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君とわたし

君とわたしが出会った時の、少し昔のお話

私は大きかった。


物心着いた時から周りの子達より頭1つ分背が高く、そのせいもあって少しふくよかだった。子どもながらに日本人心を持っていた私は周りの子と違う自分の身なりが大嫌いで、人前に出るのが嫌いだった。幼稚園でも周りの子が外で鬼ごっこをしている時に、私は部屋の隅でお絵描きをするような子だ。先生が声をかけてくれても、声を出さず首を振るだけ。この頃の私は将来有望な陰キャだった。

先生が絵本を読んでくれる時は、前の方に座ると後ろの子に「見えなーい!」と大きな声で言われるので、絵本が大好きだったけど先生の元へ集まるのは1番最後。好きな物も満足に求められない、身体に見合わず小心者だった。


年長組に上がった時。にこにこ笑顔を輝かせながら君が来た。県外から引越してきた君は一瞬で組の皆の心を掴んだ。


「ねー!ぷにきゅあの服かわいいね!一緒にぷにきゅあごっこして遊ばない?」

「いいよー!なんの役でしよっか?」


君が来ていたピンク色の髪をしたふりふりの服を着た女の子が描かれているTシャツを見て、組の子たちが群がる。小さい女の子を中心に大人気のぷにきゅあ。私の組でも例外はなく、休みごとにぷにきゅあごっこをするのが流行りだ。私ももちろん大好きだった。でも私が声をかけられる訳もなく、いつも部屋の隅で独りでいる私に声をかける子もいないのでぷにきゅあごっこなんかした事がなかった。いや、本当は最初は皆声をかけてくれたが私が拒否したのだ。今更声をかける変わった子はいない。


「ねぇ、あなたもぷにきゅあごっこしない?」


もちろん、そんなことを知らない君は例外だ。周りの子がその子は…と言いたそうに後ろでもじもじしている。


「…。」


やっぱり私は首を振るだけ。私がいても誰も楽しくないと思うし。でも君はとても強引だった。


「えー!なんでー!すっごくぷにブルーに似合いそうなのに!ねね!1回だけ!1回だけ一緒にやろーよー!面白くなかったらもうやらなくていいからさ〜お願い!」


手を合わせてお願いポーズをする君。

ぷにブルーはクールなお姉さん。他のメンバーに比べてすらっとした美人で、作品内ではモデルをしている設定だ。そんな背が高くて、周りと違う体格をしているにも関わらず凛としているブルーが私は1番大好きで、ブルーに似合いそうと言って貰えて心底嬉しかったのを覚えている。もし、もしも、私がぷにきゅあごっこをするんならブルーがやりたかったのだ。


「ぃ、い、いっかい、いっかいだけなら…」


気の迷いだったんだと思う。少しだけ、欲が出てしまった。俯きながら君の袖を握って応える。


「ほんと?!やったー!!行こいこ!」


ぐいぐい私を引っ張って外へ走り出す君。私の声を久しぶりに聞いて目をまん丸にした子達も、ぷにきゅあごっこが出来るとなると何もなかったかのようにすぐに笑顔で外へ駆け出す。


「恋するハートは無敵の心!笑顔色のぷにピンク!」

「輝く瞳にダイブイン!太陽色のぷにイエロー!」

「きっ、煌めく夜空を、駆け巡るっ、透明色のぷにぶるぅ…」


皆がかっこよく登場セリフを言うなか、噛み噛みで声をはれない私。いつもぷにきゅあごっこしてる子達がせっかくブルーを譲ってくれたのに恥ずかしくってしょうがない。もう辞めようかと思った。でも、


「わぁ〜!イエローもブルーもかっこいいしかわいい〜!!」


笑顔色のぷにピンクの君が下から私を覗き込む。思わずびっくりして後ずさりして転けそうになる。そんな私の手を引いて受け止めてくれた。


「大丈夫だよ!とってもかわいいよ!」


目の前がぱぁと広がってく感覚。世界が一回りも二回りも大きくなっていった。そんな私たちを取り囲むように周りの子達も駆け寄って声をかける。


「もっと遊ぼうよ!」

「今度は私がピンクやりたい!変わって変わって〜!!」

「いいよ!かわりばんこね!」


君に連れられてこの日は何回もぷにきゅあごっこをして遊んだ。最初は嫌だったのに、一度初めてみたらとても楽しくて、自然と笑顔が零れるようになっていた。


「やっと笑ってくれたね」

「え?」


君が隣で笑いかける。


「暗い顔してたからね、笑わないかな〜って思ってたの!笑うとね、楽しいよ!だから明日も一緒に遊ぼうね」


にこって笑う。とっても眩しかったことを今でも鮮明に覚えてる。


「ぷにピンクみたい…」


「え?」


「…いいよ。明日も遊ぶ」


「ほんと?!やったぁ〜!明日は何やろうかな〜」


ぼそっと呟いた私の言葉は聞こえていなかったが、遊ぶと言うと君が笑う。君が笑うと、自然と私も笑顔が零れる。何だか胸が暖かかった。


「あ、そうだ、名前!なんて言うの?私は希実香!」


「きみかちゃん…」


「うん!」


「…わたし、朱里…」


「あかりちゃん!」


「うん…」


「えへへ!あかりちゃん!」


なんだか名前を呼ばれるだけで嬉しい気持ちになれた。君の横顔を見ていると休み時間が終わったようで先生に呼ばれた。


「あ!もう時間だって!行こいこ〜!」


また私の手を引っ張り、先生の元へ二人で行く。幸せな気持ちが胸をいっぱいに埋めつくした。





数年後、卒園した後も運良く私は君と同じ小学校へ入学した。住んでる場所が隣の地区だったと小学生にあがってから知った。人と関わる事が苦手な私は君にベッタリだったが、少しずつ他の子とも会話するようになり、6年生になる頃には引っ込み思案はほとんど無くなっていた。背丈はやはり周りの子より頭1つ分大きいが、脂肪も背丈に変わっていったのだろうか、普通の肉付きになっていた。


「もう希実香、宿題忘れてきたの?」

「えへへ〜やったんだけどなぁ〜机の上に置いたままだ!」

「仕方ないんだから…先生にちゃんと言いに行こうね」


面倒がかかる君に、いつの間にかこの子の世話をしなくちゃと使命感を抱くようになった私は姉のようになっていた。昔は手を引っ張ってくれた君を、今度は私が引っ張る番だと背伸びをしていた。

人付き合いは相変わらず得意な君だったけど、勉強は苦手だったみたいで私がよく面倒を見ていた。君に頼られるのが嬉しくて、勉強は得意になった。わからないことがあると説明できるようになるまで調べた。全部君のためだ。


「お前さ〜べったり過ぎてキモい。友達そいつしかいないの?」


たまにこんなことを言ってくる奴がいる。話す人はいても、私が友達だと思っていたのは君だけだった。こいつの言ってることは本当だ。


「何言ってるの?朱里ちゃんは私の親友なの!他の子より仲がと〜〜〜ってもいいだけ!」


でも、こんなことを言ってくれる奴がいるから、こんなに嬉しいことを君が返してくれる。嫌な顔をしたけど、本当はこの言葉を待っていた。だから、こう言われるのは実は嫌いじゃない。他人の評価なんて気にならないし。


「気にしなくて良いからね、朱里ちゃん」

「ありがとう、希実香」


昔から変わらない笑顔色の君。その笑顔を見ると私は胸がぽかぽかする。君には沢山友達がいることを知ってる。でも、一番長い時間一緒に居るのは私で、私が一番の友達だって思ってる。



ある日、帰り道に少しだけ話したいことがあるのと君に呼び止められた。少し言いづらそうに言葉を紡ごうと口を小さくパクパクしている。その口から言葉がぽつりとこぼれはじめた。


「あのね、私、中学は地元じゃなくって、星咲学園に行くの」


「星咲…えっと、受験していく、女子校だっけ?」


「うん、お母さんがね、そこの中高等部出身でね、勉強の環境も整ってるし、ぜひ行きなさいって。今から勉強したら私でもなんとか入れると思うって。だから、来月から塾に通うから一緒に帰れないと思う…」


ビックリした。勉強が得意でない君がまさか中学受験の為に塾に通うと言うなんて。そのせいで私と下校出来ないって。


「わ、私も、その塾通いたい」


とっさに言葉が出てしまった。


「ホント…?一緒に通ってくれるの…?」


君の瞳がうっすら輝いて見えた。上目遣いできらきら見上げる。ぷにきゅあごっこをしたあの時と同じだ。


「お母さんに、相談してみる。私も、星咲、行きたいって…」


「え!一緒の学校にまた通えるの?!」


先程まで暗い表情だった君がぱぁっと明るくなった。もしかして、私と学校が離れるのが寂しかったのかなと脳裏によぎった。まさかね。誰でもいいから、友達と一緒が良かったんだ。きっとそう。


「お母さんがいいって言ったらね。私も希実香と同じ学校通えたら楽しいなって。一人で勉強する希実香も心配だし」


「もー!馬鹿にして〜」


むすっと頬を膨らませるが嬉しそうに笑う君。約束だよ、と指切りしてバイバイした。

実際地元の中学に通うのが嫌だった。周りの子より発育が良い私は同年代の平均より豊満な胸をしていた。もっと大人になればこれも私の個性として受け入れられるかもしれないが、今はただ男の目が気になる。クラスメイトの男子は指さして馬鹿にするし、先生は気づかれてないと思っているんだろうけどチラッと見ている視線が私には痛かった。

君がいるから今は前を向いているが、君と離れたら前を向けず、指をさされても何も言えず俯いて顔を振るだけの昔の自分に戻る気がして怖かった。

だからこそもし女子校へ通えるのならありがたい。異性の目がないというのは願ってもない事だ。


帰宅後すぐにお母さんに相談した。私が自分の身体で悩んでいることを知っているお母さんは少し迷ったけど、すぐにいいわよと言ってくれた。お父さんには反対されたけど、私がベッドに入った後にお母さんが説得してくれたみたいで、次の日の朝には行きたければ行けばいい、と言ってくれた。ただ、


「塾は行かなくてもいいんじゃない?勉強なら普段から熱心にしてるし、家でも出来るじゃない」


「え、でも、希実香も行くし…」


「希実香ちゃんと一緒の塾に通いたいのはわかるわ。でもね、星咲学園は私立で学費が高いの。地元の中学に通うのなら塾へ行かせてあげられるけど、星咲がいいんでしょう?それなら少しの間我慢して、星咲で希実香ちゃんといる方がいいんじゃない?」


お母さんの言うことはもっともだ。本当は学費が高くて断られるかもと思ってたくらいだったし。たしかに、塾へ通う期間よりエスカレーターで進学するなら中高の6年間の方が長く希実香といられる。どちらがいいかは明らかだった。


「…わかった。家で勉強する」


「ありがとう。勉強、頑張ってね」



次の日、君に言いづらそうに伝える。


「塾は通えなくても、学校は一緒なんだ!それだけでとっても嬉しい!ありがとう!朱里ちゃん!あ、でも、無理してない…?本当は地元が良かったんじゃ…」


「そ、そんな事ない!私もずっと地元は嫌だなって思ってて…希実香と一緒にいられるのはもちろん嬉しいけど、元々受験は考えてたんだ。だからタイミングが良かったっていうか…」


そんなこと思ってもない。地元が嫌なのは事実だが、受験なんか考えてなかった。君がいるところならどこでも良かったし。


「そっか。ならよかった。中学に入ってもよろしくね!」


「もう、まずは勉強頑張って、二人で合格しないとね」


「ぁ、そうだったぁ……朱里ちゃん、良かったらまた勉強教えてくれないかな…?」


「もちろんいいよ、一緒にしようね」


二人だけの時間が流れる。それがとても心地よくて、暖かくって。ずっとこのままでいたかった。



君に勉強を教えてるのは大変だった。お世辞にも物覚えがいい方ではなかった君に理解してもらうのは大変だった。でもその分沢山一緒にいれる時間は長くて、私も人に教えると理解が深まるからいいことしか無かった。君は塾に通ってたから平日は一緒にいられなかったけど、土日はお泊まりなんかして勉強会をしていた。



そんなこんなで受験を無事?乗り越え(君はなかなか合格せず、最後の2次試験でようやく受かった)、私たちは同じ中学へ通えることになった。

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