【本編】第18話:静寂を破る現実
(まさか——まさか、そんなはずない)
月影亭の扉をくぐると、いつもの柔らかな灯りと、穏やかなざわめきが迎えてくれた。 けれど、心の中のざわめきは、静まる気配を見せなかった。
今日、図書院で見た記録。十三年前、旧記録局筆頭家門関連の記録。
「グラヴィオ・カルネヴァレ」の担当案件が"死亡記録"だった可能性。
(まさか、私の家族のことも?)
けれど、答えを確かめる勇気は、まだ持てなかった。
サロンに入ると、彼はすでにそこにいた。
【グラヴィオ】
「おかえりなさい。お疲れではありませんか?」
(どうして、そんなふうに優しくできるの)
リュシアンの言葉が脳裏をよぎる。
「あの人は綺麗な人ではない」
けれど、彼の声の響きに、少しだけ心が緩む。
【アメリア】
「いえ、大丈夫です」
テーブルの上に置かれた茶器から、やわらかな香りが立ちのぼる。
少しの雑談。最近の詩の話。誰かが話していた本の話。
ふとした瞬間に笑う彼の顔が、"あの記録"を書いた人物と、どうしても結びつかない。
【グラヴィオ】
「今日は、いつもより少しだけ、表情が硬いですね」
(見抜かれてる)
【アメリア】
「任務で、少し気がかりなことがあって」
【グラヴィオ】
「記録官というのは、どこか"祈り"に似ていますね」
【アメリア】
「祈り?」
【グラヴィオ】
「誰かの足跡を残すこと。
見えないものを形にすること。でも時に、それが呪いになる」
彼の目が、一瞬だけ揺れた。
(やっぱりこの人、何かを知ってる)
その時――突如、外からざわめきが響いた。
「やめてくれ! 離してくれ!」
押し殺されたような声。怒鳴るでもなく、けれど抑えられた緊張がにじんでいた。私は反射的に窓辺に足を向けた。
(何が起きているの?)
※本作は架空世界の記録制度を主題とした恋愛劇です。実在の宗教・政治とは関係ありません。




