ROUND 03 : 黒猫
ROUND 03 : 黒猫
「今日転校してきた猫村マイカでーす」
転校生の自己紹介を聞き、クラス中がざわついた。
猫村マイカといえばつい先日行われたリトルヒーローズカップの西東京大会の優勝者だ。
ただ、ミオ・エル・ストラトスだけは他のクラスメートとは違う事を考えた。
また面倒な奴が来た、と。
放課後、ミオとマイカは2人だけで歩いていた。
ミオの父親はTV局で番組の監督をしており、マイカの父親はその撮影チームのカメラマンだ。
「いやいや、思った以上の人気で嬉しいよアタシは」
「それで、その人気者が何の用?」
ミオは不機嫌そうだが、マイカはそんなミオの様子に気付いていながらまるで気にしていないようだ。
「んー……流石は愛しのミオっち。
普段の眼鏡が無くても美人じゃん。
髪も結んでなくても可愛いねぇ」
「こっちが普段よ。
言っとくけど、私は色々と隠してるから余計な事は言わないでよね」
「おっと、そこはミオっちのブランド価値に関わる問題だから気を付けるよ」
マイカは自分のペースを崩さない。
「ところでさ、烏丸ツバサが野良試合で負けたんだってね。
何か知ってる?」
「……クラスに工藤ケンイチっていたでしょ。
ナナミさんの弟で、ナナミさんの試作機を使ってた」
ミオの答えにマイカは驚いた。
「えー!アタシに食い付いて来なかった奴じゃん!
アイツなんかロボ好きじゃ無さそうじゃん!」
「ナナミさんの弟だし」
「OK、ナナミさんがウザいからか」
しかしマイカはすぐに納得した。
「でもさー、ミオっちとサキちゃんが同じクラスで、おまけにナナミさんの弟がいて烏丸ツバサに勝ったのがそいつって……ちょっと話が出来すぎじゃない?」
「そのうちもっと出来すぎた話になるかもね……私は勘弁してほしいけど」
ミオはため息を吐く。
「じゃ、私はこのまま帰るから。
烏丸ツバサはいるかわからないけど、その他大勢は津田沼のミヤノ本社ビルにいるから行ってみたら?」
「情報助かる!
じゃ、また明日!」
マイカは近くのバス停へと走っていった。
「で、アタシが来たって訳」
ミヤノ本社ビルのホールでマイカはチーム・ブラックウィングのメンバーと対峙していた。
「つまり、だ……次の日曜に幕張で公開収録があるから来れる奴は来い、ただし俺達は来るな、って?」
犬飼はマイカの話を繰り返す。
「ん、大人しくギャラリーしててくれるなら来てもいいってパパが言ってた。
あくまでもアタシが主役だから、乱入はお断りだって。
でも大人しくなんて無理でしょ、貴方達」
マイカはそう断言する。
周りで見ていた無関係の少年達も口にはしないが同意見だ。
実際にはこのように煽ってチーム・ブラックウィングを収録現場に引きずり出すつもりであり、手応えを感じたマイカは話を変えた。
「でもその話はどうでもよくてさ……この間の西東京大会、チーム・ブラックウィングのトップメンバーは誰も来なかったよね。
地方組はともかくさ、氷室さんもツバサさんも。
アタシ、特に貴方とやってみたいんだよね」
「ああ、やる気なら付き合ってやるよ」
マイカと犬飼は互いに自身の黒いロボットを取り出す。
マイカのロボットは猫のような大きな耳のついた頭部に、レールとスプリングの露出した3本爪の巨大な腕が目を引いた。
「まん中のリングでやろうか……みんな!見学は自由だよ!」
マイカは少年達に声をかけ、ホールに3つあるうちのまん中のリング際に立つ。
近くの学校から集まった少年達は少し距離を取りつつもリングの周りに近付いてきた。
「日本ランキング20位の犬飼ケンジと、西東京大会優勝の猫村マイカ……日本大会レベルなんじゃないのかこれ……」
そう口にしたのはシュウだ。
「あと、もう少しリングから離れようか……」
「いい判断だ。
怪我したくなかったらあと1メートルは離れろ」
犬飼の言葉にギャラリーの少年達は少し下がる。
「こいつ、俺達より行儀が悪いからな」
「よく知ってるじゃん……可愛いだけじゃないんだね」
マイカも犬飼もリングにロボットを置く。
そして両者の手が離れた瞬間、試合開始の合図を待たずに双方のロボットが同時に走り出した。
そしてお互い全く同時に腕を突き出し、リング中央付近で激突する。
犬飼のアヌビスのブレードをマイカのケット・シーは3本の爪で受け止める形になり、そのまま押し合った。
「そのサイズで重量級かよ!」
犬飼はケット・シーとの重量差を見抜く。
「流石、よく見てるね……おまけに、軽いしパワーも無いのに押し込みが上手い」
マイカもまたアヌビスの強味をよく見ている。
「私も見習わないと……ねぇ!」
ケット・シーがアヌビスを押し込み始め、アヌビスはケット・シーの爪を振り払って横に逃れる。
「判断早いじゃん!」
マイカが称賛する。
そのままケット・シーの背中を狙うアヌビスだったが、ケット・シーは防御を間に合わせアヌビスを弾き返した。
更にケット・シーは腕を長く伸ばし、遠距離から一方的に攻撃する。
アヌビスは2枚並んだブレードの隙間で爪を受けて器用にケット・シーの腕を絡め取ったが、ケット・シーは伸ばした腕を戻す勢いを乗せた突きでアヌビスを強引に引き剥がした。
「守りが上手いね!」
アヌビスは空いていた右腕のブレードでケット・シーの突きを防いでいた。
「下手だったらここにいねえよ!」
弾かれた勢いで距離を取ったアヌビスへと犬飼が叫んだ。
「ハウンドファング!」
その声に反応したアヌビスは前進しながら前傾し、大きな口を開く──筈だった。
その突撃に合わせてカウンターの一撃を狙ったケット・シーの爪が宙を掴み、完全な突撃体勢に入る前に起き上がったアヌビスがケット・シーの胸を突く。
重量級の金属フレームは貫通しなかったが、アヌビスのブレードがケット・シーの胸に僅かな傷をつけた。
ケット・シーは弾き飛ばされるがリングフェンスまで届かないうちに止まった。
「野良試合で胴体ぶち抜こうとするの!?」
マイカはわざとらしく犬飼を非難する。
しかし犬飼は動じない。
「ハッ、お前も頭潰すつもりだっただろ!」
犬飼はアヌビスを止め、距離を保ったまま様子を見ている。
対するマイカもケット・シーの伸びる腕がギリギリ届かない距離から無理に踏み込もうとはしない。
「いや、本当に上手いよ……流石は上位ランカーの1人」
「東京でもっと上の連中にも勝っておいて何言ってんだよ」
互いに相手の出方を伺いながら二人は言葉を交わす。
「確かにみんな強かったよ……でも、そんなに強くないロボットでこんなに戦いが上手い人は滅多にいないよ」
「扱いやすさ重視のセッティングだからな」
犬飼は話しながらアヌビスを前進させた。
そのごく自然な動きにマイカの反応が一瞬遅れる。
しかし遅れたと判断したマイカはケット・シーの腕を伸ばさず至近距離での迎撃の構えを取る。
一方で犬飼は伸びる腕による攻撃を警戒しアヌビスの軌道を横へと逸らしてしまった。
一転してアヌビスがタイミングを外したその瞬間にケット・シーは構えたまま突撃する。
「丁寧すぎるんだよね!」
ケット・シーの重い腕の一撃がアヌビスを真横から崩しにかかった。
「やっべ──」
バランスを崩したアヌビスをケット・シーは更に追撃してリング際まで弾き飛ばし、最後にだめ押しの一撃でリングアウトさせてしまった。
3回連続攻撃のダメージポイントとリングアウト・ペナルティの合計が10点となり、マイカの勝利が決定する。
「はい、私の勝ち」
マイカは愉快そうに笑った。
日曜日、幕張。
「この収録は俺達チーム・ブラックウィングが乗っ取った!」
野外で行われていたTV番組の収録に、やはり犬飼達は乗り込んできた。
「また来たな!チーム・ブラックウィング!」
予定には無いが予想通りの乱入者に、カメラマンの猫村は台本通りの台詞を叫ぶ。
「今日こそは許さんぞ!」
監督のテオ・ストラトスもまた台本通りの台詞を叫び、市販機そのままの自身のロボットを取り出した。
すぐさま収録現場で乱戦が始まった。
収録チームはマイカとテオを含む数人なのに対し、チーム・ブラックウィングも犬飼を先頭に人数だけは揃えてコントローラーを手にする。
ギャラリーの少年達は突然の騒乱に歓声を挙げ、野次を飛ばした。
その騒ぎを少し離れたところで見ていたケンイチの隣にツバサがやってきた。
「やっぱり、少し離れてるんだね」
「皆についてきてるだけなんで」
ツバサの問いにケンイチはそう答え、問いを返す。
「ツバサさんは参加しないんですか」
「……俺も似たようなもんだからね」
ツバサもそう答える。
「俺をリーダーって呼んでるけど、メンバーを集めたのは犬飼なんだよ」
その犬飼は監督のロボットと戦っている。
「勝つ為にって色々とやり過ぎて孤立してた俺や氷室さんの為に悪ガキ集団を集めてくれたし、わかりやすい"悪役"として振る舞ってくれるおかげで人気も出た。
……あいつがいなかったら今ほど余裕は無かったよ」
「色々とあったんですね」
ケンイチはあまり関心が無さそうだった。
「俺にはそういうの何も無いんですけど、今日も状況次第では出ろって言われてるんですよ」
「あのナナミさんが身内だと大変だろうね……」
ツバサは考える。
先日戦ったケンイチの反応速度や操縦技術は興味が無い人間のものではない。
あの扱いづらい高性能機の動作についていけたのだ。
それにケンイチはツバサをよく知っていた。
本当は興味があってかなり試合も見ているが自分が戦うつもりは無い、そういうところだろうか。
ギャラリーの歓声が飛ぶ中、収録現場の近くに1台の車が止まった。
その車から降りてきたのはスキンヘッドの大男で、黒いロングコートにサングラスと見るからに怪しい姿だ。
「……なんか変な人が来たな」
番組スタッフの1人がそれに気付いた。
大男は収録現場に近付いてくる。
「あ、ちょっと声かけてきます」
別のスタッフが大男に駆け寄った。
「すみません、今ちょっと収録中で──」
突然、そのスタッフが後方へ倒れた。
その異常事態に他の番組スタッフ達が気付く。
「園田ァ!」
鮮血が飛び散る中、そのスタッフの名を呼ぶ声が響いた。
登場機体紹介
ケット・シー
操縦者 : 猫村マイカ
ベース機体 : アクセルギア・アドバンスド
クラス : ヴァンガードクラス
パワー : 18
スピード : 4
レスポンス : 7
モーション : 3
ウェイト : 20
リーチ : 12
バランス : 3
備考 : 凶器使用あり




