卒業パーティーの後で
「はぁ、なんとか終わったな……」
「無事とは言えないけどな」
お互い苦笑いしながら講堂の後片付けをしている。
「いきなり王太子が婚約破棄を宣言した時は殴りかかってやろうか、と思ったよ」
「あぁ~、それな。 今日まで俺達がどれだけ準備をしていたのか」
「リハーサルも何回も繰り返してさぁ……、快く送り出したい、ていう在校生の気持ちを踏みにじりやがって……」
友人が思い出したのか不快な表情をしている。
今日は貴族学院の卒業パーティーで俺達在校生はこの1ヶ月間準備をしていた。
食事とか段取りとかダンスの時の音楽とか生徒主催で行われる卒業パーティーは言ってみれば社交のデビュー戦みたいなものだ。
成功すれば実績になるけど失敗すれば不名誉になり将来に影響が出る。
トラブルだって予測すれば対策はできる、しかし今回起こった王太子殿下による婚約破棄宣言は予測していなかった。
これが王族以外の貴族がやらかしたのならば俺達卒業パーティー運営委員会も教師に報告に言ったりとかの対策は出来ただろう。
でも相手は王族である、逆らえる事なんて出来ないし口出しなんてもっての外だ。
「……しかし公爵令嬢は冷静に対応していたよな」
「あぁ、隙がない、てああいう事を言うんだな。 言いがかりに一つ一つ反論していたししっかりと周囲を味方にしていたよな」
「しかも、その後に王太子の弟君が王太子を断罪して……、あれは拍手もんだったよ」
「でもさタイミングが良すぎないか? もしかして事前に把握していたんじゃないか?」
「……確かに、知っていたなら事前に止めてもらいたかったよ」
「結局、俺達裏方の気持ちなんてわかってないからこういう事が出来るんだよ。 考えていたらやんない、て」
「だよなぁ……、まぁ乱闘にならないだけマシだったか」
ため息を吐きながら俺達は後片付けをせっせとしていく。
「おつかれ〜、今日頑張ったお前らに差し入れだ」
そこへ生徒会顧問の先生が箱を持ってやって来た。
「これ、公爵家からの差し入れな、『せっかく準備をしてくれていたのに台無しにしてしまって申し訳無い』と」
おぉ~、という歓声が沸く。
箱の中身はぶどうの炭酸水だ。
「はぁ〜、美味い!」
「流石は公爵様、わかってる!」
俺達は公爵に対して賛辞を送った、我ながら何とも単純だ。
「そういえば先生、公爵令嬢はやっぱり弟王子とくっつくんですかね?」
「いや、そうはならんだろう」
「え? なんでですか?」
「公爵家は王家とは距離を置きたがっているし、なんなら王太子との婚約も渋々決まった事だからな、今回の事で『ほれ見たことか』と王家に対する不信感を増しただろうな」
「でも弟王子は助けたじゃないですか」
「弟王子は公爵令嬢を狙っていたみたいだな、今回の婚約破棄も実は弟王子が仕組んでいたみたいだ」
「うわ、マジか……」
「だから公爵令嬢が弟王子とくっつく事は絶対に無いし多分これから国内はゴタゴタするだろう。 お前らも誰につくか考えておいた方が良いぞ〜」
顧問の言った通り、公爵家は王家のゴタゴタを糾弾し王家は求心力を低下する事になり王太子、並びに弟王子は盛大なお叱りを受け辺境に送られたそうだ。
公爵令嬢は隣国の王家に嫁いだそうで公爵家は出ていくんじゃないか、という噂だ。