与えていた。

「うるさいな。出されたものは残さず食べるのがマナーってもんだろ」

「たしかにその通りですね」

 ふふ、とピエールとは違った微笑を口元に忍ばせ、若者もナイフを置いた。

 おれは残しておいたデザートの最後のひと口をほおばると、甘さの抑えられたその食感を気がすむまで味わい、不愉快なピエールの顔を忘れようとした。

「きみの舌は満足させられたようだな。足りないようならデザートのお代わりを持ってこさせようか」

 いやなところをついてくる。

 はい、と返事をしたいのは山々だったが、小馬鹿にされるのもくやしくて丁寧に断る。

「子供は子供らしく甘いものを欲しがっていればいいんだよ」

 八つ当たり気味に青年が大きすぎる声でつぶやいた。

 カルシウムが足りていないんじゃないだろうか。カップになみなみと注がれているダージリンの紅茶にはミルクをたっぷり入れたほうがいい。

 おれの悪態とは裏腹に、青年はストレートのまま紅茶を飲むと、今度はピエールに矛先を向けた。

「だいたいあんたも勝手に招待しておいて、携帯の電波も届かないような山奥につれてくるとはどういう魂胆だ。ゲームなんてものに興味はないが、家の前にリムジンなんて停められて居座られたら断りようもない。おまけに途中で眠らせる手の込みようだ」

 青年の言うとおりだった。

 どうやら単純な馬鹿ではなかったらしい。ピエールは何を基準におれたちを集めたのだろう、という疑問が鎌首をもたげた。

「携帯電話をつかわれると、外界と連絡することができてしまう。それではフェアなゲームにはならない。私はきみたちに公平な条件でゲームをしてもらいたいものでね、時計などを預かったのもそのためだ」

「それで? そのゲームとは具体的に何をするんですかね?」

 と、若者が問う。

「その答えは、もうすこし後の楽しみにしておこう。ほかに質問はないかね?」

「なら、ここにいるやつらの素性を教えてくれ。俺以外にも人が呼ばれているなんて聞いてないぞ」

 青年が噛みつくように言った。

「あたしだって聞いてないわよ」

 と、女性が応じる。

「自己紹介なら、きみたちで勝手にやってくれたまえ。私もきみたちの個人データは把握しているが、赤の他人からプライベートなことを明かされても気分がよくあるまい。……あえてウソをつく、ということも出来るしな」

「そんなことする必要があるのかよ!」

 青年の言葉を無視して、ピエールは自分の腕時計を確認した。招待客には時計を外させておいて、自分だけ時計をつけているとは。

「――そろそろ答えが出る頃だろう。きみたちのうちに、誰か体調が悪くなった者はいないかね?」

 ガタン、とイスを蹴って立ち上がる音がして、残った最後の1人が口と腹を手でおさえながらすごい勢いで飛び出していった。

 今までひと言も発していなかった彼がとった突然の行動に、誰もが唖然としていた。

 彼に何が起こったというのだろう。まるで死にそうな顔色だった。

 しばらくの静寂の後、若者がおずおずと尋ねる。

「食事に……なにか混ぜたんですね?」

「その通り。だが、安心したまえ。残ったきみたちの分にはなにも混入させてはいない。厨房にあった料理にすこし下剤を混ぜた程度だ、ひと晩もたてば効果はなくなる。厨房にあった料理のひとつに私が適当に薬を入れただけだから、彼はじつに不運だったと言わざるをえないがね」

「なにが目的でこんなことを……」

「最初から言っているだろう。ゲームをするためだ。このゲームに真剣に取り組んでもらうためのデモンストレーションだよ」

「だから、なんのゲームなんだよ!」

 と青年がヒステリックに叫ぶ。口元を不自然にゆがめたまま、ピエールは静かに宣言した。

「探偵ゲームだよ」

続きます。

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