【本編】第2話:夜に咲く花を探して
『咎の上に咲く花』
この物語は、「罪とは」「赦しとは」「記録とは何か」を問う、
恋愛×ファンタジー×構造ミステリ。
乙女ゲーム形式のマルチルート構成で、
主人公は6人の登場人物と出会い、
それぞれの“咎”と“記録”に向き合っていきます。
最後には、全ての真実が収束する“構造の中枢”に至ります。
※本作はノベルゲーム企画をベースに、小説形式で公開中。
初公開は【詩人グラヴィオ】ルートです。
(……どこ?)
人の波をすり抜けるようにして、私は、仮面の男を探していた。
煌めく仮面たちのあいだを、目を凝らして、追う。
けれど、ふいに足が止まった。
(……なに、やってるの?)
はっと胸を押さえる。
修道院から派遣された、記録官見習い。
舞踏会の空気と文化を、静かに書き留めるために来たのに。
(ただ、追いかけるなんて……)
指先が、わずかに震えた。
それでも、胸の奥に、あの言葉が刺さったままだった。
──夜の花は、摘まれずに、咲くものだ。
忘れたふりをしても、胸のどこかが、ざわめきを止めなかった。
(……ほんの少しだけ)
自分に言い訳をしながら、私は、再び歩き出す。
夜風に揺れるカーテンの隙間。
仮面たちの喧騒から、わずかに外れた、回廊。
そこに──静かに立つ影があった。
(……見つけた)
私は、音を立てないように、そっと近づいた。
彼は、こちらに気づいたのか、それとも最初から、待っていたのか。
振り返らず、ふと、言葉をこぼした。
【グラヴィオ】
「……かつて、咲いた花は」
月明かりの中で、その声だけが、静かに揺れた。
【グラヴィオ】
「記したというだけで、誰にも語られず──
夜の底に、静かに沈められた」
その声音には、痛みよりも、祈りに似た、静かな響きがあった。
(……"誰か"のことを語っているのに、まるで、今の私の奥をなぞられているようで──)
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
私は、思わず声を落とした。
【アメリア】
「……それは、詩?」
男は、初めてこちらを振り返った。
仮面の奥、琥珀色の瞳が、月光を吸い込んで揺れていた。
【グラヴィオ】
「……ただの、昔話ですよ」
仮面の下、微かな笑み。
(その微笑みが、私に向けられたものじゃないって、本当はわかってるのに──)
それは──失われたものを宿しながら、静かに夜を生きる者だけが持つ、祈りにも似た微笑みだった。
(怖い……)
(なのに、動けない)
言葉でも、目に映るものでもない、もっと深い場所で、私は、この人に引き寄せられていた。
【グラヴィオ】
「あなたは……記録官」
質問ではなく、確認するような口調だった。
【アメリア】
「……はい」
【グラヴィオ】
「記すことと、記さないこと。どちらが、優しいのでしょうね」
その問いかけに、答えがあるはずもなかった。
けれど、彼の声には、長い時間をかけて考え続けてきた重みがあった。
月明かりの下、ふたりの影だけが、そっと揺れていた。
【グラヴィオ】
「……また、会うかもしれませんね」
それは約束でも、期待でもなく──ただ、静かな予感のような言葉だった。




