表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

第四話:観測者の名前

その夜、久賀遼は本の前に座っていた。


何度見直しても、あの空白のページに自分の名前が書かれている。

ペンで走り書きされたような筆跡ではなく、まるでもともとそこにあったかのように自然な字体で。


「久賀 遼」──たったそれだけ。

でも、それだけで背筋が凍るには十分だった。


(これは……誰が書いた? 本が、勝手に……?)


思わずそのページを指でなぞる。

インクの感触はない。だが、確かにそこに“書かれている”。


脳裏をよぎるのは、御神和繁の言葉。


「触れてしまった者は、“書かれる側”ではいられなくなる」


まさか、自分が“観測者”から“記述者”に変わるというのか?



翌朝、遼は朱音と連絡を取り、再び落ち合った。

彼女に昨夜の出来事を伝えると、朱音はしばらく無言で沈黙した。


「……名前が書かれていた? 空白のページに?」


「そう。何もしてないのに、勝手に現れたみたいに」


「……それ、観測者として“確定した”ということかもしれない」


「確定?」


朱音はバッグからノートPCを取り出し、ファイルを開いて一枚の画像を見せた。

それは、彼女がかつて見たという“同じような本”のスキャンだった。


「これは10年前、私が大学の研究室で撮ったもの。

このページの空白……そこには当時本を所持していた人物の名前が現れていた。研究者は“予言の署名”って呼んでたけど……要するに、その人の人生が“記録”され始めるってことよ」


「俺が……記録される?」


「あるいは、これから“誰かに書かれる”存在になるか、もしくは“書き換える側”に回るか。

重要なのは、“誰に見られているか”なのよ」



そのとき、カフェの窓の外に目をやった朱音の表情が一瞬で変わった。


「……見られてる」


「え?」


「外、あの男。何気ないふりしてこっち見てる。あの動き……N.O.V.A.の追跡者と似てる」


遼が反射的に視線を向けると、スーツ姿の男がスマホをいじっていた。

だが、手元のスマホの画面には何も映っていない。

──フェイクだ。目は完全にこっちを向いている。


「まずい。もう足がついたかもしれない。急ぎましょう。移動する」


朱音はバッグを手に取ると、遼の腕を引いた。


「どこへ?」


「私が昔隠れてた場所。少しだけ時間が稼げる」



その直後、男が電話を耳に当てながら、こちらへと一歩踏み出した。


「観測者、確認。No.07、移動を開始」


声は小さく、誰にも聞こえないほどの囁きだった。

ご覧いただきありがとうございました。

第4話では、ついに**久賀遼の名前が“本に記録された”**ことが明らかになり、

それが意味する「観測者の確定」とは何かが浮かび上がってきました。


そして──初めて、N.O.V.A.の人間が姿を現しました。

彼らはなぜ「観測者」を監視しているのか?

本は本当に未来を記録するだけの存在なのか?

それとも、“誰か”が意図的に書き換えているのか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ