【本編】第37話:エピローグ
静かな気配に、胸の奥がふっと揺れた。
月明かりが、茶色に赤が滲む髪を淡く照らしている。
礼拝室の奥で、誰かの背中がそこにあった。
(……まさか)
扉を開けた瞬間、夢を見ているようだった。
でも、それは幻ではなかった。
ゆっくりと、彼が振り返る。
視線が、まっすぐに絡んだ。
(……ああ)
その瞬間、胸の奥で何かが、確かに、脈打った。
彼の姿は変わっていなかった。
けれど、どこか遠くへ行ってしまった人のようで。
それでも──
いまは、ここにいた。
わたしのところに。
【グラヴィオ】
「最後の詩のつもりで──でも、こうして……もう一度だけ」
「あなたが、幸せであるように……そう、祈りたかった」
その声は、何かを手放した人のものだった。
けれど、それでも残っていた。
この場所に。わたしのために。
(……違う)
(これは、祈りじゃない。あなたの”愛”だ)
(咎を記さなかったかわりに、……感情を咲かせてくれた)
わたしは、何も言えなかった。
ただ、光のなかに浮かぶ彼の姿を、心の奥の、記されない頁に、そっと刻んだ。一歩、彼に近づく。
【リア】
「……わたしも、祈らせてください」
「あなたと一緒に」
琥珀色の瞳が、驚いてわずかに揺れる。
そして、ゆっくりと微笑んだ。
それは初めて見る、本当の笑顔だった。
たとえ、時の流れがこの記憶を薄れさせても。
今夜の光は、きっとわたしのどこかに残る。
彼と、ここにいたという確かさと共に。
次回は7/21の20時に後日談配信予定です!
※本作は架空世界の記録制度を主題とした恋愛劇です。実在の宗教・政治とは関係ありません。




