勇者ピーマン、ヒーラー人参、老師たけのこ、暗黒騎士玉ねぎ、魔法使いパイナップルの最強パーティーで伝説の魔王を討伐してきます(中)
これまで幾度となくパーティーを組み、ともに戦ってきた面々。
今回の魔王討伐では各々に思惑があるようで……
9月×日 11:49
俺たちパーティー一行を乗せたあしずり3号は重厚なエンジン音を轟かせながら動き始めた。
俺から見たボックス席の正面、窓側席には人参。その隣には老師たけのこ。
人参は流れていく車窓の景色ひとつひとつに目を見張っている。老師は懐から取り出した矢鱈と分厚い書物を読んでいる。
俺の隣で何やらスマホをいじっていた暗黒玉ねぎが丸い体で俺を小突く。そしてスマホを押し付けてきた。
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《㊙ 今回の魔王討伐における注意事項》
1.ピーマン・人参・たけのこ・玉ねぎ・パイナップルに討伐を依頼するものとする。尚、このメンバーのうち、一人でも欠けたる場合には今回の作戦は即刻延期と決定する。
2.ダンジョン最奥部、暖かい寝床と滋養豊かな食事、近親者からの愛情を受けながら魔王となりしが、己の意志を強く持ち日々鍛錬に励んでいる。油断するべからず。
3.万に一つ、離脱するものがあった場合、連帯責任として残るメンバーも即刻処分の対象となる。
4.対象ダンジョンは自然も人情も豊かである。よって現地の環境や市井のものには危害を与うべからず。
5,魔王には未だ知られざる多数の能力が潜んでいるものと推測される。武力・魔力・知力・権謀術数、等々、如何なる方面からの攻撃にも常に用心するべし。
6.最寄り駅はK駅から徒歩・約二時間。かかる交通費に関してと食糧費300円は当ギルドで負担するので領収書は後日、速やかに経理部へ提出すること。
以上、諸君の健闘を祈る。
令和七年八月二十日
四国包括ギルド 経営人事企画部
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(こんな事務連絡、俺は知らなかったぞ、お前はどこでこんなものを……)
小声で呟いたのと同時に、俺の手に握られたままのスマホをひったくるように自分の手元に戻した玉ねぎが言う。
『そうか、君にはこのメールは届いてなかったんだね。これは今回の討伐に参加するメンバー全てに届いているあしずりと思っていたのだがね』
読書をする無口な老師、その横で『うわ~!仁淀川、広い!!』と心の声がだだ漏れのヒーラー、通路を挟んだ隣の座席で何時の間に買い込んだのか茗荷や蒟蒻、椎茸が具材に使われた色とりどりの寿司を美味しそうに次々と頬張る勇者。残るはたけのこが載った握り寿司。それすらも勇者ピーマンは躊躇なく口の中へ放り込んで咀嚼していた。
(おい、すぐ目の前に老師がいらっしゃるのに何の遠慮もないのか)
そんなテカ助ピーマンが勇者、か…彼に対して少し軽蔑を覚えつつ窓ガラスに目を向けると、俺を嘲笑うような暗黒玉ねぎの糸目が映っていた。
特急形気動車に揺られること一時間。いくつかの停車駅を過ぎ、俺たちはK駅に降り立った。
改札口には”歓迎・魔王討伐パーティーご一行様”という横断幕が掲げられ、その外に出るとK駅周辺の住民とおぼしき者たちが一様に笑みを浮かべながら迎えてくれた。芳香を辺りに漂わせながらはんなりと首を傾げる丸太、彼女は檜だろうか。揃いの法被をきて鳴子を打ち鳴らし踊っているのはどうやらアユの群れだ。そのアユの連中の足元で紅白の鉢巻きをした米粒たちも一緒に踊っていた。
津々浦々のダンジョンを制覇してきた俺たちだったが、ここまで熱烈な歓迎を受けたのは初めてだった。眼前に繰り広げられる歓喜に満ちた住民たちの表情をみるに、俺たちは今回の討伐を相当に期待されているらしい。身の引き締まる思いがした。
『ねえねえ!この近くに美味しいシュークリームの店があるんだって♡行ってみようよ!』
人参が俺の冠芽の端を引っ張る。痛い、痛いって。内心ではそう思っていたが、ここではこのパーティーの威厳を損なうことのないよう平静な表情を取り繕いつつ、
『ああ、この戦いが終わったら幾らでも食べさせてやるよ、な?』
と人参を宥めようとしていた…と、そこにテカ助勇者の声。
『シュークリーム、うまそう。実は僕もブックマークしておいた店だったんだー!行こう行こう』
こいつは何をいっていやがる。ってかお前は勇者だろう。さっきから食ってばかりだったじゃねえか。状況をわきまえろ――またもや完熟になりそうだった俺に老師がそっと告げた。今までの歴戦で経験されたであろう出会い、苦難、別離、結んだ絆、それらを思い出すかのような優しい声で。
『いいじゃないか。その土地の味を知ってこそ、本当の戦いができるというものじゃよ』
老師の眼には愛が溢れていた。
暗黒騎士である玉ねぎもこの時は何かを察したらしく、いつもの卑屈な笑いとは違い真剣な顔をしていた。
おそらく老師たけのこと暗黒玉ねぎは何らかの共通の思いで通じ合ったのだろう。
そして勇者ピーマンとヒーラー人参、共に無意識のうちにβ-カロテンの秘儀を持つ者として惹かれあっている、それには俺などが介入できる余地など一切ないのだろう。
君は野菜ではない――暗黒玉ねぎの言葉が蘇る。
人参が常に老師を控えめにチラ見していた瞳――何も考えていないように無心に駅弁をかき込んでいたピーマン――好々爺のごとく全員を見渡しているたけのこ。――そして俺だけには届いていないであろう事務連絡。
俺が最初にギルドの奴らが集まるという酒場へ行った時のことを振り返る。父、兄、妹が収穫され、そこからはふたり懸命に共に生きていた母がついに収穫を迎えたあの日。母は摘み取られて若干小さく見える冠芽で包んだメモを震えながら渡してくれた。
『ここに書かれている場所を訪ねなさい。良い?きっとこの場所ではあなたの役割があるはずだから、鳳梨……』
栄養を断ち切られて青白くなった表情の母は、ゆっくりと瞳を閉じた。
『か、かあ、かあっさん!!!!!!!!!』
あの日ほど泣いた日はいままでなかった。そしてこれからもないだろう。あの日、俺が流した涙はパイナップルジュースへと加工され、市場に流通した。
今回もご覧いただいた奇特な方がおられましたら、ありがとうございます。
個々の登場人物に思い入れながら執筆をしていると存外に長くなっておりますが、何卒お付き合いくださると嬉しいです。




