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序章 母なる神 1(1)-2 (2)-1

私はそこで、見つけたのだ。聖母の像を。



美しかった。



漆喰の壁は無残に()がれ、

骨組みの木の柱は雨風に(さら)され()びている。

そのような廃屋にあっても、

月明かりに浮かぶ聖母の像は実に美しかったのだ。



両手を胸の前で合わせて(うつむ)き、

静かに私を見つめる聖なる木。



この地の習いにより肩には相克の鳥を休ませ、

足元には予言の猫を眠らせ微笑む母なる神。



高座に安置されたその像の俯き加減は実に絶妙で、

下に佇む者すべてをその慈愛の瞳で見渡すよう緻密に計算されていた。

私は何かに引かれるように像の前までふらりと歩み寄り、

静かに(ひざまず)き、そしてただ、祈った。



何を祈ったかまでは覚えていない。

おそらくはいつもそうするように、

あの時も私は聖母に「無」を捧げたに違いないのだ。



それから私は、その一夜を聖母像の(もと)で明かした。



森の夜風はあまりに冷たく、容赦なく私の体温を奪っていった。

この身に絡みつく「生」はそこでも「死」との境を見失い(ただよ)い始め、

意識の底で揺蕩(たゆた)う私の期待をくすぐった。



もしや、あと一歩で飛び越える。



私は五感を研ぎ澄ませ、

その瞬間を見逃すまいと時の移ろいをじっと見つめ、そして待った。



だからあれは絶対に夢ではない。現実だ。私は今でもそう思っている。



夢ではない。



私が見つめるその前で時間は確かに流れていた。

月明かりが薄れ、暗闇と静寂が世界を包み、

そして(かす)かな夜明けの光が聖母の像を照らし始めた、

その(せつ)()



私は確かに何者かの声を聞いたのだ。



──求めなさい。未来をそこに。



突然の声に驚き目を開き、聖母に見つめられ聖母を見つめ返した私は、

仰臥したまま(ひたい)を手で押さえ、嘲笑した。



未来か。



まったく奇妙な話だ。今の私に未来はない。

未来のないこの私に、神はいかなる未来を与えようというのだ。

それともあれは、私を地獄に引きずり降ろさんとする

識女の誘惑だったとでもいうつもりなのか。



わからない。



その答えを導き出せずに数年が呆気なく過ぎ去った。

私は今でも()()()の焦土を駆け続けている。─────






───── この土地に生まれ育った者であれば誰でもすべからく聖母を信仰し、

聖母を崇拝する。

それは息をするのと同じくらい生きる上で当然のことで、

聖母に祈らぬ姿を想像することさえ我々()()()の民には難しい。



私もそうだ。そうだった。



聖母を信じてその時までを生きてきた。



世界の始まりから存在したという原始の神。すなわち世界の(みなもと)。その最初に根ざした場所を大地とし、広げた枝の先を天と定めた創造の(あるじ)


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