表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お気に入り小説4

男爵令嬢に魅了された帝国。それでも共に泣いた君を愛している。

作者: ユミヨシ

「オルベウス様ぁ。オルベウス様ですよね」


いきなり帝国学園の廊下で声をかけてくる一人の女。


オルベウス皇太子は、とまどっていた。

銀の髪に碧眼のそれはもう美しい皇太子であるオルベウス。


彼に憧れる女性は多い。いや、性別関係なくオルベウス皇太子殿下にあこがれる人々は多かった。

だが、下々の者から声をかけることは不敬に当たる為、禁じられている。

帝国の至宝。次期皇帝としてオルベウスは期待されていた。


あまりにも優秀な成績。鍛え抜かれている逞しい身体。

そして、その優秀過ぎる美しき皇太子には彼にふさわしい婚約者が当然、存在する。


アフェリエーテ・クラテリス公爵令嬢だ。


オルベウス皇太子に相応しく、銀の髪で青い瞳、完璧な美しさと優秀さを兼ね備えたアフェリエーテ。


二人揃えばそれはもう美しき絵画のようで。


未来の皇妃に、帝国の母に相応しい女性として、彼女も又、帝国民に期待されている。


そんな完璧な婚約者がいるオルベウス皇太子に、その女は堂々と話しかけてきたのだ。


当然、護衛として彼の傍にいた騎士に、近づく事を遮られる。

オルベウス皇太子には特別に、護衛騎士、二人が常に傍についていた。

当たり前である。


帝国の次期、皇帝に何かあっては大変だからだ。


そのフワフワの桃色の髪をした女は、大きな目をくりくりさせて。


「だって、帝国学園は身分関係なく、皆、平等でしょう?あまりにも素敵なオルベウス様だから、私、お友達になりたくて」


護衛騎士が、その女に向かって、


「不敬であるぞ。いかに学園が平等を歌っているとはいえ、それは学問においてだ。身分差は存在する。当然であろう」


女は首を振って、


「学園だからこそ、色々な人たちとお付き合いをして、見分を広げるべきではないでしょうか?」


オルベウス皇太子は思ったのだ。

確かに、その女の言う事にも一理あると。


思わず尋ねてしまった。


「名は何と言う?」


「アメリア・パルト。男爵家の娘です」


「アメリアか。本来なら私に話しかける事は禁じられている。だが、そなたの言う事にも一理ある。色々な身分の人と付き合えるのは、確かに学生のうちでしか、出来ぬな。そなたの話を聞きたい」


「有難うございますっ」


その女と共に、食堂に設置されているテラス席に移動する。


何故、その女に興味を持ったのだろう?何故、その女の言う事に一理あると思ってしまったのだろう?


その女の話はくだらない話だった。


「皇太子殿下はとても美しくて優秀だって。私、憧れているんですよ」


「それは光栄だな。皆が、私の事を褒めたたえてくれる」


「当然です。皇太子殿下は努力していらっしゃるのですもの。私、凄いと思っているんですよ」


にこにこして話をするアメリア。くだらない世辞の部類だ。

だが、とてもその笑顔が可愛く思えて来て。


オルベウス皇太子は、


「そなたの笑顔を見ると癒される。何故だろう。私は疲れているのかもしれない」


「だったら、私とこれからもお話しましょう。ね?オルベウス皇太子殿下。いえ、オルベウス様とお呼びしても?」


「ああ、構わない」


不思議だった。


何故、この女と話をしていると癒されるのだ?何故?心のどこかで警鐘が鳴る。


その女がテラス席から去ると、護衛騎士が、


「良い人とお知り合いになりましたね」


もう一人の護衛騎士も、


「今時、あのような明るく朗らかな女性はいませんよ」


言っていることがおかしい。


しかし、オルベウス皇太子は、願ってしまう。


又、あの女、いや、アメリアと話がしたい。あの可愛い笑顔を見て癒されたいと。


どうしてだ?どうしてアメリアに会いたいと願うのだ?


翌日は週に一度の、アフェリエーテとの茶会だった。

王宮の庭でアフェリエーテとお茶を飲む。

帝国学園では男女別の建物で、違う教科を学ぶので、アフェリエーテと学園で顔を会わせることは無い。


おかしい……アメリアは、何故、男性しか立ち入ることが出来ない学舎の廊下を歩いていたんだ?

何故、護衛騎士達はその異常さに気が付かないんだ?


うわの空で、紅茶を飲んでいると、アフェリエーテが話しかけてきた。


「どうかなさいましたか?オルベウス様」


アフェリエーテは、婚約者なので、オルベウス皇太子に話しかけることが許されている。


オルベウス皇太子は、微笑んで、


「気になる女生徒にこの間、廊下で声をかけられた。それも帝国学園の廊下だ」


「あら、女生徒が帝国学園の廊下で?なんでその女生徒は、男性しか歩くことがない学舎の廊下を歩いていたのかしら」


「そうだろう?護衛騎士も、彼女の事を良い子だと褒め称えていて、私も又、会いたいと願ってしまった。彼女と話していると癒されるんだ」


「そんな不審人物を、オルベウス様も、護衛騎士も信じてしまうなんて。我が公爵家で調べましょうか?」


「ああ、でも、そんなことをして、彼女に万が一の事があったら……私は」


彼女を守りたい。彼女が万が一、牢に入る事になったら。私は後悔してもしきれない。


アメリアの事を愛している。これが愛というものなのか?


え?おかしいのではないのか?私はアメリアに会って、まだそんなに話をした覚えがない。

それなのに、愛だなんて???私が愛しているのは……


「アフェリエーテ。彼女の事を調べて欲しい。私は、おかしくなっているようだ。私が愛しているのは、アフェリエーテ、君だけだ」


立ち上がって、アフェリエーテの前まで移動し身を屈めて、膝をついて、その美しき顔を見上げる。


「婚約者になってから10年過ぎた。君は私と共に努力をしてきたね。私は泣き言を何度も君に向かって言ったけれども、君はそんな私に怒りまくって、わたくしだって、頑張っているのです。このドリス帝国の未来が、わたくし達の肩にかかっているのですから。だから、共に頑張りましょう。と励ましてくれた」


アフェリエーテは微笑んで、


「正直、貴方の婚約者に選ばれた時に、ああああ、わたくしの人生詰んだわ。と思ったのよ。皇妃なんて、なりたくはなかったですし。でも、貴方がわたくしと一目会った時に、ぜったいにアフェリエーテと結婚するって、ダダを捏ねまくったから仕方なく。それなのに、貴方は泣き言ばかり言って、皇帝になるための勉強が大変だとか。ああ、それでも最近は言わなくなりましたわね。成長したものだと、喜んでおりましたのよ」


「それは私だっていい加減、成長する。このドリス帝国の皇帝になる為に。それならば、あの女は大いに怪しいな。私や護衛騎士はあの女によっておかしくなったのだから」


「ともかく、我が公爵家にお任せください。我が公爵家は王家の影を取りまとめている家。あの女の正体を暴いてみせますわ」


これで、オルベウス皇太子は安心だと思ったのだ。

しかし、まさか、こんな恐ろしい事になるとは思わなかった。


どんどんと親し気に近づいて来るアメリア。


クラテリス公爵家が調べても、パルト男爵家が怪しいという情報も出てこなくて。

何故か、影たちも、あんないいお嬢さんはいませんよとアメリアを褒め称える。

アメリアが男性が学ぶ学舎に現れても、学園の先生も学園長も、注意もせず、周りの誰も疑問に思わず、オルベウス皇太子は毎日、押し掛けてくるアメリアとお昼ご飯を食べ、親し気に話をして。


その笑顔に癒される。

オルベウス皇太子だけではない。

宰相子息も騎士団長子息も、周りの側近達も好意的で、


「アメリアと一緒に、昼食を取れるなんて、私達は幸せ者だ」

「今日もアメリアの顔を見ることが出来たなんて、なんてラッキーなんだ」


皆で、アメリアを褒めまくり、ちやほやする毎日。


オルベウス皇太子は、これはおかしいと思いつつも、アメリアと仲良く話をすることがやめられない。


時には腕を組んで、アメリアと仲良く廊下を歩く事もあった。


アメリアは頬を染めて、


「私、とても幸せです。オルベウス様とこうして一緒にいられるだなんて」


オルベウス皇太子は、優しくアメリアを見つめ、


「私も幸せだ。愛しいアメリアと共にいられるだなんて」


おかしいおかしいおかしい。


そうは思うのだけれども、どうしようもなくアメリアに惹かれていく。


皇帝である父が、とある日、オルベウス皇太子を呼びよせて、


「学園で親しくしているそうだな。婚約者のアフェリエーテを差し置いて」


「でも、父上。アメリアは癒されるのです」


「ああ、上に立つものは、とても疲れるものだ。癒されるその女性を大切にするがいい」


「有難うございます」



そして、アフェリエーテとのお茶をする日に、オルベウス皇太子はアフェリエーテに、


「アメリアは、私にとってとても大切な女性だ。だから君とは婚約を解消したい。アメリアと私は結婚して、アメリアを皇妃にするのだ」


アフェリエーテは、悲しそうに頷いて、


「そうですわね。あの方はとても素晴らしい方。わたくしなどではとても、あの方にはかないませんわ。わたくしは婚約解消を受け入れます」


心が痛む。アフェリエーテを私は愛しているはずなのに、何故か、アメリアが愛しくて。アメリアを一番に幸せにしたくて。


何故だ?なんでだ?


その時、背後から声をかけられた。



「女を泣かせる屑は許せない」

「だから俺達がお前を辺境騎士団へ連れて行く」

「だが、その前にこの帝国はおかしくないか?」

「確かに、黒い霧が立ち込めていて、いや、桃色の霧か?なんだ?この霧は?」


彼らは辺境騎士団四天王。


女を泣かせる美男を拉致し、愛ある調教をする変態、いや辺境騎士団員達だ。


辺境騎士団四天王は、情熱の南風アラフ。北の夜の帝王ゴルディル。東の魔手マルク。三日三晩の西のエダル。

と、それはもうしつこいあだ名で呼ばれている、恐ろしい怪しげな四天王なのだ。


オルベウス皇太子は青くなった。


奴らの変態な噂は今や各国で有名である。

拉致されたらもう、帝国に戻ってこられないだろう。

変態騎士達の餌食にされる生活が待っている。


いや、その前に、自分にはやることがあるのではないか?


「桃色の霧?私は自分がおかしい事を自覚している。それでもアメリアが愛しくて仕方がない。私が愛しいのはアフェリエーテだけなのに。だけなはずなのにっ」


桃色の霧発言をした、三日三晩の西のエダルが、


「こんなに濃厚な桃色の霧が見えないのか?俺の目にはよく見える」


他の連中も、


「確かに、この帝国の連中には見えないのかもしれないな」

「凄い濃い霧だ」

「これは魅了の一種ではないのか?魅了が強い女がいると、傾国とか言うじゃないか」


アフェリエーテは四天王に頭を下げる。


「どうかドリス帝国をお救い下さい。我が公爵家の影でも、アメリアの事を探り出せませんでした。きっと影たちも魅了にかかってしまっているのでしょう。いえ、この帝国全体が彼女の魅了にかかっているのです」


四天王のリーダー、アラフが、


「だったら、俺達がそのアメリアという女を退治してやろう」


ゴルディルも、大きく頷いて、


「人助けも我らの任務のうちよ。任せておけ」


魔手のマルクも、手の上の可愛い触手をウネウネさせて、


「この触手の餌食にしてくれるっ」


エダルは手に剣を持ち、


「その女の首を跳ね飛ばしてくれよう」



オルベウス皇太子は、辺境騎士団四天王に任せることにした。





皇宮で、その夜、オルベウス皇太子が眠っていると、しくしくと泣く声がする。

慌てて身を起こして声の方向を見てみると、アメリアがぼやっとぼやけてベッドの前に立っていた。


オルベウス皇太子にアメリアは縋りついて、


「助けて。私、殺される。私はただ、幸せになりたかっただけなの。なのに、何故?私は殺されなければならないの?」


オルベウス皇太子はアメリアに、


「ああ、愛しのアメリア。君は私を癒してくれた。だが、その癒されたと思った心は、君に魅了をされていたのだと、ああ、今ならはっきりと自覚できる。君の魅了の力が弱まってきたのだな」


「そうよ。私の本体は今、恐ろしい人たちと戦っているの」


「人の心を魅了してはいけない。私はお前なんぞ愛していない。私が愛しているのはアフェリエーテだけだ。私が今日あるのはアフェリエーテのお陰だ」


そう言って、アメリアの幻に向かって、枕元にあった剣を手に、切りつけた。


アメリアの幻は泣きながら、


「酷い。私は愛していたのに。オルベウス様と結婚したかったから、周りをみんな魅了した。

オルベウス様も魅了した。だったら、私の願いが叶わないのだったら、貴方の愛する女を道連れにするわっ」


そう言って、消えたのだ。


オルベウス皇太子はアフェリエーテが心配になった。

慌てて飛び起きて、夜勤の護衛騎士達を伴い、馬に飛び乗り、クラテリス公爵家に向かった。


クラテリス公爵家の門の呼び鈴をリンリンと鳴らせば、使用人が出て来て。


「オルベウスだ。アフェリエーテが無事か確認しにきた」


使用人が、取り次いでくれて、中に入れて貰えた。


屋敷の客間に通されれば、青い顔をしたアフェリエーテが、抱き着いて来て。


「怖かったの。とても怖かった。オルベウス様が来てくれて、私、とても嬉しいっ」


この話し方おかしい。違和感がある。本当にアフェリエーテか?


安堵するより先に、違和感に気が付いたオルベウス皇太子。


その時、窓をぶち破って、辺境騎士団のアラフとゴルディルが飛び込んできて。


「本体を逃がした。って、本体が……」

「本体がまさか……」


アフェリエーテが高笑いした。


「私はここよ。この女に取り憑いてやった。さぁ、私を愛して?オルベウス様。私とアフェリエーテは一体になったの。ねぇ、お願い。愛して欲しいの。オルベウス様。オルベウス様っ」


オルベウス皇太子は思いっきり、アフェリエーテを揺さぶった。


「私のアフェリエーテを返せっーー。アフェリエーテは私の愚痴を沢山聞いてくれた。私が未来の皇帝として自覚が持てるように、ともに学んでくれた。励ましてくれた。アフェリエーテは私の為に沢山、一緒に泣いてくれた。アフェリエーテは私に沢山沢山、色々な物をくれたんだ。だから、アフェリエーテを返せ。アフェリエーテ以外の者なんていらない。だから返せっーーーー」


揺さぶられたアフェリエーテは、急に真顔になって。


「嬉しい。わたくしも貴方の事を愛しております。ですから、わたくしの中にいる貴方、出てお行きなさい」


何かが空に浮かび上がって。


私はただ幸せになりたかったのーー私は私は私はっーーー


そう言って、しゅうううっと音を立てて消えてしまった。


唖然とするアラフとゴルディル、後からマルクやエダルも駆けつけて。

クラテラス公爵夫妻も、使用人も、護衛達も、影の者達も。遅れて部屋に駆けつけてきた。


クラテラス公爵夫妻は、無事だった娘に抱き着いて、


「よかった。アフェリエーテ」

「本当にっ」


アフェリエーテは、両親に抱き着いて、


「わたくしは、追い払いましたわ。ほら、窓の外を見て下さいませ。お日様がとても綺麗」


窓から光が差し込んで来て。


オルベウス皇太子は、アフェリエーテに向かって、


「私が愛しているのは君だけだ。ああ、魔は去ったのだな」


アフェリエーテは頷いて、


「ええ、わたくし達の絆が魔を去らせたのですわ」


辺境騎士団の連中達はいつの間にかいなくなっていた。

美男の屑がいない場所なんてもう、用事はないのであろう。




オルベウス皇太子にとって、日常が戻って来る。

傍には愛しいアフェリエーテがいて。


何故か、側近であった騎士団長子息と宰相子息がいなくなっていた。

彼らはとても顔が整っていて美男だ。


それぞれの婚約者から奴らは婚約破棄をされていた。

何か屑な事をやらかしたのであろう。

それぞれ家からも廃嫡されたという話を聞いた。


アフェリエーテがオルベウス皇太子に語り掛ける。


「わたくしがね。心を打たれたのは、一緒に沢山、泣いたという事ですわ。わたくしが泣いていたという事を知っていらしたのですね」


オルベウス皇太子はアフェリエーテの手に手を重ねて、


「君は強がりばかり言っていたけれども、皇妃教育が辛いと、私には愚痴すらこぼさなかったけれども、でも、私が泣いているときに、きっと私の手を握り締め励ましながら、一緒に泣いていた気がするんだ。そして自分の心も励ましていたのではないかと。これから先、色々とあると思う。一緒に泣いて、励まし合って、共に高みを目指していきたい」


「ええ、わたくしも一緒に泣いて、一緒に励まし合って、高みを目指していきましょう」


後に二人は結婚し、皇位を継いで、オルベウス皇帝の治世にドリス帝国は繁栄を極めた。


二人はいつまでも仲が良く、三人の皇子に恵まれて、幸せに暮らしたと言われている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
行き掛けの駄賃…ということばが浮かびます。 さすが登場したら手ぶらでは帰らない変…辺境騎士団!
北へ、南へ、東へ西へー♪ 誰が呼んだか辺境騎士団、素敵だ!カッコよく真実の愛を守るお仕事してた! 屑と、そうでない者とを見極め、自ら助くる者を助く。 たとえ地の文で変態と三回も書かれようと。 「愛の名…
さて、消えたのは果たして、、、?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ