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ROUND 02 : ワタリガラス

ROUND 02 : ワタリガラス




「4年前の今日、東京で小学生の行方不明事件がありました」

帰り際、担任がクラス全員の前で話す。

「富士見野サクラさん……当時は小学4年生。

皆さんも帰りには気をつけてください。

知らない場所に行かない、知らない人についていかない……それから、出来るだけ1人にならない。

津田沼のミヤノ本社に行ってる人もいるみたいですけど、必ず全員で帰るように」



その日もケンイチ達がミヤノ本社のホールに着いた時には既にチーム・ブラックウイングのメンバーがリング際に荷物を広げていた。

しかしいつもと違うのは、彼らが一番奥のリングの周囲だけに集まっている事だ。


「はあ!?昨日MIOに負けたから端に避けた!?」

一番驚いていたのはサキだ。

「あの子は関係無いでしょ!?」

「ああ、関係無いからまだ出てはいかない」

少年の1人が答える。

「でもあの流れで負けてそのままは無いだろ?」

「……張り合いが無いわね!」

サキはそのままホールから立ち去った。

「……宮野あいつ、何がしたいんだ?」

ケンイチ達はサキの背を見送り、ホールに入った。

その瞬間には彼らの意識はホール内の練習用リングに向く。

「それより、今日はリング使えるぞ!」

「よし!今日こそ勝ってやる!」

ケンイチを置いて友人達はリングに駆け寄る。

「やっと買えたビクトリー・ヴァンガード!

シュウ!お前のアスラ・ワンの連勝記録を止めてやる!」

名指しされたシュウは市販キットの腕を延長しただけのロボットを取り出した。

「スペックの差くらい操縦で埋めてやるよ!」

そう盛り上がる友人達から離れ、ケンイチは壁際のベンチに腰かけた。

「隣、失礼するよ」

そのケンイチの隣に年上の少年が腰かける。

「君はやらないの?」

「あ、俺はついてきてるだけなんで」

少年の問いにケンイチは静かに答えた。

「それより、リング空けてくれてありがとうございます。

大会前の調整、大人数だとリングひとつじゃ大変ですよね」

「確かに大変だね……でも、昨日は色々とあったって聞いたし」

そう答え、少年は問う。

「昨日来てたMIOって子、君達の友達?」

「……違いますね」

ケンイチの答えに少年は残念そうな様子だった。

「困ったね……その子に呼ばれたのに時間がわからないんだよ。

友達だったら何か聞いてるかなって思ったんだけど……まあ、仕方がないか」

少年はすぐに次の質問をした。

「もうひとつ、工藤ナナミって人の弟さんはいる?」

「その話ですけど、俺も烏丸ツバサって人に会うよう言われてるんですよ」

ケンイチは続ける。

「姉貴……その工藤ナナミから、試作機のテストを烏丸ツバサとしてこいって言われてまして」

「その相手をしろってナナミさんから頼まれてるんだよね。

ちょうどリングに空きがあるし、早めに済ませようか」

少年は──ツバサは立ち上がり、ホールに3つあるうち中央のリングの向こう側へと歩いていく。

ケンイチも遅れて立ち上がるとリングの手前で立ち止まった。

「日本ランキング2位、烏丸ツバサ……使用機体はレイヴン。

初心者の俺の相手に貴方を指名するなんて、姉貴はよっぽど強気みたいですね」

ケンイチは姉から預かってきたロボットをリングに置く。

それはパッと見では市販キットそのままにしか見えない四角い頭と腕のロボットだ。

ただ、四角い関節ユニットから円筒形のモーターがはみ出している。

「なるほどね……試作機とはいってもナナミさんらしい仕上がりだ」

ツバサは自身の黒いロボット──レイヴンをリングに置いた。

両腕には鋭い爪があり、背中には羽のついた大型のバックパックを背負っている。

「本気でやっていいって聞いてるけど」

「持ち主がそう言うならいいんじゃないですか?」

ケンイチはコントローラーを右手で持つ。

「基本的なルールくらいしか知らないんで、細かいジャッジは任せます」

「そこは公正にやらせてもらうよ」

ツバサもコントローラーを手にした。


「よし、今日も調子良いぞ!」

3連勝した愛機を回収したシュウは、隣のリングの様子に気付いた。

『3、2、1……』

「あれ、ケンイチ……何で──」

そして叫んだ。

「待て!その人はヤバい!」

『FIGHT!』

シュウの制止は間に合わず、試合開始の合図と同時にツバサのレイヴンが飛んだ。

それは背中のユニットが生み出した風圧により一瞬でリングの端から端へと跳躍し、上空からケンイチのロボットへと爪を突き立てる。

ケンイチは横へと跳ぶが、左肩のフレームが抉れ左腕が宙に舞った。

「外したか」

ツバサはレイヴンにリング際のフェンスを蹴らせてリングアウトを防ぐ。

「当たってますよ」

ケンイチはすぐにツバサのレイヴンから距離を取るが、レイヴンは即座にその距離を詰めた。

「いや、外したよ」

レイヴンの2度目の攻撃はケンイチのロボットの四角い頭部に切り傷をつける。

更に矢継ぎ早に繰り出された攻撃は、ケンイチが残った右腕で器用に爪の側面を弾いて軌道を逸らした。

「3回とも首を狙った」

ツバサは冷静に状況を見極める。

(3回で慣れたな……)

レイヴンは一旦後方へ跳び、加速をつけて飛び出そうとする。

その瞬間に今度はケンイチが踏み込み、右腕をレイヴンの胴体に叩き付けた。

レイヴンのダメージセンサーの信号を受け取りケンイチのコントローラーのLEDが3つ点灯する。

軽量なレイヴンは吹き飛ぶが、リング際で何とか留まった。

「何てパワー──」

ツバサはすぐにレイヴンを横へと跳ばし、迷わず突っ込んできたケンイチの一撃をかわし──いや、かわしきれなかった。

僅かに掠めただけだったがレイヴンは大きく回転する。

だがレイヴンの爪が引っかかり、ケンイチのロボットは右腕を失った。

更にレイヴンは至近距離から最高速で爪を突き出す。

その一撃は、胴体のネジの頭に直撃し防がれた。

(偶然じゃない!)

ツバサは直感する。

機体スペックよりも、初心者だという筈のケンイチの反応速度と操縦精度が驚異だ。

ケンイチのロボットはツバサの攻撃で吹き飛ばされた速度でフェンスにぶつかるが、片足のローラーを回転させながらフェンスに押し付け更に加速してリング際を走る。

1秒もせずにリングを一周してきたケンイチのロボットはフェンスを蹴って軌道を変え、レイヴンの背中を蹴り飛ばした。

今度はレイヴンが吹き飛ばされるが、フェンス際で何とか留まる。

ツバサはケンイチが蹴り技で片足立ちになった不安定な瞬間を見逃さなかった。

レイヴンは背面のユニットから突風をリングに吹き付け、最高速で飛び上がった。

しかしケンイチは不安定な姿勢からもタイミングを合わせ自分のロボットを回転させながら跳躍させる。

レイヴンの攻撃は外れ、逆にその頭部を真上から蹴られリングに叩き付けられてしまった。

レイヴンはリングを滑りながらフェンスに激突し、その衝撃でフェンスから飛び出す。

「リングアウト・ペナルティで3点……これで10点先取」

ケンイチは静かに告げた。

「俺の勝ちですね。

対戦ありがとうございました」



ホールから出てきたツバサを出迎えたのはMIOだった。

「日本ランキング2位が負けるなんてね」

「見てたんだね」

MIOの言葉にツバサは返した。

「久しぶりだね、MIO」

「ええ、久しぶり……2年前の日本大会以来かしら」

「懐かしいね……君に惨敗して、そのおかげで強くなれた。

たくさん負けたし、それ以上に勝ってきた。

でも、今日するのはそんな話じゃないんでしょ?」

ツバサは歩きながら話す。

MIOもツバサの隣についてきた。

「……大会運営からネロ氏が抜け、宣戦布告してきたわ」

その言葉の意味する事をツバサはすぐに理解した。

「ああ、じゃあ確かに直接話した方が安全だね。

ハッキングされたら情報が筒抜けになる」

非常階段に続く廊下でやっとツバサは立ち止まった。

「ネロ・クロノワール・ブラック……天才だが、アレは爆弾だ。

本業は軍用ロボットの開発だっけ?」

「そう、最近はそれを更に大会レギュレーションに合わせてきたわ……消費電力が大きくてバッテリー容量が足りない事だけが問題だけど」

MIOはツバサの正面に立った。

「でもリング外なら関係無い。

傍目には大会参加機と見分けがつかないロボットが人を殺傷できてしまう」

「そいつは困ったね。

俺達なんて真っ先に非難されるだろ」

「だから伝えに来たの」

MIOは告げる。

「凶器の使用、機体の破壊……大会ルール違反ではないとはいえ、印象は最悪。

今後のネロ氏の動向によっては貴方達にも何かしらの指導があるかもしれないわ」

「忠告、感謝するよ。

ただ、宣戦布告までしてきたんだろ?」

ツバサは自らの考えを口にする。

「だったら、ネロ氏は大会参加機に喧嘩を売ってくる……それも、とびきり派手な戦いができる奴を狙って。

そうなると狙いは俺達なんじゃないかな」

「……その可能性は大会運営も考えている。

ただ、まだ確証は無い」

MIOもツバサの考えを否定しなかった。

「世界大会の切符は18の都市大会の上位3人ずつと推薦選手10人……その都市大会は今度の日本大会が今シーズンの最後。

その出場も推薦があるとはいえ、確実に出場するなら残り3回の地区大会……いえ、関係者大会を除けば2回。

当然、出るんでしょ?」

「当然出るよ。

こっちのチームで出場が決まってるのはまだ3人だけ。

俺と犬飼は残り2大会の4枠を狙っているからね」

ツバサはMIOが大会の話題を振ってきた理由を察する。

「ネロ氏がその2大会を狙ってくるって?」

「あくまでも本命は世界大会だとしても、事前に何かしらの動きがあってもおかしくないわ。

この話、誰と共有するかは任せ──」

「あ、いたいた。

ツバサ、そろそろ帰るぞ」

ツバサを探してきた犬飼の声でMIOは話を中断する。

「お前も、そろそろ未成年は帰る時間だからな?」

「……大事な話は全て伝えたわ。

じゃ、また会いましょう」

MIOは階段の方へと歩いていった。

「……犬飼、今度の大会はどう見る?」

ツバサの問いに犬飼は考える。

「えーと、このタイミングで声かけてきたって事はMIOも川崎大会には出るんだよな。

それにさっきのガキ……」

「ああ、ナナミさんの弟だよ。

機体もナナミさんの試作機……日本大会に向けて仕上がったヤツを投入してくる。

でもどちらも……」

「どっちも1人なら、稲城のタッグマッチは貰ったな」

犬飼にもツバサの意図は伝わった。


2VS2のタッグマッチで、確実に優勝する。




登場機体紹介


レイヴン

操縦者 : 烏丸ツバサ

ベース機体 : ソニックギア・スタンダード

クラス : ハイエンドクラス

パワー : 3

スピード : 37

レスポンス : 24

モーション : 16

ウェイト : 3

リーチ : 1

バランス : 3

備考 : 凶器使用あり


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