表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/43

【本編】第15話:恋を語る夜

サロンの広間に戻ると、蝋燭の灯がいくつも揺れていた。


(まるで、わたしみたい)

香と低いざわめきに包まれた空間で、今夜は「恋を語る夜」が開かれていた。

小さな円卓を囲むように椅子が並び、それぞれが詩集を手に取っていく。

読み上げられる恋の詩は、甘く、切なく、ときに痛みすら含んでいて──


(これは、記してもいい想いなの?)


誰もが、それを"咲いていいもの"として受け入れていた。

でも私の心は、まだ揺れ続けている。 あの人に見透かされた不安と、それでも離れたくない想いで。


【カリーナ】

「私……愛された記憶があるんです」

「だから、名を記される恋が、こわくないのかもしれません」


一瞬だけ、室内が静まった。

けれどカリーナは、怯むことなく微笑んだ。

美しく整えられた髪。背筋を伸ばした姿勢。

それは、恋を"記録"として受け止める者の覚悟のようだった。


(わたしには、まだ無理)


名前を呼ばれる恋。

それは、世界に知られてしまう恋。咎にもなりうるもの。

やがて、グラヴィオが詩集を手に立った。


【グラヴィオ】

「咲かない恋というものも、あるようです」

「咲いてしまえば、もう戻れない。けれど、咲かないままなら──」


一呼吸、置かれた沈黙。それがまるで、"問い"のように感じられた。


【グラヴィオ】

「蕾のまま、記されることなく。それでも、誰かの記憶の中だけで咲く恋があるなら」

「それは、赦しと祈りのようなものかもしれません」


朗読される詩。


【グラヴィオ】

「ああ 美しい蕾が私の目の前に

誰にも知られることなく咲こうとしている

記録されぬ場所で、静かに」


その瞬間、グラヴィオの瞳がこちらに向いた。やわらかく、けれど決して逸らされることのない視線。


(わたしのこと?)


胸の奥で何かが跳ねた。


(彼はすべてを知っているはずなのに)

(どうして、美しいなんて)


困惑と、それでいて嬉しさが胸を満たしていく。

記録されぬ場所で——そう、私の居場所を理解してくれている。

隠れて生きている私を、否定しない。

(でも、なぜこんなに優しいの?)


彼の視線が私を捉えるたび、息が詰まりそうになる。

(正体を知られているのに、それでも嬉しくて)

これが……恋?


詩は終わり、拍手が波のように広がっていく。

グラヴィオは目を伏せ、静かに席へと戻った。

その背を見送りながら、私はそっと自分の胸に手を当てた。


(記されない恋……)

(確かに、この思いは記録に残せない)

(でも、それでもいいと言ってくれている)


不安と喜びが入り混じって、胸が締めつけられた。


(本当に、このままでいいの?)

(私は、騙されているのではないの?)


それでも、心の奥で芽生えた想いは、もう止めることができなかった。

※本作は架空世界の記録制度を主題とした恋愛劇です。実在の宗教・政治とは関係ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ