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第二話

「陛下! シミオン国王陛下!」

「何ごとだレミー、騒がしいぞ!」


 ラビレイ王国王都ファーガス。その王城にある国王の寝室の扉が乱暴に開かれた。そんなことをすれば即座に無礼討ちになるが、扉を守る衛兵が見逃したのは訪問者が宰相のレミー・ウォールだったからである。


 ただし相手の身分故に止められなかったとはいえ、国王に対する無礼が消えるわけではない。つまり無礼討ちされるのは宰相の暴挙を見逃した衛兵だ。なんとも理不尽な話である。


 だが今回は幸いにも宰相の話が王国の一大事であったため、彼は不問にされるどころか責められることさえ忘れられてしまった。


()の眠りを妨げるとは、いくら宰相のレミーといえどつまらんことなら罰するぞ」

「陛下! 軽口をたたいている場合ではございませんぞ!」


「なっ、余に向かって軽口だと!?」

「至急バルコニーに向かって下さい」

「ば、バルコニー?」

「いいから早く!」


 国王シミオン・ファーガス・ラビレイはレミー宰相に手首を掴んでベッドから引っ張り出され、危うく床に転がるところだった。むろんこれも即座に無礼討ち案件だが、犯人が宰相のレミー・ウォールだったので世話役のメイドは見逃すしかなかった。


 そんな彼女も本来なら無礼討ちになるところだが、事が王国の一大事だったため処されずに済んだ。


 その王国の一大事とは――


「陛下、あちらをご覧下さい」

「な、なんだ、あれは……!?」


 城のバルコニーに出てシミオン王が目にしたのは、遠方の森から頭を出している四角い建造物だった。正確には測れないがこの城の物見塔よりも高いように見える。


「ここ王都ファーガスでは、王城より高い建物は認められておりません」

「レミー、やはりあの建造物は城より高いか?」


「一番高い物見塔と比べましてもわずかですが高いように思われます」

「しかしいつの間にあんなものが……?」

「昨夜まではなかったかと」

「ここからではなにも分からんな」


「すでに我が息子のレイバンが第一騎士団を率いて確認に向かっておりますので、間もなく第一報が届くでしょう」


「うむ。あのような奇怪な建造物を一夜にして完成させるとしたら侮れん。至急一帯を封鎖し、首謀者を余の前に連れて参れ」

「ならば王都防衛隊を向かわせます」


「しかし相手の力量が掴めんうちは手荒な真似はするなと伝えろ。王都が戦場となることだけはなんとしても避けねばならん」

「御意」

「余は玉座の間にて待つ」


「それでは急ぎお支度を。その格好では陛下の威厳が損なわれますので」


 くまさん柄のパジャマにサンタさんが被るような帽子を見て、レミー宰相は呆れずにはいられなかった。国王のこんな姿は王家と側近以外の者が見れば目をくり抜かれる刑に処される。


 しかしこれもまた、事が王国の一大事だったため誰も咎められることはなかった。



◆◇◆◇



「なんだあれは? 鳥か?」

「団長、あんな鳥は見たことがありません」


 第一騎士団団長のレイバン・ウォールは副団長クレイグ・カルロの言に心の中で同意した。あれはどう見ても鳥などではない。羽ばたきもせずに空中で制止したり不規則に動いたりしているのだ。


「あの()のヤツらかも知れん。うかつに手を出すなよ」

「あ! 誰かが矢を!」


 彼らが正体不明の()に向かう途中で出会ったのはドローンだ。大きさは最長部でも五十センチほどしかないが、これも(しも)(とり)(よう)(へい)が開発した超高性能な機体である。飛んでくる矢を避けるなど容易いことだった。


「許可なく矢を射た者は誰か!?」

「自分であります!」


 名乗り出たのは今年、第二騎士団から移ってきたばかりのデイトンという二十四歳の新人である。新人とはいっても彼は十五歳で成人してから約九年間の間に衛兵団、第三騎士団を経て第二騎士団に所属。その後晴れてこの第一騎士団に異動となったので、比較的騎士歴の長い苦労人だった。


 第一騎士団は近衛騎士団に次ぐ高位の団であり、そこに所属するだけで爵位を持たない貴族子息には男爵位が与えられる。また平民出身でも一代限りではあるものの騎士の称号が与えられるので、将来は安泰と言われていた。


 なぜ一代限りなのに将来安泰と言われるのか。それは騎士の称号が実力でしか得られない名誉であり、平民にも関わらずその者が優れていることを示しているからだ。


 第一騎士団は他の騎士団や衛兵団と比べて騎士としての戦闘技術はもちろん、品位や風格も求めらる。つまり主に下級貴族(男爵家や子爵家)の令嬢が結婚を申し込む相手として申し分ないということだ。


 相手が貴族令嬢なら平民は婿入りすることで貴族の仲間入りとなる。貴族になれば王国から俸給(給与のようなもの)が支払われるし、婿入り先が領地持ちだった場合は領地経営による収入も当てに出来る。よって将来安泰というわけだ。


 ただその分規律も厳しく上官の命令は絶対だった。


「騎士デイトン! 誰が矢を放てと命令した!?」

「はっ! 自分の判断であります!」


「命令した上位者はいないということだな!?」

「その通りであります!」


「騎士デイトン! 貴様には衛兵団で一カ月間の懲罰勤務を命じる!」

「え、衛兵団……? な、なぜでありますか!?」

「逆に問う! 貴様はなぜ矢を射た!?」


「正体不明の鳥のような者が接近してきたからであります!」

「正体不明と言ったな!?」

「その通りであります!」


「正体不明とは敵か!?」

「分かりません!」


「分からぬか。では敵ではないかも知れないということだな!?」

「その通りであります!」


「敵ではなかった場合でも、矢を射たら敵となるかも知れぬ。それが分からぬか!?」

「はっ……」


「分かったら今日は戻って異動の準備をしておけ!」

「は……ははっ!」


「団長、よかったのですか?」


 肩を落として去っていくデイトンの後ろ姿を見送りながら、副団長クレイグがレイバンの顔を覗き込む。


「命令違反、今回は勝手な判断による行動だが団規では降格だ。しかしあの苦労人には病弱な母親と年の離れた幼い妹がいる」

「存じております。父親がおりませんことも」


「では第一騎士団所属になったことでガシード子爵家の令嬢との婚約が決まったことは知っているか?」

「それは知りませんでした」


「俺も一昨日の夜に報告を受けたばかりだからな。知らなくて当然だろう」

「なるほど。それなのに降格となれば婚約が破棄されると……」


「アレは騎士としてはまだ若い。今回は判断が先走ったが、もしあの()が敵だったら彼は正しかったことになる」

「ですね。しかし反撃してこないところを見ると、やはり敵ではなかったのでしょうか」

「分からん。単に反撃する手段を持っていないだけかも知れないからな」


「確かに矢や剣のような装備は見えませんね」

「とにかく宰相(父上)の命令を果たそう。前進!」


 足を止めていた第一騎士団は()に向けて前進を再開するのだった。

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