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【序章】共通2話:記録の街

『咎の上に咲く花』

この物語は、「罪とは」「赦しとは」「記録とは何か」を問う、

恋愛×ファンタジー×構造ミステリ。


乙女ゲーム形式のマルチルート構成で、

主人公は6人の登場人物と出会い、

それぞれの“咎”と“記録”に向き合っていきます。


最後には、全ての真実が収束する“構造の中枢”に至ります。

舞踏会へ向かう馬車の中で、私は静かに羽根ペンを握っていた。

(揺れる馬車の中じゃ、まともに記録なんてできないとわかってる)


インク壺に触れないよう慎重に紙に向かう。

けれど、指先がかすかに震えたせいで、黒いインクがほんのひとしずく、手の甲にはねた。


(こんなことくらいで、手が震えるなんて)


ほんの少し、苦笑するように口元がゆるんだ。

そっと袖で拭いながら、小さく笑った。


私は、別の名を使って王都へ出るのは、これが初めてだった。

王都で開かれる仮面舞踏会──王政と神殿が共同で主催する文化行事。

私の役目は、その場に集う人々の言葉や所作を記録すること。


膝の上に置かれた記録帳を見下ろす。

白金の縁どりに深い青の布──まるで祈祷書のような、重々しい装丁。

修道院の練習帳とは、明らかに違う。


(これに記した言葉は、すべて"報告"になる)

(書くことは、祈ること。記すことは──)


手のひらに、帳の重みが伝わってくる。

生きた人々の、生きた言葉を、そのまま書き留めなければならない。

しかも、仮面で素顔を隠した人たちの中で──


(誰が誰だかわからないのに、何を記せばいいの)


エルノアの言葉が浮かぶ。

『君自身もまた、記されるべき存在だということを忘れぬように』


(でも私は、"記されてはならない"存在)

(ならせめて、誰かを記したい。何かを残したい)


馬車が王都の石畳に揺れる音が変わり、懐かしくも冷たい風が隙間から吹き込んできた。


(この音……)


石畳を踏む馬の足音。街角から聞こえてくる声。

胸の奥に、幼い頃の記憶がかすかに蘇る。


(そうだ。私、ここで暮らしてた)


けれど、記憶は断片的で、まるで霧の向こうのように曖昧だった。


(あの頃のことは、ほとんど覚えていないのに)

(どうして、音だけははっきりと覚えてるんだろう)


やがて車輪が止まり、扉が開く。

舞踏会の会場──煌びやかな仮面と、光の世界が目の前に広がった。


(ここからだ)


私は羽根ペンを握りしめ、深く息を吸って歩き出す。

でも──この夜、記録してはいけないものに出会うとは。

この時の私は、思いもしなかったのだった──

▼次回(第3話)

仮面の下に隠された言葉と視線。

ついに“あの人たち”が登場します──

王子、騎士、報道官。彼らとの出会いが、アメリアの記録に火を灯す。

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